プロローグ 後編
長らくお待たせして申し訳ございません。
そんなわけでようやくプロローグが完結いたします。長かった。いろいろな意味で。
それでもやや駆け足になってしまい、申し訳ありませんでした。ゆっくり出来ないかとは思いますが、じっくり味わっていただければ幸いです。
――すぐ向こうには本邸が見える。
なんとか迷わず森を抜けられそうなことに安堵していると、ラウルが、いや、ルーが肩を竦める。
森を走っている間、ルーは変装と称してラウルの姿に変じていた。その方が油断を誘いやすいと言いながら。確かにそれはそうなのであろうが、あまりにもラウルに似すぎている。ラウルの方が身長が低かったと思うが、その身長すらも再現しているのだから驚きだ。
こんなに小さい子が、あと二、三年で成人を迎えるナイトと同じ速度で――むしろ速いくらいに森を駆けるなんて。改めて自分の無力さに悲しい気持ちを抱えてしまう。
――ルーは言う。
「私を抱えろ。追手たちから逃げ回って、もう走れないほどに疲れているフリをしろ。大丈夫、実際走ったのには代わりないだろう?
ところで、その手で兄を殺す覚悟は」
改めて問われ、ナイトは目をそらす。
本当は兄を殺す覚悟は、ない。だが本家を、民を守る為に必要ならと選んだ選択肢なだけだ。そもそもナイトは、人をまだ殺めたことがない。このまま平民になって、身の丈に合った暮らしをするのだと。ずっとそう思ってきたからこそ、その覚悟をするとは夢にも思っていなかった。
その迷いを察したのだろう、ルーは一つ頷いた。
「まぁ、それはそれで良いと思うよ。
今回は私がやろう。次回以降の似たようなケースは知らん。ついでに、向こうの手の者は概ね殺す。良いね?」
言われた意味が、理解できず、ナイトは首を傾げる。
いや、言葉の意味は分かるのだが、理由が分からないと言った方が適切か。兄だけを排除すればいいのではなかろうか。概ね殺す、だなんて。
「……殺したら、それ以上の使い道が無くなるんじゃないですか?」
嫌みとして反撃するも、ルーは深く溜め息を吐くばかり。
今のルーはラウルの格好をしているから、ラウルに呆れられたような気がしてくる。状況的に仕方ないのであろうが、非常に不服だった。
「王家に反逆したと見なされた場合、いずれにせよ死罪になる。最終的には殺されるのであれば、後はいつ死ぬかの違いだよ。
キミまで断頭台に立つ気か? 最低限でもそれを避けるためには、反逆者を殺しましたと言えるだけの材料が必要だろうに」
「……は?」
自分が断頭台に。その発想はどこから出てきたのであろうか、とナイトは目を丸くする。
兄がやった事なのに。自分も巻き添え。一体、どうして。死にたくない、という思いがぐるぐると頭を駆け回った。
――頬に走る痛み。
ナイトは頬を叩いたらしいルーを見下ろした。
「あのね。こういうのは大体一族連座になるんだよ。常識だろう? 今回は恐らくキミの実家の人たち、使用人含めて全員。知っていようが、いまいが、関係なく、だ。反逆罪なんだから、その根は完全に摘んでおくしかなかろうよ。
――だからキミが生き残るには、手土産が必要になる。貴族とはそういうものなのだよ」
「……りかい、したくないです」
ナイトは掠れた声でようやくそれだけを呟いた。
ルーに任せておけば万事上手く、丸く収まると思っていた。だが、どうしようもないことはあるのだと。ただ泣いている暇がないのだ。
「理解せずとも分かれば良い。いずれキミには関係のなくなる話だろうからね。
――さ、早く。時間がない」
早くしろと催促するルーを、ナイトは暗い気持ちで抱き上げた。
