180 染まりゆく世界 (改訂-1)
【染まりゆく世界】をお送りします。
宜しくお願い致します。
二人の姿を土砂降の雨が覆う。
殺気を放つ者と、
殺気を受け流す者と、
世界が黒く染まってゆく。
「そうか……【ファイヤーグランドライン】の攻略組に、ゲームマスターが居るって噂が流れていた。本当だったか……」
「その余裕ぶった態度、気に入らないよ。君を君たらしめているのは、【ファイヤーグランドライン】のシステムのお陰だよ。それを忘れない方がいい」
カズキはそう言いながら、背中の剣を抜く。
「本当にやるのか? 現世に戻る事を考えないのか? 」
「僕達が何故来れたかわかるかい? 」
「……」
「あんたが奴ら偽神達を【ファイヤーグランドライン】に封印したお陰で因果律が崩壊するところだったんだよ。本来ある筈の無いエネルギーと質量が、突然発生したんだ。同等の存在を、この世界に相転移させる事で、崩壊を免れたのさ。わかる? 等価交換したんだよ」
「偽神を飛ばした事で、世界が崩壊する? そうか……おれは妹を殺すところだったのか……それについては礼を言う」
「礼は要らないよ。そのかわり僕と戦って貰うよ。神に選ばれるのは、真に世界を救った英雄か、エセ英雄かを決めようよ」
カズキの剣が流れ込んだ神霊力によって青白く発光する。横殴りの一閃! ヒロトの身体を衝撃波が襲う。ヒロトが眼を離すと、そこには既にカズキの姿がない。ヒロトが左上に刃を跳ね上げると、カズキが振り下ろした剣と衝突した! 神霊力と神霊力がぶつかり、力と力が攻めぎ合う! 光の奔流が弾け飛んだ!!
「流石だよ! だがいつまでついて来れるかな?! 」
カズキの身体自体を神霊力の青白い光が覆う。視界から消えたカズキの気配を察知して、ヒロトはタイミングを合わせて回し蹴りを浴びせた!
「何だと?! 貴様、システムの速度を超えただと?! 」
カズキは信じられないと言う顔を向ける。
「この世界に来て、様々な経験をしたんだよ。【ファイヤーグランドライン】のシステム・アシストを使っていたら勝てない敵とかね」
「……成る程ね。君を甘くみていた様だ……なら、僕の力を使わせて貰うよ」
カズキがそう言った途端、黒い影がいきなり踊りでて来た。ヒロトの首筋を白刃が掠める。避けたヒロトの腹を、更に白刃が襲いかかる。
「クラビス! あんたも来ていたのか?! 」
クラビスも【ファイヤーグランドライン】の攻略組の一人だ。
「お前に恨みは無いが、マスターの意向なんでな。悪く思うな」
腰溜めにもったアサルトライフルのトリガーを引き絞り、ヒロトに弾丸を浴びせた! だがヒロトに着弾する手前で、弾丸が全て止められた!
「物理攻撃無効化だと?! 」
「ならこれはどうだ?!! 」
空間からいきなり鎧に覆われた巨大な腕が生えて、ヒロトを掴みかかる!
「ぐっぐがががぁぁあ!! 」
さらにヒロトの首を絞め上げる!!
次の瞬間、その亜空間からの左腕を肘から断ち切った!!
「?! 誰だ! 」
千場慶次と、カズキの視線の先に、猛禽類を思わせる眼を持った大男が立っていた。
「下郎に名乗る名などない。切り捨ててやるから、さっさとかかって来い」
大男が言い終わる前に、クラビスはコンバットナイフを背中に突き立て様としたが、紙一重でかわし、さらにそのコンバットナイフをも断ち切った!!
「どけ!! リン ピョウ トウ シャ カイ ジン レツ ザイ ゼン!!! 」
千場慶次が両手で印を結び、自らの日本刀に神霊力を込めて、振り抜いた! 強烈な波動が、大男に向かって飛ぶ! が、その波動に合わせる様に、大男も剣を上段から振り切った!
千場慶次の放った波動ごと、後の亜空間から生えた右腕をも断ち切った!!
「ば、ば馬鹿な、空間ごと切っただと?! 貴様!! 許さんぞ!! 」
千場慶次がブチ切れるが、それをカズキは抑え込む。
「一旦引くぞ!! 」
「知るか! こいつを殺す!! 」
「千場!! 僕の言う事を聞け! こいつら、僕たちが来る事を見越していたんだ」
カズキの強烈な殺気で、千場慶次は我に返る。
「見越していた? 」
クラビスはいつの間にか自分のステータスに枝が付けられている事に気が付いた。さっきまでは何も付いていなかったのに。
「トレースを、隠蔽していた? どうやって? 」
「……わ、わかった。だが、次は必ず殺すぞ! 」
千場慶次は、そう言い残して三人を転移魔法で飛ばした。
残されたのは、倒れ込んだヒロトと、激しい雨音だった。
「お、おっさん……助かったよ……」
「おっさん言うな! 」
【染まりゆく世界】をお送りしました。
(映画【サイレント】を観ながら)




