高柳義孝 ①
【高柳義孝①】をお送りします。
宜しくお願い致します。
漆黒の狩衣姿の男が放った一枚の呪符が、高柳義孝の目前まで飛来し、突然巨大な紙となって、義孝を包み込んだ!!
「爆! 」
男が、右手の人差し指を立て、一言呟くと、義孝を包み込んだ紙が炸裂した! 凄じい炸裂音と煙の中で、青白い光を放つ義孝が、男を睨みつける。
「ほう? 呪禁爆破に耐えるかよ。並の鬼神ぐらいなら即死だがな」
「そんな古臭い術にやられるものか! 」
確かに古臭いが、なんだ?? 現代に伝わる呪禁の術とは何かが違う……それに、初老の男の後ろに居る銀鎧の存在。これも並の殺気では無い。動くそぶりは無いが、全身鎧の為に、その表情が読めない。
「古臭いかよ! あは! ならば貴様の術を見せてみよ!! 」
男は、満面の笑みを浮かべて義孝を挑発する。
「おうよ!! 日の詔を返す、葦原へ入る者に死を! ブルベ ユラユラト ブルベ! 」
義孝が術を唱え始めると、いつのまにか、男の周りに浮遊する物体が現れた。
「式神? いや、違う?? なんだ? 」
5機の自立型ドローンが、男にレーザー照射を行い、そのレーザーの軌跡が呪法陣を描き出す。その5つの呪法陣から、赤黒い無数の棘が炸裂し、男を襲う!
まともに棘の炸裂を、その身に浴びたと思われたその瞬間、全ての棘が地面に落ちる。その運動エネルギーを全てゼロにされた。
「ほぅ! 面白い」
男の顔に笑が浮かぶ。心底面白がっている。
「オン アビラ ウンケン ソワカ!! 」
義孝の真言に答え、5機のドローンから発した呪法陣から、爆炎が男にむかって襲いかかる。義孝自身、腰の太刀を抜き、刀身に呪法を乗せて男に向かって走る。
男が左手を右から左に、空を切る仕草をするだけで、浮遊するドローンが全機墜落した。その一瞬の間合いを、義孝は一気に詰めて、男を袈裟斬りに追撃!
「それで終わりか? 面白い芸であったの。そのオモチャで、通常一つしか作れぬ呪法陣の形成を、肩代わりさせての攻撃。いや、天晴れである。その上で、本人が太刀に霊力を込めての追撃。貴様、陰陽師かと思ったが、武芸も達者か? 」
「ば、ばかな?? 」
確かに斬った筈、いや、斬った手応えがあった。にもかかわらず男は無傷で佇んでいる。
「うぬは中々に面白い。【陽炎】を使わねばならぬ相手が居るとは、この時代も興味深い」
「貴様、いったい何者か?! 」
この異様な男に、義孝はあらためて身構え、ゆっくりと太刀を水平に上げて、剣先を男に向ける。
「我か、我は修験の極みにある者よ」
「修験の極みにあるだと?? 馬鹿な、そんな事がある筈が無い……」
確かに使う呪法は、江戸時代以降に再編された現代呪法のそれでは無い。しかし、平安の古典呪法とも違う……
「どれ、少し趣向を変えるかの」
そう言いつつ、右手を差し出して、人差し指と中指を、クイッと天に振る。それと同時に、男の左右の地面から、巨体が湧き上がる。正に湧き上がると言う表現が正しい。其々が体長5メートルに及ぶ暗黒と呼べる闇その物だった。
「前鬼、後鬼、少し遊んでやるがいい」
男の邪悪さが、その顔に広がってゆく。
【高柳義孝①】を送りしました。
(映画【NANA】を観ながら)




