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ドーナツの穴  作者: 久架 雪歩
一部
6/15

一部三話

 長らくお待たせして申し訳ありません。

 詳しくは活動報告にて弁明させていただきますが、ついゲームにのめり込んでしまいました。一日一文字でもいいので、反省したいと思います。


 さて、前回は怪しい女とナイトがお話していたところで終わっていたかと思います。この先どこまで説明できるか不明なため、先にこちらで一言申し上げておきますと、今回は悪い人じゃないです。次回以降は知らないです。そんな人です。


 それではごゆっくりどうぞ。


「阿呆、その性悪に軽々しく自分の名前を伝えるんじゃあないよ。世の中にはね、名前があれば自分の意のままに操れる類の術を使う人間だっているんだぞ。その女みたいに。無属性の魔法は中身が多岐に渡るから分類しきれなくて、便宜上無属性を冠しているのではなかったのかね。つい数時間前の講義内容も忘れてしまうとは嘆かわしい。後で課題を出してやる。

 ――私が良いと言ったヤツ以外に、自分から名前を言うんじゃあない。良いね?」


 講義を終えて食堂に降りたナイトはうつくしい女性に出会い、そして名前を教えてくれとせがまれた。それを邪魔したのは、情報収集のためにと別行動を始めていたはずのルーだった。

 現れた途端、どこか不機嫌にナイトへ課題を出すことを宣言する。ルーの課題は若干難易度が高そうで、辞退を申し出たい。だが、若干不機嫌なルーに下手なことを言うと、より酷い目に遭わされそうでもある。ナイトは潔く口をつぐんだ。

 ルーは深く溜息を吐きながら叩かれたところを擦るナイトに冷ややかな目線を送る。ナイトは半分くらい涙目になりながら――自分で非力と言っていたが、存外痛い――ルーへ吠える。


「痛いですが!? 急になんです! つかいつからそこにいたんですか!」

「いつ来たかと聞かれても先ほどとしか答えが無いが? 具体的に言うなら、キミが明日出ると答えてからだ。

 まったく。情報収集に出かけようと思ったは良いものの、そういえば良いところの坊ちゃんだったから、夕飯の支払いなどで滞っていないかと不安になって、戻ってきてやったと言うのに。そんな中、キミがその性悪に鼻の下を伸ばしているのが見えてね。

 つい苛立って殴ってしまったが、俺は悪くないと思うのだが。どうだろう」


 ルーはおっとり微笑んでいた彼女に話しかける。罵りたいのか苛立っているのか、よく分からない物言いだが、そもそもを考えると両方なのかもしれない。ただ、ナイトの名誉のために弁明するならば、鼻の下を伸ばしていたわけではない、はずだ。


「あら、せっかくの取材を邪魔したのですもの。アナタが悪いのではなくて? 久方ぶりの再会だというのに、人のことを性悪などとおっしゃったり……ご挨拶ですわね?」

「おや、失敬。お嬢様の毒牙の犠牲は、なるべく少ない方がよろしいかと愚考いたしまして。性悪がお気に召さないということでありましたら、呼び方を変えてみましょうか?

 ――この、狂人が」


 ルーの敬語は、何故か気味が悪いという意味で恐ろしい気分になるのだが、ナイトの気のせいだろうか。様にはなっているのだが、その言葉たちに込められている悪意が半端なものではない。

 ――ここに至って、ようやくナイトはルーとその人が、知り合いではなかろうかということに気付く。知り合いにしては、ルーが口の悪いことを言っているのは気のせいだろうか。いや、それは気のせいではないような気がする。

 明らかに物言いに遠慮がない。狂人扱いをするなんて、知り合いの間柄でもあまり褒められた物言いではないだろう。さすがに激高してしまうのではないだろうか。

 だが、ナイトの不安をよそに、言われた本人は笑みを深くした。


「あら、死にぞこないが何か仰いまして? てっきり今度こそくたばったものかと思いましたが、まだ生きていらっしゃったとは。驚きの生命力ですわ。せっかく安心していたのに、また登場されるなんて。

 そんなに舞台に未練がおありで?」

「言わせておけばつらつら回る舌だな。多少短くしたところで不便なさそうなご様子。いっそ羨ましいほどだ。それよりもキミの方こそ、くたばるご予定はいつ頃かな。よろしければオレが介錯を任されても良いが?

