165 召喚者達 参(改訂-1)
【召喚者達 参】をお送りします。
宜しくお願いします。
ヒロトはビリーとの並行線な会話を切り上げて酒場を後にした。ゴドラタン帝国からの使い魔からの情報で、新たな召喚者の所在が判明したからだ。
「あの頑固者め! 」
悪態をつきながらその指定されたポイントへ向かう。カームの街を出て、さらに南東方向に向かって半日、小高い丘を登ってゆく。この地域にはアリストラス超帝国時代に作り出したミュータントの類が跋扈している。ゴブリンやオークなどの妖魔と違い、人工的に作り出された生命体達だ。アリストラスの負の遺産……
「……何だ? 焼ける匂い? 」
丘を登り切ったところで、ヒロトは身を伏せた。黒い煙が辺りに立ち込めている。鉄や人間が焼ける悪臭が漂う。そこには軍隊と呼べる規模の集団戦闘が行われていた。
「戦か……グラウスから連絡のあった例の軍か? 」
元々はナイアス大陸東方地域を支配している宗主国のブランデン王国の治世に不満を持った農民が反乱を起こし、近隣の村や街の独立勢力や自警団を吸収して巨大化した軍だ。その勢力が急拡大して、隣国のゴドラタン帝国国境にまで迫っていた。
ヒロトはもう少し後に下がって、戦略・戦術空間モニターを開く。そこに表示された軍隊のデータでは、兵数五千七百とある。これが反乱軍の兵力だ。対して押し負けている方の兵数は千二百。
こんな平地でこの兵力差は如何ともし難い。
「やられている方はこの地域の地方都市勢力だな」
情報だと反乱軍に新たな召喚者がいるとある。
「……かといって、何方の味方もする訳にはいかない」
どうしたものかとヒロトが思案していると、少数の騎馬が反乱軍に合流してくる。
「あいつ! 」
ヒロトは目を疑ったが、確かにビリーと、さっき酒場にいた取り巻き連中だ。反乱軍の本陣に向かって行く。という事は奴ら側の何者かにビリーは召喚されたのか?
◆◇◆
ビリーが召喚された後、まず行った事はカームの街の闇に潜って、街を取り仕切る連中を制圧する事だった。あっと言うまに複数のギャングやシンジケートを一人で潰して回り、半月もかからずに闇社会を支配するに至った。その中から腕に覚えのある者達を選りすぐり、いまこの反乱軍に合流している。
ビリーは反乱軍の本陣にあるひときわ豪華な幕舎の入り口を潜って、迷う事なくその男の前に立った。
「カームの領主の娘を抑えた。奴らは駐留軍を動かさない」
攫ったわけでは無く、勝手に娘がついて来てしまっただけだが……
「流石だな。大義! 」
黒のビロード生地に銀糸で紋様を刺繍した艶やかなマントを羽織った男が出迎える。ビリーはこの男とブランデン王国の近隣にある小さな町で出会った。その町にある小さな聖堂に二人して倒れていたのだ。正確には三人だが……ビリー以外は訳もわからず途方にくれていたが、ビリーは四年前と似た状況だった為、すぐに飲み込めた。その事を二人に伝えてやると、流石に召喚者らしく、直ぐに理解した。そこからは怒涛の日々だった。男はやけにカリスマ性があり、説得力もあった。飢饉と増税で苦しむ村々の若者達を吸収し、一大勢力を形成し、ブランデン王国に対して反旗を掲げた。
「ヒロトに会っただよ」
ビリーは背負っていたショルダーバッグを床に置いて、汗を拭いながら話しを続ける。
「言っていた前回の仲間か? 」
「ああ、多分ここにくると思うぜ〜」
「面白い。一人で万の軍勢と渡り合えるその力量を見てみたいものだな」
「そんな事を言ってたら、本当にこの軍も危ういぞ」
「それ程にか? 益々会いたいな……」
「殿! 敵が引いて行きます」
伝令兵が報告に飛び込んでくる。ビリーがこの反乱軍を離れて半月が経ったが、たったの半月で有象無象の反乱軍兵の規律が整い始めていた。小さな戦を繰り返して、流れで練兵を行うと言ってはいたが、ここまで軍の統率を行うとは……この男は、やはり戦い慣れている。そして人を使う事に慣れている……良い意味でも、悪い意味でも……
「追い討ちはするなよ……必死で逃げる者は何でもやるからな。無用な被害を出すな! 」
「は! ではその様に伝令いたします! 」
そう言い残して伝令兵は走り出て行った。
「凄いもんだなや〜、ちゃんと軍になってるだなや」
ビリーは素直に感動した。
「まだまだだな、まだ兵としての本質がわかっとらん。こいつらは皆、自分らの家族の事しか頭にない。自分達の食い扶持が守られるだけでと考えている……それでは欲が足りぬ」
「欲が足りない? 」
「欲望をもっと出さなければ、兵として本当の働きは出来ん。だからまだまだだ」
ビリーはわかる気がした。欲望は向上心に繋がる。向上心が強く無ければ良い働きは出来ない。道理だ。
するとまた伝令兵が駆け込んできた。
「凄じい化け物が! 」
【召喚者達 参】をお送りしました。
(映画【ザブングル】を観ながら)




