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ドーナツの穴  作者: 久架 雪歩
一部
13/15

一部九話

 お待たせいたしました。


 ようやく打ち合わせみたいなのが一段落して、一応主人公が夕飯を食べに行きます。宣言通り一月で二話更新出来て安堵しております。


 それではごゆっくりどうぞ。


追記

1/23:前書き・後書きにて、割と未来の話をしてしまったので、その分を修正しました。投稿したばかりでの修正、大変申し訳ございません。


 ここはコレール王国内、ルヴェール。とある宿屋の一室。

 ナイトは一族に伝わる剣術の正体をルーが知っていたことに驚愕していた。主流としては鞘から抜いた状態での立ち回りが多いと聞く。この剣術を知っている者は多くないと聞いていたが故の驚きだ。

 ルーはその剣の柄部分を取り外しながら答える。


「どうしてオレがその剣術を知っているか。簡単な話、知っているからだよ。それの使い手を見たことがあるんだ。そもそも私はキミで言うところの何百年前の存在で、今や失われた技術もわんさか存じ上げているんだぜ?

 ――抜刀術……いや、形式的には剣か。抜剣術くらい、見たことがある」

「見たことがあるって……自分で言うのもなんですが、コレ、かなり特殊な剣術だと思うんですが」

「ああ、特殊だよ。本当に特殊だよ。よくもまぁ、そんな奇妙な技を考え付くものだと感心したほどだ。それを扱う一族だったというキミに、たった今尊敬の念が出てきたところだ。誇っていいと思うよ。まぁ、キミ自身への尊敬でないことには肯定しかないが。

 もちろん使い方にもよるのだけど、とっても強いんだ、それ。普段の俺の攻撃スタイルとの相性はあまり良くないんだよね。だから余計に思うのだけど、本当に強いんだ、それ」


 浮かれた声でルーは続ける。そのどこか楽しそうな様子に、自分が褒められているわけでもないのに何故かナイトが嬉しくなってしまう。――ナイトは、一言余計な部分をきれいさっぱり無視することにした。

 ルーは柄の部分を見慣れた護拳へ直し、それから鞘に納めては抜いてを繰り返して使用感を確かめる。ルーが使うわけではないだろうに、しかしその調整は慎重に行われているようだった。


「オレ、普段はナイフ使うから急に剣を素早く抜かれたら流石に間合いの都合上、首を切られるんじゃないかとヒヤヒヤするんだよね。気にせず突っ込むか、避けるかするけど、かなりの達人だったら流石に抜く動作だけで首をザックリ斬られてしまうよねぇ。

 ちなみにキミ、抜く速度はどれほど? キミの事だからさすがに音の速度ほどではないと思うけど、初めて見る人だったら圧倒される程度には早かったりするかい?」

「否定はしないけどなんだか腹立たしいな……!」


 確かにナイトはその剣術の達人というわけでもないが、そういわれると腹立たしいものを感じる。いずれ使わなくなるのだと思っていたから、真面目に練習していたわけでもないし、師から技術をすべて盗んだとも思っていないが。それでも腹立たしく感じるのは、存外ナイト自身が剣術に少なくない思い入れを抱いている証左だ。

 ――ナイトはその事実に気付かずにむくれる。その様子をどこか微笑まし気に眺めたルーは、肩を竦めた。


「……まぁ、達人というほどでもないが、多少だったらこの剣の扱いも、抜剣術も出来るから。ダンジョン内で余裕があったら見せてあげるよ」

「色々な意味で本当ですか!?」

「抜剣術が使えることを証明するためにも、見せた方が効率が良いだろうに」


 それもそうだ。納得してしまったナイトは、先ほどとは打って変わって明日が楽しみになった。一族以外の抜剣術を見せてもらえるのだ。ナイトの剣を教えてくれた、師を思い出し――思わず遠い目をしてしまう。

 その様子に気付いたらしいルーは首を傾げた。


「……間抜け面が阿呆面に変わったけれど。どうかした?」

「う、うるさいなぁ!? いいじゃないですか、多少感傷に浸ったって!

 ……僕の剣を教えてくれた人は、もう死んでしまったのだろうと思って、つい」

「……ああ、そういえばキミの一族しか基本的には使わないんだっけか。抜剣術は」


 少ない言葉でナイトの浮かない顔の理由に思い当たったらしいルーは、深く息を吐いた。ルーが誰を想像したかは知らないが、ナイトへ剣を教えたのは、兄の腹心。ナザリオだった。

 ――ナイト様は争いごとには特に向いていないのかもしれませんね。

 そう言って柔らかく微笑んだ彼の表情が、思い出される。つい眉根を寄せたナイトへ、ルーが声をかけた。


「キミ、そんなアホ面してるとお化けが寄ってくるぞ」

「は、はぁ?」


 何を言い出すのだろうか。思わず怪訝な顔をしてしまったナイトは、きっと悪くないのだろう。急に声を出すと思えば、お化けの話をし始めるだなんて、予想外も良いところである。剣の最終確認を始めたらしい、ルーは少しも顔を上げずにナイトへ言葉を畳みかける。


