一部一話
お待たせして申し訳ございません。一部一話公開です。
公開です、と胸を張っても話の進展はプロローグほどありません。プロローグほどサクサク進んでは一部と銘打っている意味が薄れてしまいますので。その代わり着実に事態を進めていきたいと思います。
今回は語りたがりの薀蓄です。やや同じようなことを二回三回と繰り返しますが、ご容赦ください。ただそこそこ大事な設定だと思っています。だからこそ隠し持っておくのではなく、先に明かす方がよろしいかと思いました。
普段暴走しがちな語りたがりですが、今回のようなケースでは非常にありがたいです。
前置きはこの辺りにしまして。それでは一部一話をごゆるりとお楽しみください。
「講習と言ってもどれから話すか迷うところではあるが……ひとまず、誤ったいくつかの知識を訂正させていただこう。それからじゃないと話にならない。
まず、キミが、キミたちが聖力と呼んでいるモノは魔力だ。
そして魔力というのは、生物であれば植物だろうが動物だろうが、なんにでも宿っている」
「ちょ、ちょっと待て! アンタ、命が惜しくないのか!?
そんなこと外で言ったらすぐに捕まって、最悪即刻火あぶりにされるぞ!」
兄の謀反が、やや納得いかない形で収束を迎えた。
翌朝の宿屋にてそのことを聞かされたナイトは、その事実をいったん忘れ、誤魔化すためにも、ルーに抱いていた疑問をぶつけることにした。ある程度軽い気持ちで聞いたというのに、そこから飛び出した発言は、常識を裏返す、到底信じられない代物だった。
魔物が有しているのは、魔力。ヒトが有しているのは聖力。そして、植物は魔物でもヒトでもないので、魔力も聖力も有さないはずだ。聖術ギルドの実験結果でも、教会の公式見解でもそう言っている。ギルドの研究者も、教会の公式見解も合致しているとあらば、まず間違いないだろう。ある意味ではこの二つの組織は相反する組織であるのだから。……そのため、外でそんなことを口にすれば、異端審問にかけられるのは間違いない。
植物は魔力も聖力も有さないため、それらを通すための道が通っていない。繰り返すが、教会の公式見解と、聖術ギルドの実験結果でそう出ているからだ。そして、経験則から言ってもそうだ。そこらへんの葉っぱに聖力を通すのは至難の業で、昨夜ナイトがルーより渡された木片が異常と言えよう。あのようにスルスルと聖力を通せるのは、普通ではないのだから。
聖力を通すための道を無理やりこじ開けるのは、一苦労なのである。普通に考えてみても、新しい道を作るのは大変であろう。それと同じく、一から道を作らねばならないのに、一度使ってしまえば素材の質は二度使わない方が良いほどに落ちてしまう。だからこそ、聖力を良く通す植物は素材として高値で取引される。
昨夜の木片で言うのであれば、中位貴族が半年は遊んで暮らせるであろう、額だ。
――異端審問と言えば、かけられればどの道を選んでも死が待ち受けている、理不尽な審判。ルーと行動を共にしているナイトも、場合によっては審判にかけられるかもしれないとなると、ルーの戯言を止めるには十分すぎるほどの材料である。異端審問官たちは、悪い意味で容赦がないと有名だ。
だが、ルーは全く気にした様子を見せない。
「火あぶり程度がどうしたよ。その程度で真実を捻じ曲げるとか意思が弱すぎないかい? それに黒を白と言われても、黒は黒なんだって。八つ裂きにされたって、村八分にされたって、真実は真実なんだから。可笑しいことは可笑しいといえなきゃ駄目だぜ。まぁ、清濁併せ吞むことも時には必要だが。
まさかキミ、教わったことをそのまま鵜吞みにしていたのかい? ダメだよ、少しは疑うことをしないと。思考停止は害悪への栄えある一歩と思え。
ちょうどいい機会だ。この際、自分の“常識”を疑ってみるというのはどうだろうか」
前言撤回する様子が全く見られない。この様子を見ていると、ルーに火あぶりは痛くも痒くもない児戯なのではなかろうかと思えてくる。実際はそんなはずはないのだろうが。……つまりは、火あぶりを『程度』と言ってしまえるほどに、確信を抱いているということだ。
