166 黒龍の巫女 (改訂-1)
【黒龍の巫女】をお送りします。
宜しくお願い致します。
ヒロトが街で彼に遭遇したのは偶然だった。
腹が減った為に入った焼き鳥屋で、派手な羽織を来た男を目にした時、涙が溢れてしまった。帝都城塞都市スタージンガーの目抜通りから少し中に入った場所に露店がならび、その更に奥にその店はあった。グラウスに報告に行く前に腹ごしらえの為に立ち寄った場所にその男は居た。余程縁があると思える。
「行き倒れてた所を、四日ほど前に彼女に助けられました」
沖田総司は、器用に箸で豆を摘んで口に放り込みながら、カウンターの向こうで鳥を捌く女の子を見る。
「行き倒れって、グラウスに会いに行けばよかっただろうに? 」
「……道に迷ってしまって……」
どうやってあんな目立つ城に行きつかないのか……
「それで焼き鳥屋の皿洗いか」
「面目ない。一文無しだったから……」
総司はばつが悪いのか、頬っぺたをボリボリかく。剣を抜いた総司からは、想像出来ないほどに、オドオドしている。
「それより、ビリーに会ったよ」
「ビリーさんに?! 彼もこっちに来るんですか? 」
「ああ、ネギまを追加、あと砂肝にツクネ! 」
「あ、はいはい」
総司はテキパキと準備してくれた。実に板についている。
「……あいつはここには来ない」
「何してるんです? アリストラスに向かってるのですか? 」
総司がヒロトの目の前に焼き鳥の皿を出してゆく。
「はふ、はふ、美味いなこれ。あいつはブランデン連合軍にいる」
「噂になってる有象無象の軍ですか? 」
「有象無象だったんだか、今はもう違う」
ヒロトは熱いお茶をすすって、一息ついた。
「いまあの軍を指揮しているのは召喚者だ。それもある意味最高で、ある意味最悪の……織田上総介」
「信長ですか??! まさか? 」
「そのまさかだ……」
◆◇◆
ヒロトと総司がグラウスの執務室に到着したのは、夕方だった。あれから焼き鳥を更に追加して、少し酒を呑んだ。
グラウス皇帝はそんな事を気にする風もなく、二人を執務室に案内してくれた。
「報告してくれ」
グラウスが勧めてくれたソファーに深く座って、何から話せばいいか一瞬だけ考えたが、
「例の軍。やはりとんでもない召喚者が指揮している。俺や総司と同じ日の本の男だ。時代は総司が居た頃から三百年ぐらい前か……当時は第六天魔王と自ら名乗っていた」
「その男の目的はやはり……」
「多分、エレクトラだろう。白銀の巫女を殺す事が第一目標だ。だがあの男がシステムに影響されていたとしても、自我を忘れる事はない。奴は世界を欲している」
「その男は誰に召喚されたかわかるか? 」
頬杖をつきながらグラウスは、俯き加減に問いかける。その表情は見えない。
「……黒龍の巫女だろう」
「……やはりか……何故こうなってしまった……」
グラウスは沈んだ声を絞り出す様に溜息と一緒に吐き出した。
【黒龍の巫女】をお送りしました。
(映画【アマデウス】を観ながら)