高柳義孝③
【高柳義孝③】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「線を切った? うぐぅ……貴様」
高柳は、脇腹を抑えながら、後退した。いつの間にか斬られている。
「眼に見えぬ斬撃よ。気付かなかったか? 」
役小角は、更に笑を深くした。遊んでいるのだ。
「そろそろ飽きてきた。うぬの才は、勿体無いがの。致し方が無い」
役小角か、左手を軽く上げて振り下ろした。不可視の攻撃が高柳を襲ったかに見えたが、
「?! 博人?? 博人か?! 」
義孝は、信じられないと言う風に、突然自分を抱えて飛んだ博人の肩を掴んでゆすった。
「あぁ、父さん、ヒロトだよ。ただいま! 」
「馬鹿な! 確かにお前は、死んだ筈だ。遺体も火葬して、埋葬した?? なぜ? 」
「話しは後だよ。先にコイツを始末する」
ゆっくりと、ヒロトは音もなく着地し、義孝を下ろして、目の前の男と対峙した。
◆◇◆
「始末するだと? 我をか? クッククク……この時代の者は、冗談が上手いのぅ〜 ?! 」
役小角の笑が消えた。大口を叩く目の前の青年の瞳を凝視すると、そこに深淵の闇を見た。
「貴様、なんだその闇は? 」
「闇? 」
「なんだ、自分で気がついていないのか? 貴様の内にある闇の深さを……それは、魔その物だ」
「魔になる? ……そうかも知れない。魔導を極めるという事は、そういう事かもな」
ヒロトの内に内包する圧力が、徐々に高まってゆく。
「魔導を極めるだと? こけ脅しを! 」
役小角は右手を、ヒロトに向けて突き出した。不可視のエネルギーが、周囲の地面ごとヒロトを吹き飛ばした!
「かぁは! 消し飛びおったぞ!? ば、馬鹿な! 」
舞い上がる土煙の中に、変わらず佇むヒロトの姿をみて、役小角は驚愕した。
「我の呪力の波動を浴びて、無傷だと? どの様な鬼神でも消し飛ぶ筈だ?! 」
「……光と闇……相反する力を合わせれば、その力は相殺される。陰陽の基本だろ? 」
「馬鹿な、我に匹敵する力で相殺したと言うのか? そんな者は、この世に存在せん! 我の真理の力を思い知れ」
役小角は、右手の人差し指と中指を立てて、真言を唱え始める。するとヒロトの周りの空間が歪み始めた。
「奈落の底に引き摺り込んで、擦り潰してやる! 」
役行小角が、両手を打ち鳴らすと、ヒロトの感覚世界が、暗闇に閉ざされ、三半規管は落下していると感じた。が、次の瞬間、かわらずそこにヒロトは佇んでいる。
「な?! 貴様、奈落に落とした筈だ?! どうやって?? 」
「貴様が使ったのは真理でもなんでもない。亜空間術式と幻術の混合術式……ただの術だ」
「貴様、我の力を、妖術師などと同じ術じゃと言うか?! 」
「そんな術なら、俺にでも出来るさ」
そうヒロトが呟いた瞬間、役小角の身体は、奈落へと落ちて行った。が、役小角もまた、かわらず同じ場所に佇む。
「ぐぅ……馬鹿な、貴様なにをした! 」
「わからない奴だな、あんたと同じ術を発動させただけだよ」
「馬鹿な事を、我と同じ力を発動させる事が出来るのは、伝説の中に生きる、太公望ぐらいじゃ! 貴様何者だ?! 」
【高柳義孝③】をお送りしました。
(映画【ブラックスワン】を観ながら)