これから先のルーの発言を、すべて戯言だと流すことは容易であろう。だが、質問を軽い気持ちで投げたのはナイト自身であるし、一応は命を助けてもらった恩もある。それにこれからどうするという予定もないわけで。この話に耳を傾ける余裕はあると言って良いだろう。危険性はさておき。
ナイトは頭を抱えた。それにしても、どこから理解すればいいのだろうか。そして、どこまで信じていいのだろうか。
「どこから指摘すれば良いか分からないけど、最初のところからちょっと待ってほしい、です……。
確かに僕は教わるばかりで疑ってきませんでしたけどね。教わったことが正しいと思うじゃないですか……」
「……確かに。キミの言うことにも一理あるな。教育は洗脳の一種ともいうし。何十との代でそれが定着してしまったのなら、覆すことの方が難しいだろう。そこについては俺が悪かった。
では、懇切丁寧に説明しよう。証拠があればキミは納得するんだろう?」
初めてルーが自分から非を認めたような気がする。話せばルーの自論が妄想であることに気付いてくれるかもしれない……と、ナイトは一瞬だけ思ったが、こんな簡単に翻るような自論であれば、火あぶりが怖いに違いない。
確かに証拠があれば納得できるかもしれないが、それと受け入れるのとでは違う話だ。今までの常識を、これ以上覆されてたまるか。兄の謀反の決着と、コレとでは、問題の本質が違うのだから。
ナイトは歯噛みしながらルーの肩を掴んだ。
「あのですね、証拠と言われたってそんな簡単に信じられると思いますか? だって、試薬に溶液を浸したって、植物から作った溶液からでは魔力が検知されないんですよ?
そもアンタは魔力を感知する試薬の存在って知っていますか? 聖力はその試薬で感知されないんですから、聖力と魔力は別の物に決まってるじゃないですか」
「試薬の存在は知らないな。だが都合よく聖力とやらが検出されないとなると、一定以上のからくりがあるに違いない。いづれそれを暴いてやるから、それについては覚悟しておけ」
とんでもないことを真顔で宣言されても、ナイトはどうすればいいか分からない。だが、ルーはその発言に対して何かしらの反応を求めていたわけではなかったようで、静かに話を続けた。
「……その試薬とやらで、植物から魔力が検知されない、と言ったな? そしてその試薬で人間から魔力が感知されないと。からくりが見えたな。そういうことか。姑息な手段を使うものだ。まぁ、今はどうでも良いか。
――であれば、まずどうして地の属性があるというんだね?」
思ってもみなかった返答に、ナイトは虚を突かれる。
常識が大きく違う、と思っていたが。だが、ルーは正確に属性についての知識は有しているらしかった。
聖術は大きく分けて七属性に分類される。地火風水の基本四属性と、光闇無の特殊三属性。合計七属性。それが陰陽の小属性によって性質が分かれ、絡まり合い、存在している。
火と風は、水と地との相性が良くないが、火と風の間の相性はとても良い。逆もまた真なり。そして光と闇で相反する性質を有し、無は詳しく分類しきれないかなり特殊な性質の寄せ集めだ。陽はプラスの作用、陰はマイナスの作用を指す。
例えば火の陽は、おおむね火を点けることを指す。火の陰はおおむね火を消すことを指す。使い方によってはどちらも危ないが、それはそれ、だ。
基本四属性の中の地属性は、大地に宿る力、と言われている。だがこれまでの通説では、土や植物には聖力はもちろん魔力は宿らないとされている。なぜなら、植物や土は、魔物でも人でもないから。だからこそ、地属性の聖術が存在している理由は学者間でも最大の謎になっている。
火の魔物や水の魔物、風の魔物は存在している。だが、地の魔物は存在していない。だが、実際に地属性を得意属性とする人間がいるのだから、地属性は、実は存在していないという説は成り立たない。だが、理由が分からない。