 狂人については、キミも反論できない程度には自覚している癖に、多少図星で不愉快だからと噛み付いてくるなんて、流石の浅ましさとでも称してやればいいのだろうか。その後を考えない見切り発車のせいで〆切に苦しむことになるのだろうが。

 それともそれすらも分からないほどに、耄碌しているのかな? そろそろご隠居されたらどうかね」


 あくまでも無表情で僅かに目を細めるルーと、にっこりと微笑みを浮かべる彼女の間には、何かしらの嵐が吹き荒れているようだった。なるほど、類は友を呼ぶらしい。彼女もしゃべる方なのだろうが、ルーはルーでかなり喋るほうである。また多少ルーに軍配が上がるようだが、二人ともにこやかに毒を吐けるということは、その程度に仲が良い、のだろう。分からないが。

 そういえば。ある意味正反対の意味で、注目を集めそうな容姿の存在が二人もいる。その二人の間で嵐が吹き荒れている現状。注目が何故かこちらに集まっていないが、時間の問題だろうか。

 ……逃げたくなったナイトだったが、嵐を止めたルーは深く息を吐く。


「と、いうかキミはどうしてこんなところに? わざわざピンポイントにコイツに話しかけなくても良いだろうに」

「んふふ、仕事と言えばいいでしょうか? 彼に関してはインスピレーションが湧きそうだったので、お話、しようかと思いまして!」


 ナイトの背筋に寒いものが走り抜けていった。その無邪気に細められた緑色の瞳に、射抜かれた瞬間。どうにも形容しがたい恐ろしい予感をナイトは感じた。この無害そうな人から感じていい悪寒ではないはずだが。

 そこまで考えてから、ナイトは首を傾げた。


「……そういえば。アンタ、この人とお知り合いなんですか? 紹介、してください」


 仕事でここに来た、と言うのであれば、やはり良いところの商家の人なのだろうか。だが先ほど取材と言っていた。新聞記者、だろうか。それにしては違和感を感じるが。

 ナイトが眠っていた時間は置いておいて、ルーが知り合いを作れる時間はそう多くない。だというのに古くからの知り合いのような気安さが二人の間には流れている。互いの発言を思うに、ナイトが眠っていた時間に出くわしたわけではなさそうである。

 だとすると、ルーが封印されていた間の知り合いだろうか。何かしら、外界と連絡を取る手段があったのだろうか。それにしては、かなり久しぶりに出会うような発言であったが。それに一応あの場所は簡単にたどり着けるような場所ではないはずなのだが。

 その軽い疑問は、ルーの言葉で大きく崩される。


「ん? ああ、彼女は作家のヴィント。キミは知っているかね?」

「……な……!」


 知っているも何も、本家長女が確か好んで読んでいた作家だ。

 彼女のために何度か商会に問い合わせたことがある上、幾度か熱を込めた声で語られたことがある。ナイト自身はまったく読んでいないが、内容を知っている作品が何作かある。

 ヴィント。恋愛小説作家だ。ただ内容は多岐に渡る。ハッピーエンドで終わる作品があれば、悲恋で終わる作品もあり、そのどれもが女性の心を掴んで離さないという。その作品は、ヴィント自身の手で各国の言葉に翻訳されて、国境の隔たり無く各国で販売されているのだとか。

 ナイトは、そうした娯楽小説を読んでいる暇がなかったので、その良し悪しは全く分からないのだが。それでも、彼女はヴィントの作品を読んでいる合間、貴族令嬢としての重責を忘れて没頭していたように思える。

 生きていたら、きっと会いたがったに違いない。そのことを思うと、ナイトの顔は曇る。


「……ええ。昨日の事件で亡くなった花嫁が、好んで読んでいて。お名前は……」

「昨日の事件?」


 ヴィントが首を傾げる。ルーは溜息を吐いてから、昨夜の顛末をかいつまんで話す。幸か不幸か、ナイトは彼女の遺体を目にしていない。だからこそ彼女が死んだことに対して、まだ現実感が持てないでいた。貴族令嬢として生まれ、幼い頃から厳しく教育を受けていた、彼女が……。