走ってきた風を装い、ナイトは森を抜ける。本邸が近くなったことにより、そこから漂う緊迫感はいや増す。生唾を飲み込んだナイトにルーは声をかける。
「おにいちゃん……?」
「だ、大丈夫、です」
声もラウルにそっくりだ。ちょっとした仕草も、ただ数分程度接していただけとは思えないほどに似ている。今抱きかかえているのは、本当にルーなのだろうか。
動揺が声に出た。だが幸いか、誰も聞いていないようだった。
ナイトが歩く姿か音か。気付いた見回りらしき者が周囲を囲む。踵を返そうとしたが、手が早い、すでに背後も囲まれており、ナイトとルーは取り押さえられた。
「おにいちゃん!」
剣を向けられ。ラウルは、いやルーはこちらへ手を伸ばす。助けてほしい、と縋ってくる表情。ああ、屋敷から逃げ出すときの、あのラウルの不安な表情だ。
――さすがのルーも大人の、男の腕力に抑えられては逃げられないと思われる。うまくいくのではなかったのか? まさかラウルに戻ってくると言ったのは、何かしらの気休めだったのだろうか。
ここにきて、ナイトは疑念に駆られた。
「ッ、離してください!」
助けようにもナイトも取り押さえられている。こうしている間にも応援は集まり、兄が、姿を現す。
「のこのこ戻ってくるとは、ナイト、やはりお前は無能だな?」
兄の嗤い声。すらりと鞘から抜かれる、金属の。ラウルを取り押さえた者たちが離れる。ラウルは逃げようとするも、兄に踏まれる。
「まぁ、良い。この子供を殺した後はお前だ。
ナザリオたちが何をしているかは知らないし、シナリオも修正しなければならないだろうが……本家を根絶やしにすることこそ大事よ」
振り上げられた白刃が、ラウルの小さい体、目掛けて――。
「ぐ、あ!?」
カラン、と。
兄はありえないタイミングで剣を取り落とした。ナイトは何が起こったのか理解できず、周囲を見渡す。大の大人が、人目もはばからず、皆、頭を抑えたり、胸元を握りしめたりして、呻いている。
気付けば取り押さえられている力も弱まり、ナイトは立ち上がる。
「……こんな話をご存じかね」
ラウルの声で、ソレは謳う。
「キミたちにとっては、おそらく、遥か過去の物語だ。その土地にはピッカート皇国という国が存在していた。
……時の皇帝、その継承権第一位の王子、名をファウストと言う」
――なんの偶然だろうか。ナイトはその名前を聞いたことがある。
ユラリと立ち上がったソレは続けた。
「彼は攻め入る他国の軍勢を退けるため、多くの仲間たちと共に数多の困難を乗り越えた。彼らの絆、努力、苦労の甲斐もあり、国は平穏と平和を手に入れた。
その、影となり闇となったファウストの友人の一人は、あまりにも働きすぎていつ眠っているのか、いつ休憩を取っているのか、定かではなかったという
戦争状態ならば、不自然ではなかったがね。キミ、平和な時に朝な夕なと働いていれば、身体を壊さないか心配になるのだとか」
――雲行きがやや怪しくなってきた。
そのご友人は、いったい。
「人のことを酷使しておきながらふざけるな、と言いたかったね。
……ある日。ファウストの友人はとある辺境の地の視察を言い渡された。辺境の地、というのは都から離れているからね、不穏な動きがありはしないか、まぁ、確かに心配ではあった。
残党が残っているかもしれないしね。そういうことで、その友人はその辺境の地に足を踏み入れた」
どことなくその話をナイトは知っている気がした。何故だろう。
「街中は何も問題なかったがね、森の中に新たな拠点などがあるかもしれない。ソレはファウストの心配に付き合うように森へ入った。
……結果、ソレは、友人に半ば騙されるような形で、その地に休暇という名の、封印をされることになったというわけだ。