教会は唯一神が地属性の神と謳っている。だから地属性は神の力であるがゆえに植物や大地でさえも有していないのだとのことだ。
その永遠の謎とも言われているこの問題の答えを、ルーは持っているというのだろうか。そうなれば、世紀の大発見なのだが……ナイトは、嫌な予感しか感じていなかった。今までの流れから言って、ルーは大地も植物も、魔力を有していると、言い出すに違いないのだから。
「……」
「沈黙を選んだことは賢いと思うよ。下手な発言をしていたら追い打ちをかけるつもりだったからね。キミも学習する、ということが分かって安心したよ」
ナイトの沈黙の理由をルーは正しく理解したらしい。
それはそうと、ナイトにとってルーは不気味なほどに頭が良いと感じられる。ナイトの瞬き一つで、その考えていることをすべて理解しているようだった。
内心で、そんなに分かりやすいだろうか、と首を傾げてみる。それを察した上で無視したか、気付かなかったのかは分からないが、ルーは話を続けた。
「さて、話を戻すと……。そう、大地も植物も魔力を有しているところから、信じてもらうのだったか。説明方法はいくつかあるが、分かりやすい証明方法は一つしかあるまい。
キミ、俺をよく見ていると良い」
ナイトは言われる通りルーを見た。
ルーは何か術を構築しているらしい。らしい、というのは詠唱が無いから、どのように、どのような術を構築しているのかが分からないのだ。だが、わざとらしいと感じるほどに、術を構築している気配を感じる。
――無駄のない、綺麗な構築だ。教科書のお手本よりも綺麗と感じられる。
だが、何かが圧倒的に足りなかった。何か一つが足りないせいで術が発動しなかった。何が足りないと聞かれれば……聖力が、足りないような気がした。
ナイトは言われた通りルーを見ていただけで、何の術を構築していたかは分からない。だが、その無駄のない術の構築は、聖力さえあれば発動したに違いない、と思わせるほどだった。
「今のは光の陽属性の初級。≪点灯≫だよ」
ルーの術式名の発音は、癖もなく、綺麗だった。
術を成功させるにはいくつか要素がある。まずは発動する術の構築を練ること。これはやり方が人や状況によって変わる。
一番使われている方法としては、術式名を唱えて構築する方法。次に頭の中で構築式を完全に思い浮かべる方法。何かに構築式を書く方法。式典などでは仰々しく、聖力で構築式を空中に書き上げそれで発動させる方法が好まれている。聖力の無駄遣いが出来るほど、武力に富んでいるのだと暗に示しているとかなんとか。
そしてその次に必要な要素は聖力。
ルーは頭の中で構築式を思い浮かべて術を発動させるタイプのようだった。無詠唱で聖術を使えるので、有事の際は発動させる術が分かりにくいので有利と言えよう。今はデモンストレーションのためか、わざと術の構築を分かりやすくしていたようだったが、本気になれば術の構築を悟らせないよう行えるのだろう。
ナイトには到底できない業と賞賛すべき実力であるが……発動しなかったら意味がないのだ。
「……ええと、聖力が足りなかったように見えるのですが?」
「聖力の回復方法を三つ答えよ」
急に問題を出され、心の準備をしていなかったナイトは焦る。少々前に学んだことだ、知識を記憶の端から引っ張り出す。
ルーは腕を組んで目をつぶっている。ナイトの回答を待っているようだった。
「ええと、自然回復と、回復効果のあるアイテムを使うことと、呼吸法などによる急速回復、の三つで合っていますか?」
「概ね正解。だが、その回答では一部に抽象的表現が含まれているから適切ではないな。
自然回復は、六時間以上の睡眠を代表する、休息をとる方法だね。こちらの方が無理のない回復のため、身体に反動が起きないため一番推奨されている回復方法だ。
