164 蒼炎の巫女(改訂-1)
【蒼炎の巫女】をお送りします。
宜しくお願いします。
最初は点でしかなかった。
その小さな反乱の火は、異世界から召喚された一人の男によって、炎と化し、そして飛び火した炎は、更に寄り集まって焔となった。小さな炎が、ブランデン王国直轄の城塞都市を落とすと、その噂が広がり、他の炎を誘発した。噂が噂を呼び、さらに広がる。その炎と焔がまさに集結し始めている。
「最初はただの農民一揆でした。それが何者かによる扇動と軍事的な指揮によって次々とブランデン王国の衛星都市を落とし、その駐留軍や自衛軍を、吸収し勢力を拡大し、現在の戦力は一万を超えてなを増加中です」
ゴドラタン帝国のナイト・オブ・ラウンズ筆頭であるジークフリード・ランドルフはナイアス大陸東方地域の地図に指し示しながら、説明する。
「この各地で発生した点と点が集まり始めています」
「その点が集結した場合、その勢力はいくらになる? 」
ゴドラタン帝国皇帝グラウスは、地図を見つめながら、頭の中は忙しく戦略的な計算を行なっている。
「ヒロト殿と各地に送った使い魔からの情報を纏めますと……」
「歯切れが悪いな、はっきり言え! 」
「は! 総勢八万を超えまする」
一斉に集まった重鎮達に動揺が広がる。
「ぬかったわ! なんと言う事だ。この余がここに至るまでに、動けなかった。至急、エレクトラ陛下にもこの事をお伝えしろ! 我が軍のすぐ動かせる兵力はどのくらいになる? 」
「現状、各騎士団、軍団に動員をかけても、約六万がせいぜいかと」
ナイト・オブ・ラウンズ第三位エルトリア・タイランドは各軍団の兵站を、担う地位にある。
「直ぐに各貴族に招集をかけろ、国境に防衛線をはる! 」
◆◇◆
「蒼炎の巫女よ、紅蓮の巫女は召喚を終えたぞ……」
灰色のローブを纏う者の声は女のものだった。祭壇の前でうずくまる蒼炎の巫女と呼ばれた少女の青い髪を撫であげる。白い砂に覆われた世界。化石化した巨木が支える砂の天井から、時折砂と光が降り注ぐ。広大な地下空間に祭壇が設てある。蒼炎の祭事場と呼ばれる聖域に二人の影が青白く滲む。
「問題ない。我の召喚も最終段階だ」
青い髪の少女は灰色のローブのフードを下ろして、中から現れた碧眼の美女に口づけをする。
「エルファンの軍勢の準備はもう出来ている。虐げられた我等の悲願の為に……」
少女はさらに力を込めて美女に激しく口づけをする。
「世界に巻かれた種は芽吹き初めている。災厄の渦が呼水となり、システムの、目覚めを促した。全ては計画通り……其方の愛の為」
二人の影は祭壇の床に落ち、溶け合った。
◆◇◆
斎藤はアリストラスの騎士団の練度に舌を巻いた。かなりのレベルに達していると思う。これも災厄の渦を経験した為だろう。人は生死の狭間で剣を振るうと、訓練などと違い一気に成長する物だ。実戦に勝る経験はない。だがそれは普通の兵士の話しであって、新撰組三番隊隊長の斎藤一と比べる事は出来ないが……
「……総司も化け物だったが、斎藤殿も負けじと化け物だな……」
シリウスもカルミナもあっけに取られる。災厄の渦を潜り抜けた歴戦の騎士達が子供扱いされていた。大体、斎藤に武蔵と総司が立ち合った話しをしたら、本気で悔しがっていた。武蔵と戦いたがる神経を疑う。またカズキも凄じい身体能力がある。騎士五人の動きを、あっという間に封じてしまった。斎藤がカズキに立ち合いを持ちかけたが、興味が無いとかわしていた。ワイアットの実力はビリーと拮抗したものだろう。単純な早打ちならワイアットが上かも知れない。問題は千鶴子だった。彼女の先読みの能力は凄いを通り越している。未来予知と言えるレベルだった。
御船千鶴子。幼少期より類い稀なる霊力を発揮し、物心ついた時には既に遠くの物や物事が見える千里眼や透視、念動の力があった。女学校時代に東京帝国大学の福来教授に見出され、超能力開発を行った。手をかざすだけで病人を癒す事まで出来る様になるが、心無いマスコミや大衆によって詐欺師扱いされ、最後は非業の死を遂げる。幼少期に安倍晴明の直系の陰陽集団、土御門一門によって何らかの封印を行われた形跡があるが、何の為の封印かは不明。
【蒼炎の巫女】を、お送りしました。
(映画【剣客】を観ながら)