 ナイトが遠い目をしていた間にも、ルーはヴィントに説明を終える。


「と、いうわけでね」

「あら。そのような顛末を迎えてらっしゃいましたの。おかしいと思ったら……ルー、アナタが介入してらっしゃいましたの?」


 ――どこか引っ掛かる物言い。

 ルーは何も思わなかったのだろうか。特に驚いた様子を見せずに、だが静かに眉を寄せた。呆れたような表情は、ナイトに見せたそれらよりもずっと面倒を物語っている。

 関係ないのだろうが、注目は思っていたよりも集まっていないようだった。そのことに思い当たったせいか、感じた違和感がどこかへ消え去る。


「と言うことはキミ――」

「おまちどおさまです!」


 ウェイトレスがナイトの前に料理を出した。とても美味しそうである。宿の質も良ければ料理の質も良い。この宿が繁盛している理由が良く分かった。これなら銅貨十枚は高くないと思う。

 ふとナイトは横を見る。そこにはヴィントもルーもいなかった。今の一瞬で二人はどこかへ行ってしまったのだろうか。


「……あのう、僕の連れを見ませんでしたか?」

「へ?」


 ナイトはウェイトレスに声をかける。彼女は周囲を少し見渡してそれから首を傾げた。ナイトもつられて周囲を見渡すが、人込みにあっても目を引く赤い髪や、子供程度の身長は見当たらなかった。


「……お客さん、最初から一人でしたよ?」


 ウェイトレスが立ち去った後、やれあの商人が旅立っただのといった、周囲の喧騒は右から左へと流れていくだけだった。



 ナイトは一人で夕飯を食べ終える。酒を飲むような気分でもなくなったため、食べ終わった後、部屋に戻り、無の陽属性の初級聖術を行使する。

 ≪清潔≫だ。無属性に適性はないのだが、使えるだけで旅の快適さが変わるから、と叩き込まれた術の一つである。

 ≪清潔≫の他には、≪点火≫であったり、≪湧水≫であったり、また≪乾燥≫であったり。理由を聞かされると納得できる魔法ばかりであったが、ナイトは地属性に適性があるため、≪発芽≫などに比べてあまり上手に行使できるわけではないのだが。

 それでも使えるだけで問題ない、と言うのだから、お言葉に甘えるが。

 ナイトの聖力を、旅の助けに使うのであれば。これからナイトは重点的に体術の方を鍛えなければならないだろう。ルーには使えない術を使う要因としているというのだから、お荷物という感覚はないだろうが、自分の身は自分で守れなければ、ならないのだろうから。

 一応剣は使えるつもりだが、手に馴染まない。これなら聖力の器を広げる方が効率よく強くなれるだろう。だが手軽に使える初級魔法と言えば、≪点灯≫だけだろうか。

 ナイトは枕元に置いてあった短い杖――ワンド――を手に取り、十分なスペースがあることを確認する。ルーに教わったことを反復するように、術を構築していく。

 頭の中で術を構築するように言われているため、適性もなく、また使い慣れているとは言えないナイトにとって、難易度は高い。だからこそ、イメージをしっかりと固めていき、聖力の流れを感じ取り、触媒であるワンドに注いでいき、術構築を少しずつ固めていく。


「……≪点灯≫!」


 灯る。それを消して、今度は別の魔法を。光の対抗属性は、闇である。


「――≪薄闇≫!」


 対抗属性をぶつけると、効果が相殺し合って、結果的にどちらの術も消える。残りの聖力に注意しながら、ナイトは延々と≪点灯≫と≪薄闇≫を繰り返し唱えていた。

 練習は、何も光と闇の陽属性である必要はない。例えば光の陰陽を繰り返し唱えていても相殺し合うのだが、ナイトが今使える魔法は各大属性の陽の、初級までなのだ。その中で、一番宿に迷惑をかけないのが≪点灯≫と≪薄闇≫になるのである。

 注意点としては、適性属性だろうか。理論的に、ナイトは自分で地属性の魔法と風属性の魔法を相殺できる。だが、地属性に適性を持つナイトは、他の属性よりも高い出力で術が使えるのだ。だからナイトは自分自身の聖力で、地属性と風属性の打消しを練習することはできない。地属性は地属性、風属性は風属性でないと打ち消せないのだ。