回復効果のあるアイテムや、呼吸法などによる急速回復は、空気中に満ちている魔力で回復したり、魔力を宿した泉の水を飲むことを指している。この方法は無理やり魔力を回復させるから、過剰に行いすぎると身体に反動が出る。昨夜キミが口にしたポーション酔いなどが該当する症状だね」
「魔力を宿した泉は無いはずですが」
「後でからくりを説明するからステイだ」
次から次へと、色々と問題発言が飛び出してくる。魔力を宿した泉の水で、魔力を回復する方法はありえない。ポーションを作成する泉は、聖人が祝福して、聖力を宿すようになった泉の水を利用しているはずだからだ。
今更ながらに誰かに盗聴されていないか不安になってきたナイトだった。
ルーは目を閉じたままベルトポーチを漁りつつ、説明を続けた。
「普通の存在であるならば、その三つのうち一つでも実行すれば魔力は回復する。だが、私は普通の存在ではなくてね。
これはなんだか分かるかね?」
「せ、聖力ポーション……」
「正確には魔力ポーションだ。見たことがあるならば話は早い」
先ほど存在を否定した、魔力を宿す泉とやらから作ったポーションだろうか。ルーはベルトポーチからそれを取り出した。だがナイトの目には聖力ポーションにしか見えない。
聖力ポーションはその効果の高さから高値で取引されている。ナイトも見たことは過去に一度だけで、こんなにあっさりと出てきていい品物ではないのだが。
「ポーションの服用方法は主に二つ。意識を失った人が相手であれば、効果は薄くなるがかけてやるのが良いだろう。無理やり飲ませるとそのまま溺死して死んでしまうからね。
――そして、もう一つ」
ルーはそれを遠慮なくあおり、飲み干した。
ポーションは一気飲みしてはいけないものであるはずだが。急いで飲むにしてももう少しゆっくり飲まないと、急速な魔力の回復で、めまいや吐き気、酷いときには聖力暴走を引き起こしかねない危険な行為である。
だが、何故かルーは平気そうな顔をして、再度聖術の構築を始めた。先ほどと同じような構築のため、使おうとしているのは光の陽属性の初級の≪点灯≫だろうか。
――だが、聖力が回復したはずなのに、術は発動しなかった。
「……なん、で?」
「それは俺が知りたいね。
このように飲む方法が一番効率よく魔力を回復できる。普通の存在であれば。だが、私は普通の存在ではないから、魔力を回復したって魔術が使えるようになるわけじゃない。こればかりは体質と言うのだろうね。
だが、唯一魔術が使える方法がある。ホレ、手を出せ」
ナイトは言われるままに手を出した。ルーはどうやっているのか、目を閉じたままナイトの手首を掴んで、術を構築した。
――ナイトの身体から聖力が引きずり出される感覚がある。抵抗しようにも無理やり引きずり出されていき、自分の聖力であるのに、制御が出来ずにいた。
そしてルーの前に灯りが浮かんだ。
「今のように抵抗されると、魔力効率がダントツで落ちてしまうが……このように他の存在の魔力を利用して術を発動させることが可能である」
ナイトはあまりの驚きに何も言えずにいた。
確かに他の存在の聖力を使うことが出来れば、聖術は使えるだろう。だがたいてい、聖力の波や適性属性であったり、あとは細かな癖が一致しないため、理論的には可能でも、実際には他者の聖力を使うことは不可能とされている。
だが、ナイトは光属性に適性が無いため、≪点灯≫の構築式を知らない。それなのに術が発動した。つまり、ルーの構築した術に、ナイトの聖力が注がれて、発動した。
「適正属性でなくても、術式さえ完璧に組めていて、注ぐ魔力量が間違っていなければ術式が発動することは?」
「い、一応知っています……」
「ならば話は早い。ちなみに今の感覚を再現できれば、キミはもう≪点灯≫の術が使えるぜ。
そんなことはさておいて、私の特性をご理解いただいたところで、コレだ」
一回だけルーは目を開けて驚愕しているナイトを見遣る。だが、呆れの表情を一瞬見せただけで、次に取り掛かろうとした。その様子にナイトは待ったをかける。
