176 獅子身中の虎
【獅子身中の虎】をお送りします。
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ヴァイアの街の犯罪シンジケートは、約十年ほど前にこの地に現れた銀髪の男一人によって、壊滅させられ、その組織基盤はそのまま、ありとあらゆる情報を一手に扱う情報屋ギルドとして銀髪の男が吸収統合した。その組織が元となり、魔導帝国を勃興させた経緯がある。その魔導帝国も災厄の渦が終焉すると同時に崩壊したが、各地にその組織の残滓が残っていた。
先日、その中の最大組織が一人の男に潰される憂き目にあった。とばっちりで、ヴァイアの街に広がった火災は、ヴァイアの大火と言われ、街の約五分の一を焼き尽くす結果となった。その火元である男【千場慶次】が宿屋で燻っていると、いつの間にか周りに四人の気配が現れる。
「趣味が良く無いな〜。いきなり殺気をぶち撒けるなんて」
「いつまで寝てるつもりだ? 」
「見つかったのか? 」
「ああ、アリストラス軍に居る。先ほどヴァイアに軍が入って来た。その行列の中に確認済みだ」
「……もう中枢に入っているのか……好都合だな。クラビスの旦那もか? 」
「いや。クラビスは居なかった。だが大体の位置は掴んでいる」
「で? どうすんだ? 真なる奇門遁甲の秘伝書だったっけか? そもそも本当に有るのか? 」
「真伝は、古代中国で黄帝が、蚩尤と戦う際に、天帝より授かった奥義書だ。この書自体に巨大な力がある。その奥義書を太祖が受け継がれたが、太祖がお隠れになると同時に、歴史から忽然と消えた。我が師父の啓示によれば、約千年前の日本から、このアリストラス世界に我らが太祖と共に召喚されたとの事だ。だが【災厄の渦】での戦いで、太祖は消滅された。しかし奥義書はこの地に残った。その奥義書を回収出来れば、我ら土御門の悲願が達成される」
「親父も元土御門だ。その真伝の価値はわかる。わかるが……本当に有るのか? まあ、俺は金さえ貰えればどうでもいいがな」
「バチカンの犬である貴様は、それ相応の仕事をすれば良い」
その一言を聞いた千場慶次の瞳の奥に宿るドス黒い光には気付かずに話しを進める。
「枢機卿はその真伝のデータを欲している。わかっているよな〜。先日の【平将門の召喚呪物】はあくまでもアルバイトだぜ? 」
一瞬だが、千場慶次の魔力が増大した。魔力が濃すぎて空間に歪みが生じる。
「わかっている。それが契約だからな」
(……こいつ……恐ろしいほどに魔力がある……クルセイダー最強の肩書きは伊達では無いと言う事か……血の十字架を背負う騎士か……)
◆◇◆
カズキは今朝からヴァイアで一番見晴らしのよい楼閣の屋根に寝転がって、鼻歌を歌っている。昨夜遅くまでヒロト達は軍議を行なっていたが、自分は途中で退席し、それからはブラブラしていた。
朝から行き交う雲を眺めている。
『マスター、やっと捕まえた』
『クラビスか、遅かったな』
目の前にクラビスのステータスが画面表示される。連結したパーティ・メンバー間で行う事が出来る念話通信だ。
『転移された所が、なんちゃら山脈のワイバーンとか言う恐竜みたいな化け物の巣だったんだよ。お陰で餌になるところだった』
『それは難儀だったね。で? いまどこ? 』
連結したステータスから、ワールドマップに表示された地点は、パルミナ連合王国領だった。
『簡単に話しを流すな! 恐竜だぞ! 恐竜!! 』
『わかったから、で何処なの? ふぁ〜あぅ……』
『お前、今あくびしただろ! 』
『してないよ。で? 』
『今、パルミナって言う国の国境付近の街だ。なんだかきな臭い感じだ。この地域の兵士が招集されてる。戦でも始まるのか? 』
日差しを避ける為に、頭から厚手の布を被っている。この地域はサウジやエジプトに似た雰囲気があると思う。市場で手に入れた果実を齧ると、イチジクに似た味が口に広がった。
『もう始まってるよ。どうやらかなり大きな大戦が始まっている。剣と魔法の飛び交う戦だ』
『そりゃあ、興味深いな。でどうする? 』
『僕はアリストラス皇國軍という所にいる。ヒロトも一緒だ。これからこの軍はそっちに向かうから、そこを動くな。こっちから向かうよ。千場慶次と四方神も近くに来ているしね」
カズキは殊の外楽しそうだった。
【獅子身中の虎】をお送りしました。
(映画【ジャンパー】を観ながら)




