168 熱砂邂逅
【熱砂邂逅】をお送りします。
宜しくお願い致します。
ゴドラタン帝国の帝都スタージンガーからロイドヘブンまでの道のりは、途中、ライアット公国のヴァイアの街を経由して南下するルートが最短だった。六頭立て馬車で、スタージンガーを出て、五日後に国境を越え、ライアット公国にはいった。
「懐かしいな〜。皆んなに会いたいな〜」
総司は馬車の窓に顔をもたれ掛けながら、染み染み呟く。ヒロトもマーリンの事を思い、少し感傷的になっている自分に苦笑いした。
「今日と明日はヴァイアで宿泊して、明後日出立する。今日は呑もう! 」
「そうですね。呑みましょう! 」
宿に荷物を置いて、夕暮れの街に二人して繰り出した。そう言えば、総司と二人で呑みに行く事など、無かったと思い、そもそも歴史的な有名人と、肩を並べて歩いているだけでも奇跡と言えた。そんなこんなで、目抜通りにある居酒屋に入る事となった。二人で焼き魚と、ヴァイアの地酒を頼む。エールだが、度数が高めの辛口だ。
「そもそもだな〜、あのふざけた、ヒックっ! ビリーの野郎がだな〜ウィっ! 」
ヒロトはエールを二杯呑んだだけで、既に呂律が怪しくなってきた、って言うか総司に絡み出した。総司の背中をバンバン叩きながら、ビリーの悪口をうだうだ言いまくる。実にタチが悪い。
「ヒロトさん、大丈夫ですか? お水を飲んだ方がいいですよ? 」
「うるへ〜! あの馬鹿のせいで、ヒックっ! どれだけ苦労したとおもっとるんじゃ?! あ〜! 挙げ句の果てに、なんで織田信長が出てくんだよ〜、明智光秀も召喚しろよ〜! 」
「でも今回は転生ではなく、召喚なんですね? 」
「ああ、生きてる状態で呼ばれてるからな」
二人ともナターシャの事には触れない。アリストラスに到着したら嫌でも触れる事になるからだが、グラウスを思いやり、受けた仕事だが、正直辛いのだ。割り切れない。
「その……巫女ですか? また変な呪いなんでしょうか? 」
「超帝国が次の皇帝を選定する為のシステム……まあ、ぶっちゃけ呪いみたいなもんだが……それに強制されてるのだろうな」
「でもエレクトラさんは、そんな風では無いのでしょう? 」
「ああ、どうも四人の巫女の内、【白銀の巫女】だけは、他の三人とは別格なんだろうな。だから【黒龍の巫女】は、エレクトラを狙っている」
そんな話しをしていると、店の外が騒がしくなって来た。
「何だ? 」
総司が表に出てみると、通りの向こう側、建物のさらに向こう側の空が紅く染まっている。
「火事です! ヒロトさん! 」
総司が言うより早く、ヒロトも表に出ていた。
「殺気が空気に混じっている。総司! 」
言うより前に二人は殺気のする方角に走っていた。
大通りを渡り、向かいの路地を疾走する。避難誘導をしている騎士に止められそうになるが、ヒロトは無視して、更に突き進んだ。
「何だ?! 」
燃え盛る建物から殺気が放たれている。正確には建物の前で、男が燃える炎を観ながら、鼻歌を奏でている。黒いレザーのロングコートを来て、腰には日本刀を下げている。明らかに異様だ。
「……なんだ……邪魔がもう来たか。この世界の警察? 軍? どちらも下らない……」
男は炎に照らされた顔に笑みを浮かべた。
ヒロトと総司の危険察知能力が最大のシグナルを発する。
男が右手を振るうと、ヒロトの目の前に誰かの首が転がった。
「貴様! 捕縛してヴァイアの騎士団に突き出してやる」
思わずヒロトは背中の魔剣サザンクロスに手を伸ばした。
「有象無象が、私を捕縛するだと? 私は今、仕事中だ。さっさと失せろ。せっかく街の塵を掃除してやってるのだ」
総司が一気に間合いを詰め、居合斬りに抜き放つ瞬間、空間からいきなり伸びて来た腕に、総司は突き飛ばされた!
「空間から、腕が生えただと?! 」
魔剣サザンクロスに魔力を流し込み、ヒロトは抜き放った。
目の前の男は、確実に強い!
【熱砂邂逅】をお送りしました。
(映画【クレオパトラ】を観ながら)