その友人というのが、何を隠そう私のことなんだが」
肩を竦めるルーは、周囲を見渡す。
「おや、キミしか聞いていなかったみたいだね。さすがに精神的苦痛が酷かったかな? 皆気絶してる。
これで楽に始末出来るか。……ああ、でも王族からの心証的には、首謀者とその一番の腹心は残しておく方が良いのかね。証言の必要を考慮してなかった。非常にこの辺りの匙加減は悩ましいよね。じゃあキミのお兄さんは今は殺さないでおくよ。
とりあえずナザリオとか言うやつと、コイツは残してやるか」
「あ、アンタ……何を?」
座り込んでいるのに、ナイトの脚が震える。いや、脚だけではなく全身が震えている。
この惨状を作った本人は、当然というように平然としていた。
兄たちを襲ったらしい謎の苦痛、今語られた話。そのどれもが、すべてナイトの理解の範疇外であった。教師たちはこのような現象を何一つ教えてくれなかった。ルーに聞きたいことは幾つもあるが、何から聞けばいいか、そも、何が聞きたいのかが分からない。
ルーは肩を竦める。もはや癖なのだろうか、気付けば肩を竦めている気がする。もっとも、竦めさせているのはナイトに原因があるのだろうが。
「何をって、彼らに悪夢を見せただけだよ。――ったく、何年封印されてたか知らんけど、大分長いことあそこにいたらしい。
助けてくれた礼もある、キミ、改めて契約をしようじゃないか」
「けいやく?」
「キミは魔力を使って私の封印を解いた。何の偶然か、当時のファウスト殿下のようにね。いや、ファウストの時も偶然だったのだが……キミも偶然っちゃ偶然か。いやはや、こんな偶然があるとはな。偶然続きで作為的なものを感じるよ」
ナイトの兄を縛り上げるルーは、ベルトポーチから布を取り出し、ナイトの視界を奪う。
呆然としていたナイトは、視界を奪われたことに遅れて気付く。ほどこうとするが、布はきつく結ばれているのか、中々取れない。
「ともあれ、キミは私に魔力を注いだ。だから、契約をしなければならない。これは強制だよ。
今回のこれは、まぁ、プレゼンテーションと言うべきか、デモンストレーションと言うべきか。俺はこんなことが出来るよ、っていう見本みたいなことだね。
これ以外にも出来ることは幾つもある。例えば軍隊の指揮であったり、作戦立案であったり……まぁ、この辺りは追々になるのかね。ある意味では一生発揮されなくていい能力ではあるが、こればかりは愚痴を言っても仕方あるまい」
ルーの羽根のように軽い声が、ナイトの耳を撫でていく。目まぐるしく変わる現状。物語であれば、多少は手加減してもらえたのだろうが、今は紛れもなく現実。丁寧な説明を、かみ砕く時間を、無慈悲な時間は与えてくれないのだ。
「ちなみに今、キミの目を隠しているのは、アレだ。人が死ぬところを間近で見たくはないだろう? 配慮だよ、配慮」
「ありが、とう、ございます?」
「礼が言えるというのは良いことだよ。誇っていい」
何かが頭を撫でる感触。ルーの手、だろうか。その優しい手は、ナイトを、何より満たした。
「まぁ、今ダラダラ話しても、キミの理解力を考えるに意味がないだろう。
小難しい話は後だ。今は休めばいい。悪夢に魘されないよう見てやるから、ゆっくりと。
ほら、お休み」
その言葉で、ナイトの緊張の糸はぷっつりと切れた。
――聞いた話だが。
ルーはナイトの姿を借りて事後処理を行ったらしい。
話の通り、兄の手の者はルーによって気絶したまま殺され、そしてナザリオと首謀者は王族に引き渡された。二人は、取り調べ後、処刑されるのだという。
