252 誰が為に鐘は鳴る
【誰が為に鐘は鳴る】をお送りします。
宜しくお願い致します。
アヌビス率いる冥界の軍勢が、ハヌマーンを尻目に疾走し始めた。木々を薙ぎ倒し、凄じい暴力装置と化したその軍団が目指す先は、
「ふっ! ここを直接狙うつもりか?! スレイン!! 」
思わず信長の顔に笑みが広がる。
「御意! 第一から第三部隊は、敵戦車の侵攻を食い止めろ! 銃士大隊は防御迎撃開始!! クローディア! 」
スレインは傍に佇む女性に声をかける。
「は! 敵軍団を殲滅致します」
風に靡く長い髪が、銀色に発光する。見た目は絶世の美女で通る風貌だが、彼女こそは、スレインがその生涯をかけて開発した、スーパー・バトロイドと言われる世界で唯一の量子AI搭載型殺戮機動兵器である。
一瞬にして、アヌビスの冥界軍の前に着地したクローディアは、その左手をゆっくりと軍勢に向かって上げる。腕の人口皮膚が上下左右に開き、スーパーチタン合金の骨格に搭載された機械が剥き出しになる。その内側に青白い光が収束したかと思われた次の瞬間、冥界軍の戦車部隊を、連続した炸裂が襲いかかった!!
「……凄じいな、なんだアレは? 」
信長はクローディアの攻撃にいたく関心した。
「そうですね……簡単に申しますと、空間を捻って、その空間が元に戻ろうとする際に発生する熱エネルギーが、炸裂している状態と言いますか……」
「貴様は、時々、日の本の言葉では無い言語を話しよるの〜ちんぷんかんぷんじゃわ……」
「まあ、とりあえずクローディアは、地上最強の兵器という事ですな」
そんな事を言いながら、クローディアを見つめるスレインの瞳は、まるで恋人を見る瞳のそれであった。このスレインの凄じい所は、この短期間に、クローディアの動力源である反物質ドライブに、アリストラス超帝国のテクノロジーの結晶たる霊体ドライブを連結させた事だった。知的生命体の魂を動力とするアストラル・ドライブを亜空間収納の技術を応用して小型化に成功。二つの異なるエネルギー発生器を連結稼働させると言う離れ業を達成したのだ。
◆◇◆
「人形の機械兵士?! エルトリア! 」
フェルミナが叫ぶと同時に、エルトリアは既に詠唱を完成させていた。
「死徒拘束陣!!! 」
エルトリアが発動した魔法陣が、クローディアの足元に展開され、その中から黒い無数の帯状の物体が、クローディアの身体に巻き付き、その動きを拘束する!
(クローディア、どうした? )
クローディアと意識連動したスレインの脳に、クローディアの思考が流れ込んでくる。
(霊的な力による拘束です。我々の物理学的に処理不能な別世界の方程式が関与しています)
(……ならば、封印解放を許可する。この世界線の方程式に関与せよ)
(封印解放、承認しました。アップロード開始します……プロテクトオープン……3……2……1…… )
「なんだ?? 」
確かに封印した筈だ。アーク・デーモンでも封印可能な、閉鎖空間を脱しただと??
エルトリアは、さらなる詠唱にとりかかろうとした瞬間、その自らの胸から生えた美しい女の腕を見た。
「ガッハ!! ば、馬鹿な?! そ、そん」
最後は声にならない呻き声となってしまった。
「処理しました。次に移ります」
エルトリアの血に塗れた腕を一振りして、その血を飛び散らせ、次の獲物を探す。
「何だと?! エルトリア!! 」
ソリウリスと目が合ったクローディアは、超加速を使い、一瞬で距離を詰める。それに反応したソリウリスは、やはり只者では無かった。
「月影!!! 」
ソリウリスの放つ槍の刃先は音速を軽く超えて、クローディアの頭と胴体を切り離した筈だった! だが、ソリウリスが見上げた景色に映ったのは、ソリウリス自身の、首の無い身体だった。一瞬の差が、生死を切り離す。
「ソリウリス!! おのれ!! 」
妖弓を引き絞り、三連射した。三本の矢は、それぞれが違う方向に飛び、一本は正面からクローディアに突入した! 魔力が練り込まれた矢は、クローディアの電磁結界を貫通したが、腕に掴まれて粉砕された。
さらに二本の矢が左右から飛来する。
「ヨシアさがれ!! 奴の強さは異常だ!! 陛下に合流しろ!! 」
フェルミナの絶叫が、戦場に響き渡った。
【誰が為に鐘は鳴る】をお送りしました。
(映画【ヤングシャーロック ピラミッドの謎】を見ながら)




