第壱怪 迂回の辻
私は通勤に車を使っているのですが、今回は帰り道で遭遇した怪異についてお話しします。
これからここに綴る事象は、私が住んでいる部屋、そして、この街で遭遇した怪異についてのものです。
解決していない案件や、現在も続いている怪異などもあります。
尚、お目通し頂いた後に何が起きても、作者は一切の責任を負いません。
気になる方は、お祓いされることを推奨致します。
【迂回の辻】
その日は、渋滞を回避するため、裏道を通って帰ることにしました。
そこは宮司さんなどが居ない無人の神社のすぐ脇を通る細い道で、街灯は灯っているものの、周囲の木が光を遮り、黒の濃い道を作り上げていました。
何度も通っているので特に気にもせず、お気に入りの曲を聴きながらハンドルを握っていると──
「枝を切らないと、ここの標識見落としそう」
十字路手前に立つ一時停止の標識と、その近くに女性が立っていた。
チェック柄のマキシスカートに白いセーターを着た女性が、道路を横断しようとしている訳ではないはすぐに分かった。
歩道に接する石垣に不自然なまで近づき、またそちらを向いていたからだ。
なるべく視界にいれないように進む。
もちろん一時停止はしっかり守りつつ、私は十字路を抜ける瞬間、サイドミラーを一瞥した。
直後の後悔。
女性の体はこちらを向いているのに、顔だけが無かったのだ──
「何もしてあげられません。何もしてあげられません」
それだけを繰り返し呟きながら、私は出来るだけ明るく人通りの多い道へ車を走らせた。
無事に家に着いたのだが、問題は翌日起こった。
「……何これ。乗ってたってこと?」
昨日は気付かなかったのですが、助手席側の天井、しかも車内に、はっきりと指の跡が残っていたのです。
まるで血の付いた指で何かを掴もうとしたような跡が。
その後、お祓いを受けた私は、すぐにその車を売却し、それからというもの、日中であっても決してあの道を通ることはなくなりました。
その時、写真を撮ったのですが、今もスマホのフォルダに残ったままです──
車での怪異との遭遇は、他にもございますので、また別の機会に綴らせて頂きます。
お読み頂いた皆様に、穢れが寄り憑きませんように。
次回は不思議な夢についてのお話です──