「お化け、というのは些か抽象的な表現に過ぎたか。正確にはアンデッド、その中でもゴースト類というのは時として生きている人間のせいで発生することがある。

 彼らの発生の原因は複数の理由がそれぞれ複雑に絡み合っているから、これが主な原因、と断定することは出来ない。出来ないが、その一つに生きている人間の強い想い、というのがある。死者にもう一度会いたい、せめて一声……といったパターンだな。

 前に魔術とは練習すれば誰でも使えるモノだと言ったことがあるが、それは魔力の操作の練習が大部分を占める。文字を書く、という行為で言うのであれば筆を持つ部分に該当するか。持ち方はいい加減でも文字は書けるけれど、綺麗な文字を書く為には持ち方をしっかりしなければいけない。

 それと同じように、ただ魔術を発動するためだったら特に魔力の操作の練習は必要ないが、効率よく魔術を発動させるには魔力の操作の練習が要る。

 それは、裏を返せば……たとえ魔力操作の練習などせずとも、魔術は容易に使えるということだ」


 確かにそれはそうなのだが、それとお化けがどう繋がってくるのだろうか。ナイトには話の流れがやや見えていなかった。

 ――一応、アンデッドを作成したり操ったりする特殊な術があることは、ナイトも知っている。だが、それは禁忌とされており、『特殊聖術』という括りではなく『禁忌魔術』という分類をされる。

 一度死んだ者は安らかに眠らせるべきだ。そういう、理屈で。

 ルーは、バターを切るような気軽さでそれについて触れてきた。


「死霊術師という存在がいることはご存知かな?」

「き、禁忌魔術じゃないですか」

「なるほど、そういう括りか。

 死霊術師という存在は、まぁ確かに聞くと大分怪しいけれど、一応彼らはアンデッド退治についてはこれ以上ないほど専門家でもあるんだぞ。……と、脱線しかけたな。

 話を戻そう。――生者が死者を強く想う。すると意識的であれ、無意識的であれ、その人から魔力が漏れ出てくるのだよ。とはいっても本当にその量は微量だ。誤差範囲とも言えるほどの微量だ。だが、それが何十何百と積み重なると死者と結び付き、アンデッドとなる。こともある」

「……つまり?」

「アンデッドは魂と魔力が歪に融合して出来る時もあるのだから、あまり死者を悼みすぎるとアンデッドとしてそこらを歩き回るぞ」


 分かるような、分からないような。だが、かなり雑ではあったがルーがナイトを慰めようとしていたことは分かった気がする。

 ナイトは溜息を吐いてから――苦笑を浮かべた。


「ご忠告、ありがとうございます」

「……終わったことだと、すべて割り切れとは言わないが、せめて勝者として勝ち誇るくらいの気概でいた方が人生楽だぞ」


 どこか重い響きを伴った忠告だ。それに、ナイトは肩を竦める。



 ルーは結局護拳などの調整が納得出来ないでいるらしい。他にも用意するものがあるから待ってないで夕飯を食べてきて良い、との言葉に甘えてナイトは一人で外に出ていた。

 ミゼリコルディア領とは、当然ながらも街並みがかなり違う。もちろんミゼリコルディア領と近い為、面影を探そうと思えば共通点などいくつか見つかるのだろう。だが、ナイトがああも愛した領は、ここにない。

 思っていたよりも遠くへ来ていたのだと、実感をするとどこか不安な気持ちがソロリと這い寄る。思っていたよりも空が暗いせいだということにして、ナイトは冒険者ギルドの建物へ入った。

 ここの一階は受付兼食堂ということになっている。提供されるのは酒も含まれる為酒場のような賑わいを見せている。あちらこちらから酒の独特の香りがして、ナイトは苦笑とも微笑みともつかない表情を浮かべた。

 この食堂は安くて早くて、そしてマズくはない料理を提供しているらしい。食堂のカウンターで注文をする。おすすめだというディナーメニューは、確かに安価だった。味にはあまり期待しないでおこう、とナイトは固く誓う。

 かなりの賑わいを見せているとはいえ、端の方には空いているテーブルがあるようだ。ナイトはどこか申し訳ない気持ちを抱えながら、そのテーブルを一人で使わせてもらうことにした。

 周りを改めて見てみると、多種多様な人がいる。筋骨隆々な男とか、ローブを纏って如何にも聖術が使えそうな人とか。――聖術が使える人間は自分がどうやって術を発動させているか隠す傾向にある。見る人が見れば、次に何の術を発動させるかが一目瞭然だからだ。だから聖術師同士で戦いになった場合、いかに上手く隠せるかが重要になるため、ローブなど体が隠れる服装を好むのだと、ルーが言っていたような気がする。

