254 混沌の渦へ
【混沌の渦へ】をお送りします。
宜しくお願い致します。
既にハヌマーン二機が、大空洞に侵入してしまった。このままでは、帝都防衛騎士団が壊滅する恐れがある。大空洞の入口まで来たヒロトは、立ち止まってグラウスの前に周り、その額に人差し指をあてる。
「私は大空洞に行った事は有りませんので、陛下の記憶を使わせて頂きます」
そう言って、グラウスの額から指を離したヒロトは、その指を自らの額にあてて、目を瞑る。
グラウスが瞬きした瞬間、そこは大空洞最下層、アヴァロンの直ぐ側だった。
「なんと!! 」
ヒロトは、人の記憶を読み取って、空間転移して見せたのだ。
(この男、三年前とは魔力の質も、量も段違いに成長している……)
「陛下……」
ヒロトが見つめる先に、ナルザラスが佇んでいた。あたりには焦げ臭い匂いがする。凄惨な光景が広がっていた。帝都防衛騎士団の選抜部隊は既に壊滅していたのだ。
「ナルザラス……我が師よ……何故だ? 」
グラウスは、目の前の男を哀しい目で見つめ返した。
「何故と、問われまするか? 私は【神巫】です。そのお役目は、産まれた時より定められた事。我ら【神巫】の遺伝子はシステムによって設計され、システムの為だけに存在を許されていおります」
ナルザラスは、そう言いながら手に持った杖を、アヴァロンに翳す。すると、アヴァロンの船体に眩い緑色の光が、船首から船尾に向かって走る。
「これで、アヴァロンは目覚めました。あとは、ナターシャ様をお迎えするだけ」
「ナターシャを解放しろ! 何故エレクトラ陛下ではいけないのか? なぜ殺し合う必要がある?? 」
「四人のうち、残った者こそが、強き超帝国皇帝となる器。システムが最後に施す【試し】」
「そんな事の為に民衆を巻き込んで……」
「……ヒロトよ、それは戦国では当たり前の事よ。実力も無い者が、人の上に立てば、それこそ悲劇ぞ」
いつの間にか、織田上総介信長が、そこに佇んでいた。
「貴様が、織田上総介信長か? 」
グラウスは、信長の剣の間合いをはかる様に、少しづつ移動する。
「である……貴公が、グラウスか? 噂は聞いておるぞ。千年たっても、この世界を手中に出来ない男だとな」
信長が、指をパチンっと鳴らすと、二機のハヌマーンが躍り出て、信長の左右に着地する。そのハヌマーンからスレイン・東堂・マッカートニーも着地して、アヴァロンをみて、口笛を鳴らす。
「我がボナパルト家は、現世での過ちを繰り返すつもりは無い」
「その甘さが、世界に火種を作っていると、何故気づかぬ? 」
信長が上げた右手を、軽く振り下ろす。それに合わせてハヌマーンの全面装甲が跳ね上がり、超高熱ビームをグラウスに照射した!
「?! ほう? さすがよな〜」
信長は素直に感嘆した。ヒロトが翳した手の前に、不可視の障壁を構築し、ハヌマーンのビームを塞ぎきったのだ。そのままヒロトは、その左掌に神霊力を一気に集中させて一言、
「魔弓獣呪断層」
ヒロトが小さく呟く。するとルーン文字が左腕に浮かび上がり、高速回転、それが掌に吸い込まれたと思った瞬間、凄じい指向性エネルギー波が、信長に襲いかかった!
その信長を庇う様にハヌマーンがその身を盾にして、エネルギー波を防ごうとする。だが、あろう事かハヌマーンの装甲が溶解したのだ!
「馬鹿な?! ヒヒイロカネ製の装甲が?! 」
スレインは信じられないと言う顔をしたが、学術的興味が上回り、思わず笑みを溢した。時間軸の存在しない装甲材を溶解させる魔法とは何なのか?
ハヌマーンの装甲を溶解貫通し、内部構造体が爆裂した。炎を上げてハヌマーンが起動停止する。
【混沌の渦へ】をお送りしました。
(映画【夏の終わり】を観ながら)