色々と消化しきれていないのに、次から次へと驚愕の事実を持ち出されていても、キャパシティーがオーバーするだけで、理解なんて出来るわけがない。いったん自分で整理する時間が欲しかった。
「ち、ちょっと待った!」
「……なんだね?」
面倒くさそうにナイトを見るルーは、面倒くさそうな様子を隠しもせずに肩を竦める。
「キミのために一つ一つ丁寧に証拠を出してるじゃないか。何をどう待ってほしいのだね」
「……でも、飲み込み切れないんです」
「――仕方ないな、いったん休憩としよう。これでも本題に入っていないことを忘れないように」
――小休止後。
ようやく前提条件を飲み込むことが出来たナイトは、改めてルーの実験を確認する。
「えっと……さっきの実験は、アンタが聖力を自分では持ってない、って実験で合って、ますか?」
「その通りだ。なんだ、時間をかければちゃんと理解できるのか。じゃあ次からゆっくりやろう」
何にどう納得したかは不明だが、ルーはベルトポーチから複数、物を取り出した。拳大の石や、昨夜も見た高品質の触媒である木片だ。なぜか小さい袋もいくつか取り出している。
ナイトは袋に対して指をさして訊ねた。
「あの、これは?」
「見ていれば分かる。行くぞ」
ナイトの質問を一蹴して、ルーはまず木片を手に取って術の構築を始める。昨夜も思ったことだが、これはそのように雑に扱っていい品物ではない。あれほどよく聖力を通すのだから入手するのに、最低でも半年は遊んで暮らせるくらいの金が要るだろうに。
「……な」
ナイトは信じられないものを見た。
木片が急速に、風化していくかのように粉になったのだ。そして、ルーは≪点灯≫の魔法を成功させた。ルーは粉がこぼれないように急ぎ袋へ注いでいく。
なるほど、袋は素材が万が一にもこぼれないようにするための措置か。と違う方向に満足しかけた。だがそれどころではない。
「高い素材が!」
「そっちか? 魔術を成功させたことに驚けよ」
ルーの指摘など、半分は聞こえていない。貴重な素材が一瞬で粉になったことに愕然としたのだ。それ以上の驚くことなど何があろうか。
そこまで考えて、ナイトはハタと現状を認識した。ルーは、木片を粉にして、術を完成させた。
「は!?」
「この阿呆が……」
ルーは頭痛を堪えるような仕草で溜息を吐く。ようやくナイトが、状況を把握したことを察したようだった。今までで一番深い溜息である。
ナイトは色々とそれどころではない。高い素材は粉になるわ、発動しないはずの術は発動するわ。どのような手品なのだろうか、さっぱり分からない。
「この木片は、魔樹フォルスーンの欠片だよ。まだまだ在庫に余裕はあるから問題ないし、この程度の魔樹なんて、そこの森にうじゃうじゃといるんじゃあないかね?」
「し、知らないです。と、いうかフォルスーンって、神話に出てくる……?」
「たかだか数百年程度前の出来事で神話と言われるのも、奇妙な心地だねぇ」
ルーは肩を竦める。ナイトは普通のヒトのつもりなので、数百年はたかだかではないし、そも建国神話は数百年程度の逸話なのだろうか、という不思議と。それからその数百年というのはどこから出てきた数字なのだろうか、という疑問が頭の中を渦巻く。
ルーの言っているフォルスーンが、ナイトの知るフォルスーンと同一の存在であるならば。それは神話におまけのように出てくる逸話の一つだ。
「確か酷い災害が起きていた地域に出現していた、魔物、でしたか?」
「多分それだね。木のクセに近くに火山があったからか火炎耐性なんて付けちゃって、討伐するのが大変だったんだよ。燃やせないし、周辺の魔力を吸い上げて強くなるタイプの魔物だったから下手に魔術は打ち込めないし。
最終的には意図的に魔力切れを起こした、イナルジーアが伐り倒してたっけ。アイツの馬鹿力にはうんざりしてたけど、ああいう時には役に立ったよね」
ナイトは感心しかけて、ふと疑問を抱いた。
「……どうしてそこで悪魔の名前が出てくるんです?」
「は?」
ちなみに心苦しくはありますが、この蘊蓄は数話続く予定です。