157 エピソード0 始まりの空 (改訂-1)
【始まりの空】をお送りします。
アリストラス戦記〜災厄の渦より3年後の物語。
宜しくお願いします。
この日差しは京の都のそれより厳しい。
このナイアス大陸の東部に位置する地域は乾燥した大地が広がる為、日の本の多摩丘陵で育った自分にはかなりの負担だ。未だに慣れない。いやな汗が吹き出してくる。
どうやら斎藤さんは城門を突破したみたいだ。かなりの兵を死なせてしまった。本来ならば自分も加勢しなければならないが、目の前の問題を放ってはおけない。この嫌な汗は、この暑さのせいだけではなく、目の前にいる男のせいだ。
「あのさぁ、……総司……さあ心は決まっただか? 」
「……どうしてもやる気ですか? 何故? 」
沖田総司は愛刀【菊一文字】を鞘に収めて、居合いの構えに入る。
「……渡世の仁義ってやつだなゃ〜」
スミス&ウエッソンの拳銃を右手に持ち、だらりと腕は下げている。左手側の拳銃はホルスターに入れたままだ。
「そんな……ビリーさんらしく無いですよ。小次郎じゃあるまいに……あの頃に戻れないのですか? 」
総司はゆっくりと間合いを詰めてゆくが、ビリーはその場から動かない。
「立場の違いってやつだなゃ〜 さてっと……さっさと行かせて貰うだなや〜オラも軍に合流しなきゃならんからよ〜」
総司の目に汗が入った瞬間、視界から一瞬ビリーの姿が消えた。
左側から気配を感じて、飛びず去る。着地地点を狙ってビリーが弾丸を発射した!
(……この殺気は本物だ! 本気で?! )
総司はギアを入れ替えて一気に間合いを詰めにかかるが、追いつけない。ビリーは一定の間合いを守りながら更に弾丸を発射する。
(ビリーさんの動きが捉えられない?! こんなに速かったのか?! )
「剣士が間合い取りで銃士に負けてたら致命的だなや〜本気で来いよ! 本気で! 」
更に二発の弾丸を発射した。それを何とか掻い潜りながら、総司は覚悟をきめた。神速の浴びせ斬りを放つ!!
だがその神速の動きすらもビリーは凌駕した!
「……こんなものか? 仕方がないな。死ね! 」
ビリーは総司のこめかみに拳銃をあてて、引き金を引いた。
ズガァァァァァァンンンンン!!!
乾いた発砲音が平原に響き渡る。
沈みゆく太陽に照らされた総司のシルエットが後ろに弾かれて倒れてゆく。
「……ビリー・ザ・キッド……どうやら本気の様だな……落とされた砦はいつでも取り返せる。国境まで一旦軍を引くぞ! 」
小高い丘から総司とビリーを眺めていた一団が動きだした。
【始まりの空】をお送りしました。
(映画 【クイック&デッド】を、観ながら)