ルーは取引の結果、ナイトの安全と、それからミゼリコルディア辺境伯の跡継ぎを指名した。王都で勉強中の、本家長男だ。どうやらあの夜、首謀者の計画では暗殺されるはずだったが、未然に阻止されたという。首謀者にとって計算外だったのは、本家長男は能ある鷹はなんとやらで首謀者に届いていた報告以上に優秀な成績を収めていたらしい。
その報告を歪めた者は別の分家の、家令だったという。その功績を認められ、本家長男が学園を卒業するまでは現分家筆頭のその家が代わりにミゼリコルディアを管理していくのだとか。ラウルは分家筆頭預かりとなり、教育を施されるという。
その話をしたルーは苦笑交じりの笑みを浮かべていたが、万事、丸く収まったのには間違いない。
……そして、当のナイトは。
「……本当に僕、貴族じゃなくなっちゃいました」
「当たり前だろう。あんな大それたことをした家の、生き残りだ。到底貴族にはしておけない。犯罪者として無償奉仕させられなくて良かったじゃないか。
――それに、キミ。キミだって自分が貴族の器じゃあないことは察していただろう?」
正式に平民となって自由を得た。
どのような取引が交わされたかは、分からない。眠って、起きたら、領都の中級の宿屋の一室にいたのだ。誰が、どうやって運び入れたかは不明だ。
一夜でそこまでの処理を終わらせ、また王族らなどとの取引を終わらせたという。その手腕は、さすがに聞いただけのナイトでは理解が難しい。本当に、ルーには驚かされてばかりだ。
「――とまぁ、そのような形で。一連の事件は一応ハッピーエンドを迎えたとさ。表向きはな」
「……裏があると?」
呑気に首を傾げたナイトに苛立ったか、ルーはその頭を叩いた。ちょっと痛い。
叩かれたところを抑えるナイトに、ルーは呆れを隠さない。
「大ありだ。つか、ここまで話していて気付かないキミは、何か天性の才能でも有しているのではないかね。鈍いにもほどがあるだろう。
――王族との妥協点が、このシナリオだったのだよ」
王族との妥協点とは。
首を傾げたナイトに、ルーは溜息を吐いてから言う。
「今から話すことは、公式の見解ではない。下手に騒ぎ立てるとキミ、殺されるから気を付けろよ。……ああ、当事者だから伝えておかなければならないのに、どうしてこんなアホに、この件の真実を話さなくてはならないのだろう。
絶対どこかで口を滑らせて殺されるのがオチなのに! 下手にキミの姿で事後処理なんてしてしまったから、辻褄を合わせるためにも、話さなきゃならないなんて!」
「う、うるさい、早く話してくださいよ!」
貶されていることは、解説されなくても理解した。
ナイトが吠えると、ルーは再度その頭を叩く。
「うるせぇのはキミの方だ。少しは無い頭を働かせろ。
実際はこうだ。隣の領主は、この領地の領主の娘と自分の息子を結婚させただろう? それだけじゃあ足りなかったのだよ。欲に目が眩んだ、と言えば分かりやすいかね。得られる金や、オリハルコンから得られる財は、自分の死と引き換えてでも欲しいと思わせるほど、莫大だった。
ただ、実際に死んではその富は自由に扱えない。だからこそ、誰かに実際に動いてもらい、横からそれをかっさらう方が、効率が良い。だからキミのお兄さんに危機感を抱かせ、追い詰め、凶行に走らせた」
衝撃が走った。兄は、間違ってはいなかったのか。それなのに汚名を背負わされて、死ぬなんて。
呆然としていると、ルーはナイトの頭を撫でる。
「まぁ、キミが言いたいことは分かる。ただね、国防の点から言っても仕方のない措置ではあるんだ。こんな短時間に二つの国境線に接している領が、崩れたら。それが隣国にばれてしまったら。攻め込まれるに決まっているだろう?
