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手紙

 非日常究明クラブ雨中の活動は、放課後すぐに人面蛙じんめんあ探しに乗り出す方向でまとまった。

 「探すなら雨脚が弱まっている今よ!」

 やる気を起こした立花は最短・最速を好む。いったん部室に再集合するなり雨合羽を用意せよと僕を急き立てた。

 僕もそのあたりは心得ているので、急にご無体な──とはならず、持参してきたフード付きの防水服を二着、部室のロッカーから出して机に並べてみせた。


 「栄之助にしては準備のいいことね。動きやすさまで考慮してあるなんて」

 「伊逹に福部長やってないからね」

 クラブ結成以来、気まぐれ部長の我儘につき合わされてりゃ嫌でも阿吽の呼吸を体得するさ、とは心の中でつぶやくにとどめておく。

 「僕は紺色のほうを着るよ。立花は赤いのでいいね?」

 「二択しかなくて、わたしのサイズに合うの赤いのだけなんだけど!」

 スカート着用のまま防水服のズボンに足を通し、えいやっとたくし上げる。この豪快さが常に良い方向へ発揮されていれば、周囲は幸せなんだけど。


 「ひさしぶりの我が部らしい活動ね。血が躍るわあ」

 「人面ガエルが実在して、捕獲に成功したら大ニュースだよ。石神井先生の墓前に報告しなきゃね」

 一瞬、まあまあの美少女顔が苦々しく歪んだ。

 「う、うん。教え子の手柄を喜んでくれるといいんだけど」

 そこで何を思ったか、窓へ向かうとサッシを勢いよく開けてから、しばらく無言で濡れそぼった世界を見つめ続けた。


 「どうした立花?」

 返事がかえってきたのは二回めだった。

 「栄之助──わたしね、今日の冒険の成否に関係なく、人面ガエルの探索が終わったら、あなたに聞いてほしいことがあるの」

 やけに重い口調、やけに静かなまなざし。

 聞いてほしいことってなんだ? まさか、まさか。


 「学年十位以内をキープしている秀才の相談に乗れるかなあ? どんな内容か聞かせてもらっていい?」

 「前もって話したら意味ないでしょ! それにあんたにしか言えないことなの!」

 わざと肩をぶつけて、乱暴な足取りで立花は部室を出る。

 立花……君はやっぱり石神井先生のことを……。

 「ほら! あなたもさっさと雨合羽を着て追ってくるのよ!」

 「わかった」


 部長の足音が遠ざかるのを確認してから、僕は制服のポケットから一通の手紙を取り出した。

 秘め事を明かすような思わせぶりな筆致で“栄之助へ”と書かれている。

 ちょうど三か月前、すなわち石神井先生の訃報を聞いた日、教室の僕の机の中に入れてあったものだ。以後、思うところがあって、ずっと肌身離さず持ち歩いているので、すっかりクシャクシャになってしまっているが。


 自分宛と明記されている以上、遠慮する必要もないので内容には目を通しているし、差出人が誰なのかも知っているけど、今は伏せておくことにする。

 ただ、校内で僕を栄之助と呼ぶ女子は立花しかいない。


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