帰蝶
【帰蝶】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「このまま戻るのか?? 」
九郎が、ヒロトに問いただす。マルドゥクの壺の事が気にかかるからだ。
「あぁ、もう全て理解した」
「?? どう言うことだなや?? 」
ビリーもよく意味がわからない。
「もう手に入れたと言う事だな……」
その時、後方から良く通る声がした。数人の人影が、いつのまにか近づいていた。
「カズキか……」
「ヒロト……貴様が、壺その物という事だな。ファイヤーグランドラインの最上位プレイヤーと言っても、貴様の強さは異常だ。それ以外の因子があると思ってはいた。まさかもう一人の超帝国皇帝候補だったとはな」
「そうだ、そしてシステムは、このエヌマ・エリシュで四人の巫女を俺に殺させるつもりだった」
「四人の巫女は、真なる皇帝を誕生させるための、言わば餌だったと言う事ですか」
これはもう一つの一団から前に出た、諸葛亮の言葉だ。
「全ては、システムが作り出した茶番だったと言う事だ」
「で? 貴様は、四人の巫女を殺して、その力を手にするのか? 」
「俺は、そんな力を望まない……だからこそ京都へ行く。今度こそ、天草四郎時貞と決着をつけ、そしてシステムも破壊する」
「貴様にそれが出来るのか? 」
「出来るさ、もう全て思い出したからな」
ヒロトは、天を仰ぎ見る。その先に何か、得体の知れないモノを見るかの様に……
◆◇◆
航空戦艦アヴァロンのフロントデッキで、ビードロのマント姿の男、白くなり始めた口髭を撫でて。かなり遠くまで来てしまったと、ふっと思った。思えば親兄弟でも心を許さず、全てを疑い生きて来た。実際に裏切る者達を、粛清もして来た。逆らう者は皆殺しにし、全てをこの手に掴んで来た。そんな生き方を悔いた事は無い……いや、帰蝶は、帰蝶だけは、自分の想い通りにはならない女子だった。ああ言えば、こう言う、こう言えば、ああ言う……意見が一致したのは、帰蝶の父親であり、我が義理父である斎藤道三と、その息子である斎藤義龍との戦に加勢すると言う意見。そして、安土城築城の際に城の真柱に使う木材を、伊勢の巨大杉を使い、その工事を完遂させるという意見だった。だが、その帰蝶が病にふし、余命いくばくも無いと知った時、自分の中で何かが壊れた。そんな折にこの世界に飛ばされた。正直ほっとした。帰蝶の病の結果から逃げ出したのだ。初めて自分に負けた瞬間だった。
「そう……わしは、逃げたのだ」
帰蝶と顔を合わせてなくて済むと思った瞬間、自分に負けたのだ。その時、自分が許せなくて、左の手の甲に刃を突き立てた。
「……そうか、わしはそんな考えを起こさせた、システムとやらを、破壊せねば気が収まらぬのだ」
そう思った瞬間、頭の整理がついた。
「スレイン、行くぞ! 」
「は! してどちらに? 」
学者然とした男は、銀縁眼鏡を人差し指で押し上げて、分かりきった事を確認する。
「京の都じゃ! 上洛する!! 」
【帰蝶】を、お送りしました。
(映画【スワローテイル】を観ながら)




