14 向き合う物
遅くなり申し訳ありません。
本日中に完結しますので、よろしくお願いします。
お茶会を終えて戻ると同時、送るのに着いて来てくれた執事から伝言があった。
一人一人との時間を大事にするので、晩餐会は廃して各々の宮に食事は運ばれる、という事だった。
最後の晩餐会だけは予定通り行うようだが、一人一人に対して私に対するような用意をするとなると、殿下の執務時間も大幅に減るのかもしれない。
快く了承して、今日はもう楽な格好に着替え、次のお茶会である4日後までに自分の気持ちとしっかり向き合うことを決めた。
ランドルフ殿下のことを少し話してもらえたこと、そして、私に何を求めているかを……知ったことは、大きな収穫だったといえる。
自分がいかに全体ばかりを見て個を見ていなかったかは反省した。そして、ランドルフ殿下はそれを見透かすように2人きりでの時間を作るよう取り計らってくれた。
今日はその一歩。私が見るべきは他の令嬢や王宮という場所ではなく、ランドルフ殿下なのだと明確に意識することとなった。
(私は……ランドルフ殿下は、嫌いじゃない)
ただ、どうしても彼にはついてくるのだ。王太子、という身分が。そして、王太子が最終的に国王になること、その妻になることを考えると、どうしても私の心は……今日、彼に抱いた好意に近い何かを否定してしまう。
(嘘吐き癖が出てるわ、違うの、それは……今は、まだ考えなくてもいい、はず)
家柄は釣り合っている。でなければ『リリィクイン』として選ばれはしない。
能力も、王太子妃候補として選ばれた後の教育次第でどうとでもなるだろう。その辺は小器用な自覚があるので、教育があればなんとかなる、とは思える。
(では、問題は何……? 私は何から逃げ出したかったんだっけ……)
そもそも、王太子妃候補から降りたとして私は何がしたかったんだろう? 考えれば考える程、ただただ「面倒くさそう」「そんな重責耐えられる訳がない」という頭からの決めつけで蔑ろにしてきたのではないかと思う。
楽しく、和やかに日々を過ごして平穏に王宮を去る。その為に吐いていた嘘なのに、今は自分の気持ちにすら嘘を吐いてしまうようになってしまった。
これがいいことだとは思わない。思えない。自分に嘘を吐くことだけはしてはいけないよ、と祖母にも言われていた。
(自分に嘘を吐くのは……)
私自身の考えや意思を迷子にさせるから、と。
今まさに迷子真っ最中だ。今まで吐いて来た嘘が悪かったとは思わない。けれど、まっすぐ他人に向き合う力というのは、随分私の中では未成熟なようだった。
ほんの少しの仕草でさらさらと流れる絹糸の髪、黒曜石の深い黒の瞳、白磁の肌に、鍛えられて引き締まった体躯。無表情だと思っていたけれど、優しい言動に微笑んだ時の穏やかな空気。
思い出すだけで顔が熱くなる。
(私は……私は、ランドルフ殿下に惹かれて、いる……のだわ)
好きだから、と言って『リリィクイン』の中から王太子妃に選ばれる訳ではない。
でも、私は惹かれている自分を今、認めた。自分に嘘を吐かなければ、呆気なく彼の難点ではなく良い所ばかりが浮かんでくる。
私がすべきことは何、というのは、考えなくても分かることだ。
次のお茶会の時に、殿下に楽しいお話をする事だ。それは、嘘じゃなく、本当の楽しい話を。