 それと同じように、適性持ち同士が打ち消す分には問題ないのだが、適性持ちの属性を非適性属性で打ち消せない。出力が違うからだ。出力を弱めることは可能かもしれないが、完全には不可能である。

 また非適正属性の術を、適性属性の術で相殺しようとすると、勢い余って効果半減程度に発動する。ただし初級同士での打ち消し合いは効果半減の現象は起きない。半減しようのない小さい効果であるので。

 また打ち消し合いは同じ等級の術同士でしか行えない。など。打ち消し合いに関してだけでも、注意事項がたくさんある。術式を覚えるのにも精一杯なのに、打ち消しについても慎重に行わなければならない。

 それは、自分でやっているとはいえ、ナイトが出来ていなかったこと。あの家を出て、出来るようになったことに複雑な思いを抱えてしまう。

 そうして、習ったことを反復しながら繰り返し練習していると、部屋のドアが開いた。


「――ああ、キミ、練習していたのか。勤勉なことは善きことかな」

「……お帰りなさい?」


 ルーが少しだけ眩しそうに目を細める。ナイトはすぐに≪暗闇≫の術を発動させて光を消す。どれほど練習したかは覚えていないが。かなりの聖力を消費したような気がする。練習中はかなり集中していたからか、こうして気を抜いてみると、かなりの虚脱感を感じる。

 深く息を吐くと、ルーはナイトにコップを差し出す。


「魔力量を増やそうとしていたな? 良い心がけだ。明日からも魔力と時間に余裕があるなら、続けていただきたいところだ。

 今やっていたのは、魔力の消費と、それから光と闇の初級同士での打ち消しだね? 問題なくできているか見るから、魔力に余裕があるならやってくれないかね」


 ルーはそういうと椅子に深く腰掛ける。教わっている身であるため、おとなしくナイトはワンドに意識を集中させる。

 ――緊張してきたナイトは、そっと深呼吸をする。焦っても術は発動しない。それよりも確実な発動をする方が好ましい。時短は二の次三の次に考えればいい。昼間、ルーから教わった心得である。

 むしろ失敗してルーに嘲笑われるのが我慢ならないほどである。ナイトは慎重に発動させることを意識した。

 先ほど部屋の中に入ってきたルーが、眩しそうにしていたことを考慮し、ナイトはまず≪薄闇≫を発動させる。そして無事に部屋の中がより暗くなったことを確認。そして≪点灯≫の術を発動。


「うん、問題なく相殺できたようだね。物覚えが良いことはとても素敵なことだよ。誇っていい。ただ出来た自分に驕らないで、日々ちゃんと自分を磨くんだよ。じゃないと中級とか教えられないから」

「は、はい……ちなみにですが、アンタどれほど術式を知ってるんですか?」


 ふと思いついた疑問を出すと、ルーは楽しそうに微笑んだ。そういえば術式の改良をすぐに行える人だ。ある意味では愚問だったかもしれないということに、今更ながらに気付いたナイトだったが、一度声に発してしまえば、取り消しが出来ない。


「一応最上級の術式も知っているよ。何ならその応用とかも。ただ残念ながら俺よりも魔術に精通している奴がいるから。あの人ほど知ってるわけではないかな。

 まぁ、多分キミは上級を覚えられるかどうかのあたりだから、そこまでは無理だろうけど」


 上級術式を覚えられる素質があると言われただけでも、いい方だと思われる。たいていは中級で限界を迎える。平凡なナイトが、辛うじて突出出来そうなのは、ひとえにルーの術式改良で、覚える負担が減っているのが大きいと言えよう。決して自分の功績などではないが、少しだけ、誇らしかった。

 それはそれとして。


「……ところで、アンタ、ヴィントさんに迷惑とかかけてないでしょうね?」


 うっかり半目になってルーに訊ねる。食堂で一人にされた恨み、というわけではないが、二人してどこかへ行ったならば、二人で何か話したのは確定と言えよう。あの素晴らしい小説家に機嫌を損ねられて、この国を出ていかれたら。きっと様々な女性が落胆するに違いない。きっとそうである。

 ルーは深く息を吐いて頭を振った。


「迷惑を被っているのはこちらの方だ。トンでもない話になっている。辛うじて猶予はあるはずだが、今すぐにでもここを出発したいくらいなのだが?

