179 雨音に掻き消され
【雨音に掻き消され】を投稿いたします。
宜しくお願いします。
パルミナ連合王国の北部域は年間を通して纏まった雨が降る。それと真逆に南部域では乾燥地帯が広がり、ナイアス大陸南方域有数の砂漠地帯が広がる。エルファンから行軍するその軍は、土砂降の雨の中でも、その速度は変わらない。凄じい訓練の賜物だろう。
「奴らは、トーウル王国を出立し、直ぐに二手に分かれて、九万の軍勢の内、1万五千がアリストラス皇國軍と衝突しました。我らの進行ルートの先に、本隊である七万五千の軍が東に向かっています」
索敵部隊からの報告を受けた美影身は直ぐに行動に移る。
「読まれていたな。流石だ……速度を上げるぞ! 」
さらに馬足を上げて、【黒龍の軍】を追いかける。
「どうするんです? 」
布を顔に巻いた副官の男が、馬足を隊長に合わせて進む。
「あくまで我らは偵察だが、次の行動の為に少し突いてみる」
「器を測ると? 」
「ああ、エルファンの王と、第六天魔王を名乗る男の器を天秤にかけるのさ……行くぞ! 」
漆黒の染まった軍は、さらに速度を上げた。
◆◇◆
最初の一撃は、騎馬の突撃から始まった。
その騎馬を囲う様に、敵両翼が左右から襲いかかってくるが、アリストラス軍の紡錘陣形の中間に位置する銃士隊が左右に攻撃を開始した。敵歩兵は盾を構えるが、それで防げる物ではなかった。
「なんだ? こいつら。銃を知らないのか? 」
ワイアット・アープはライフルで狙撃しながら、手応えの無さに驚いた。
「これはただの足止めだな……奴め、時間稼ぎに送って来たのか! 」
ヒロトは歯噛みした。裏の裏を読まれてしまった。信長はアリストラス軍に銃士隊が居る事を知っている。歩兵などその餌食になると知っていて、敢えてぶつけて来た。だが数では敵が上回る。
「斎藤! 総司! 」
「おう! 抜刀隊! 狙うは敵歩兵部隊の指揮官のみだ! それ以外には目もくれるな!! 抜刀!! 」
後方から左右に歩兵抜刀隊が敵両翼に突入を開始した。
「ヒロトさん! 何かが【黒龍の軍】を追っています! これは……騎馬隊です」
御船千鶴子はヒロトの馬に同乗している。後からヒロトにその都度霊視した光景を伝える。
「……まさか? いや、あり得るか……」
戦略戦術マップを呼び出すと、強い光を放つ光点が東に向かっていた。
◆◇◆
前方の騎馬部隊にいたカズキは、目の前の敵騎馬を屠ながら、少しづつだが、銃士隊の方に左周りで近づいてゆく。
『クラビス、僕の位置がわかるよね? 』
『ああ、マスター。位置はトレース出来ている』
『千場達も横の森林に居る。タイミングは皆んなわかるよね』
『了解だ。いつでもいいぜ』
(さあて、仕掛けは完了だよ。ヒロトさん、僕と遊んで貰おうか)
森林地帯から降り出した雨が、段々と近づいて来た。大粒の雨が降り始める。そのおかげで砂埃が収まるが、今度は雨で視界が悪くなって来た。
騎馬隊が前方の敵騎馬を屠、左右に分かれて、今度は敵歩兵部隊の横腹に喰らいついた。その中から一騎だけ銃士隊に近づく者が居る。雨音に掻き消され、近づくその騎馬は、ヒロトを視界に納めると、騎馬から降りてゆっくり歩みを進める。
その存在が一気に殺気を放出した!
普通の人間にも感知出来る程の殺気が放出されて、ヒロトが乗る馬が暴れ出した。
「どぅどう!! 鎮まれ! ……カズキか?! 」
ヒロトは、手綱を千鶴子に預けて、自らも馬から降りた。
「……カズキ? どうした? 」
「ヒロトさん……僕はね、君が【ファイヤーグランドライン】のベータ版の頃から知ってるんだよ。ずっと興味があったんだ。君がこの世界に召喚されると知った時からね」
「俺が召喚されると知っていた? 事前にか? 」
「そう知っていた。そして、何故選ばれたのが、僕では無く、ヒロトさんなのかと自問したよ。だってそうだろ? 【ファイヤーグランドライン】の申し子は、創造主である僕だ。その僕でなく、貴方が選ばれた理由が知りたいんだよ」
「創造主? ……まさか……ゲームマスターか? 」
【雨音に掻き消され】をお送りしました。
(映画【サイボーグ009 】を観ながら)




