165 東堂詩織 (改訂-1)
【東堂詩織】をお送りします。
宜しくお願い致します。
「現在、ブランデン連合軍は、その数八万を超えてなお増加中です」
カマール平原に布陣したブランデン連合軍は、動く気配を見せなかった。そこに布陣すれば周囲から更に兵が集まるとわかっている様だ。
「このまま指を咥えて見ているのか? 」
ナイト・オブ・ラウンズの左翼一位にして、第一騎士団団長ライラック・バルバロッサはテーブルを叩く。
「陛下が動かれない以上、我らは我らの出来る事をするだけだ」
ジークフリード・ランドルフは、ゴドラタン帝国とナイアス大陸東方地域との国境が描かれた地図を凝視しながら歯噛みした。
「我らの先発部隊は、国境警備部隊と合流し、国境にある村々の避難をさせている。受け入れ体制はフェルミナが調整中だ。そしてここと、ここ……この線を越えられると、次の防衛線を構築するのが難しい。第二騎士団を配置する必要がある」
ヨシア・グローリアスは軍略棒で国境の要衝を指し示してゆく。
「第三騎士団の編成が間に合わない。第二騎士団を出せば帝都が裸になるぞ? 」
フェルミナ・マッケローニは帝都防衛騎士団としての見解を述べる。ここを抜かれると後が無い。
そうこうしていると、伝令が幕舎に飛び込んで来た。
「報告です! ブランデン連合軍が移動を開始しました」
「国境へか?! 」
準備が間に合わない。
「それが、西に向かっています」
「何だと? グランパレスに向かっているのか? 」
ジークフリードは、召喚者だと言う敵軍の将の思考が読めなかった。いやこの時点でその思考を読めていたのは、この場に居ないグラウス皇帝だけだった。
◆◇◆
「この臭い……」
東堂詩織は、ステータス画面を呼び出して自身の確認を行いながら、同時に索敵も忘れない。自衛軍時代からの習慣だった。自分のステータスに紐付けされた部隊の者達も同じ場所に転移している。だが【風見鶏】や【アンゴラの魔人】など他のメンバーとは別々になってしまった様だ。だが【ファイヤーグランドライン】のシステムのおかげで、チームメンバーとは念話通信が可能だったが、余りにも距離が離れるとそれも阻害される様だ。
「戦闘です。二時の方角、約三キロ地点」
戦闘ヘルメットを着用した副官がチームの連動確認を行う。この世界でも何故かネットワークが使用可能だった。
「先ほどの化け物共とは違いますね隊長? 」
「これは人間の血の臭いも混じっている。戦の臭いだ」
直ぐに東堂詩織は思考を巡らし、結論を出す。
「第一目標は、【風見鶏】との合流、第二目標はこの世界線にあると言う【特異点物質】の確保。夜明けと共に南下する」
【特異点物質】とは【風見鶏】の推測だが、現世に戻る為のトリガーになる物との事だ。強制的に相転移した我らだからこそ、元に戻ろうとする力が働く。その特異点を探すことも目的の一つだった。
昨日、現地の人間を捕獲した際に持っていた金貨。その金は限りなく純金に近い。この世界の資源を確保出来れば莫大な利益になる。今回の調査次第で現世はひっくり返るだろう。
「上手く自衛軍を送り込めれば広大な地域を手に入れられる。アメリカよりも先に動かなければならない……」
その為の障害になるであろう者は始末する必要がある。
「不愉快だが、兄上と合流しなければならんな……」
空気が澄んでいる為に星座がはっきりと見える。この美しさ、この大気の汚れの無さ。それだけでも手に入れたいと思った。
【東堂詩織】をお送りしました。
(映画【ブレードランナー】を観ながら)