 まぁ、今はキミの魔力がかなり消費されているから。多少の猶予があることを信じて、夜明けを待ってから出ようと思うが」

「はい? ゆうよ?」


 ナイトが聞き返すと、ルーは国境の森の方を眺める。曇りガラスの向こうは、不透明ながらも辛うじて森が見える。その向こうは隣国のコレール王国があるのだろう。ナイトは一度もコレール王国に足を踏み入れたことはない。だが、かの国の武力は聞き及んでいる。その脅威を退けるのが使命だった。

 ――過去形の使命である。失った重みに、複雑な感情が芽生えた。


「戦争になる。とても、とても面倒なことになった。私としては関わらずにキミの安全を優先させたいところだから、さっさと逃げたいと思っているが」

「……はい?」


 ナイトは聞き返す。仙草と言っただろうか。何故急に草の話をはじめたかが分からない。首を傾げていると、半目でナイトを睨むルーが認識を正してくる。


「戦争だよ、草の話は誰もしちゃいない。それとも船か何かだったか? そのどれも違う。争いだよ。現実逃避をするんじゃない」

「……はい!?」


 せんそう。草でも船でもないなら、争いが起こる、と言っているのだろうか。信じがたい思いを抱えていると、ルーは深く息を吐く。


「安直な現実逃避は、命を落とす行為だと思え。間抜け面が酷いぞ」

「で、でも、なんで?」


 ルーはもう一度窓の外に目を向けた。

 何かに思いを馳せているようで、ナイトは釣られて外を見る。


「昨夜の出来事が、隣国に伝わったのだろうね。こうなると遠くない未来でこの街は、否応なしに戦禍に巻き込まれる。行動が早すぎるとは思うが、もう侵攻の準備を進めていると思った方が良い。

 聞いたところによると、コレールの王は相当な野心家だそうだね? 内陸の国だからこそ、塩と貿易のために港を欲する。岩塩は取れるがその算出はあまり多くなく、だから輸入に頼らざるを得ない現状を憂いているのだとか?」

「え、ええ。特に今代の王はそうお考えだと聞いています。輸入はどうしても高くなる。だがダンジョンしか特筆事項がない国だからこそ、少しでも費用を抑えたいのだと」


 ダンジョンとは。

 古くは千年以上前の出来事だというが、とある島を治めていた王が神々の怒りに触れたという。妻である王妃が産み落とした子供を閉じ込めておくために、王は地下に大きく広がる迷宮を建造させたという。驚くことにその迷宮にて魔物の大繁殖が起こったという。それが原初のダンジョンと言われている。

 ――何かしらの要因で、魔力が強く宿った場所がある場合。魔物にならずダンジョンに変異するという。ダンジョンとは、構造物が魔物になった姿である仮説は、今だ証明されてはいない。

 コレール王国は、原初のダンジョンにこそ劣るが、有名なダンジョンを五つも抱えているダンジョン大国。ダンジョンを攻略するために様々な知識や技術が集まる大国なのだ。だが、食料品や塩などの重要な要素が他の国からの輸入だよりなのである。遥か昔より、そのことを頭痛の種としてきたコレール国。今代の若き王は野心に燃えているようで、ピッカートとは反対側の小国をすでにいくつか平らげた後なのである。

 侵攻の理由が、国際法に著しく逸脱してはいないので。また他の国もコレール王国の扱いを難しく感じている。


「次代の辺境伯が辣腕を振るえばいいのだけど。小僧だものね。特別優秀な人だったりする?」

「ええと、優秀ではあるのですが……」

「いや、把握した。キミ、素直なのは良いが、素直すぎるのも考え物だな」


 言い淀んでしまったところから悟られたらしい。そう、優秀ではあるのだが、特別優秀かと聞かれると、少しだけ躊躇ってしまう。特別優秀だったのは、むしろナイトの兄の方である。どうして優秀だった兄が、あのような愚考に走ったか。その原因も理由も良く分からないままだった。

 目を伏せてしばらく考え。ナイトは意を決してルーをまっすぐ見つめた。

 ――昨日のことを思い出したのだ。

 ルーは良く分からないが『悪夢を見せる』ことが出来る能力を持っているらしい


「……戦争を、止めることはできないでしょうか」


次回もよろしくお願いします。

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