さて、話を続けよう」
どうしてこんなに大事なことが、そんなに軽く話せるか。ナイトには全く分からなかった。真実を隠す選択をする国王も、そのシナリオを共に書いたルーも、信じられなくなりそうである。
「――凶行に走らせた結果が、昨夜だ。隣の領主は、本来であれば俺たちがやったように、反逆者を捕らえた功績として、領地を吸収するつもりだった。だが、キミと私のおかげで計画が潰された。それでも何とか功績をかすめ取ろうとしたらしいのだが……。
まぁ、そんな裏事情がとあるルートから王族へ明かされてしまったからね。隣の領主は横からかっさらうどころか、御家取り潰しの憂き目に遭いそうになった。ここで出てくるのが、国防の観点から出てきた政治的取引なのだよ。
結果、現領主は引退し、権力の一切を放棄し、早急に代替わりするよう求められた」
「……代替わり、と言うと、ご長男の」
「そう。少しは分かっているじゃないか。名前を何て言うんだったか。まぁ、今はそれは大事じゃあないか。
ともあれ、彼は今回の計画に関係していなかったから。とても激怒して、父親の頬を思い切り張り倒していたよ。良い音がした。見ていて爽快、と言うのはあのことを言うのだろうね」
まるで見てきたかのような物言いである。いや、見てきたのだろうが。
無表情ながらも、声が少し浮かれているように聞こえる。絶対楽しんでいる。楽しめるような状況では、何一つないというのに。
「キミの心中は察しているよ。到底そんな笑い話は受け付けない、だろう?」
「分かってるなら、なんで!」
「これが俺の性分だからだ。誰かの見ている悪夢。それが、私だ」
ルーは、ヒタとナイトを見据える。その瞳はあまりにも暗かった。絶望だとか、そんなことではなく、無、なのだ。先ほどまでの楽しそうな様子はどこなのか。
全て、演技だったのだろうか。
「昨夜はね、キミ。悪夢だったんだよ。その程度だよ」
フと、ルーは表情をわずかに緩めた。
また肩を竦めて続きを口にした。
「ええと、どこまで話したのだったか。
そう、それでその辺りの醜聞を隠さねばならないからね。王族と話し合い、表向きの台本を提供した。そして取引の結果、キミの自由を得た。
どうだい? 家に縛られない生活は」
「……とても、苦い味がします」
それ以上に言えることが無くて。ナイトは歯噛みをした。
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ちなみに。
ナイトはそう言えばと思い出す。昨夜、兄たちは急に倒れた。それの原因は?
ルーは悪夢を見せた、と言っていたがそれは文字通り悪夢を見せたのだろうか。それとも何かしらの比喩発言なのだろうか。状況から考えるに前者であろうが、聖力は感じ取れなかった。
それに、その後、ルーは魔力と言わなかっただろうか。魔力とは魔物が有している邪悪な力。それは、ヒトが持っていて良い能力ではない。事の顛末より、ナイトはそちらの方が気になった。
「あの……」
「ああ、その顔だけでなんとなく聞きたいことが分かった。私のことだろう」
「い、いえ。兄たちが急に倒れたのは?」
「いや、だから。俺のことだろう?」
どことなく嫌そうな顔をして、ルーは溜息を吐く。ナイトには『悪夢を見せる』ということと、『ルーのこと』がどのように繋がるか、全く分からないでいた。
ルーは首を傾げる。
「はて、どのように説明をしたら良いか。……実際に体験してみるかね。私としては“そういうもの”としか言いようがないのだよ。
どのように扱っているか、なんて。分からない。キミだってどうやって呼吸しているのか、実際に説明するのは難しいだろう? 吸血鬼が血を吸うように、また人間が群れて争うように。それはごく自然の、出来るからやる能力なんだよね」
「……何ら説明になっていない上に、アンタ、自然に人間を貶していきますね。一応人間だって争っているばかりではないと思うのですが」
「右を向いても左を向いても争いばかりだと思うが? それは例えば市場の競争とか、腕の競い合いだとかも含んでいる。
優劣を競うのは生物的本能だから、謙遜しなくてもいいのだよ」
何を謙遜すればいいのだろうか。回答に困る。
ルーのあの能力が、出来るからこそやった、というのであればそれ以上の追及はできまい。出来るからやるのであれば、無差別に発動するわけでもなさそうだ。安心していいのかは、少々悩ましいところであるが。
「で? はぐらかさずに教えて下さいよ。アレは何ですか?」
「……そも、キミたちには失われた技術が多いと思わないかね?
どうして同じ動物が、違う力を使うのだ」
言われたことが、例によってよく分からなかったが。首を傾げるナイトに、ルーはゆるりと頭を振った。
「まったく。では次回はそこの講習から始めようか」
と、いうわけで、第一部第一話は世界についての講習です。