 あとはルーのように軽装な人もチラホラ座っていた。

 基本的にこの国の冒険者たちは四人から六人までの組を作って活動することが多いという。その組は俗にパーティーと呼び称するのが習わしなのだとか。

 ナイトのように一人でご飯を食べている人は、圧倒的少数派だということに気付いて、ナイトは少し悲しくなった。……深く考えないようにして、さらにこっそりと周辺を覗き見る。

 やはり多く所持している武器は剣だ。それも短剣ではなく、ナイトが普段扱っている程度のいわゆる普通の剣。極稀にとても大きい剣を持っている人もいるようだった。とても大きい剣を持っているのと同じくらいの比率で、槍を持っている人。そして斧。どのように扱うか、ナイトには分からなかった。

 ルーのように短剣を所持している人は、見当たらない。ルーが珍しいのか、それとも短剣を持つ者は自分の武器を見せびらかさない傾向にあるのか。ナイトにはそれも分からなかった。

 ――どこかの席が、とても盛り上がっているらしい。


「よぅし、じゃあ新人! 歓迎会ついでにこの街の初級ダンジョンについての知識のおさらいだ!」

「はいっ!」


 あまりにも気になる話題が、大きな声でやり取りされていた。あまりよろしくないことであることは自覚していたが、ナイトは聞き耳を立てた。

 どうやら、会話は背中側の席で行われているらしい。


「ダンジョン名は?」

「ええと、ゴブリンとオークのオーガスト、でしたよね!」

「おう、そうだ! 出てくるモンスターがゴブリン種とオーク種であることに因んでいるな。ちなみにその『オーガスト』の由来は不明だ」

「五百年以上も前には存在してたなら、そりゃあ由来も分からなくなりますよね……」


 思っていたよりも古い、と言えばいいのか。思っていたよりも最近だったと言えばいいのか。判断が付かない。そういえばルーはこの街のダンジョンは、ダンジョンマスターが手を加えたと言っていた。つまり手を加えたことを知っている程度には生きている事になる。

 具体的には本人も何年生きているかを把握できていないようだったが、あとでこの情報もあわせて聞いてみようと、ナイトは心に留める。


「出てくるモンスターは層で分かれているが、言えるかぁ?」

「一層目がゴブリン、二層目がゴブリンとホブゴブリン、三層目がホブゴブリン、四層目がホブゴブリンとオーク、五層目がオーク。でしたっけ」

「オッ、言えたなぁ!」


 ゴブリンとは、身長一メートル程度の妖魔。知能は低く、臆病な性格をし、醜い容姿を有している。二、三匹で行動していることが多く、小さなことで仲間割れを起こし、また小さなことで争っていたことを忘れる。どこか愛嬌があるようにも見えるが、彼らの存在は時々思わぬ事故を起こすことが多いため、可能な限り駆除することが推奨されている。――ダンジョン内のゴブリンは張り巡らされている結界によって、外に出ることが無いため、一般市民への被害が無い事だけが幸いだろう。

 ホブゴブリンとは、そんなゴブリンの強化版だ。ゴブリンより僅かに身長が高く、また力も強い。頭の方はゴブリンより良いらしいが、どんぐりの背比べ程度と聞く。ホブゴブリンともなると、僅かに技術の概念が芽生えるようで、持っている武器の振り方が多少整ってくる。

 オークとは、二足歩行の豚のような外見をしている妖魔である。ゴブリン・ホブゴブリンより強く、また頭も良いと聞く。集団で槍を突き刺してくるため、冷静に見極めないと大けがをする。らしい。

 魔物と実際に遭遇したことのないナイトは、それらすべてを知識としてしか知らない。元気よく先輩冒険者に知識の確認をしている新人も似たようなモノらしく、どこか不思議そうにしていた。


「それにしても……討伐難易度エフってことは一番倒しやすいってことですよね? 何であんなにしっかり準備するんです?」

「あー? そりゃお前、ダンジョンが長いからだよ。ダンジョンが五層ってのは、ダンジョンの中では確かに短い部類だ。中には百とか、最深部が確認されていないダンジョンなんてのもあるくらいだからな」

「うわ……」

「ちなみにそんな百とかを越すダンジョンはセーフポイントがあるから、そういった場所には出張冒険者ギルドが設置されていたりするな。

 ――要は、それくらい広いんだ。ちゃんと最初から最後まで攻略するなら、数日間の水と食料が必要になる。水の陽の聖術が使える奴はこんなところで重宝するんだな。でも食料ばっかりはどうしようもないだろ?」

「えっ、ちなみに攻略に何日かかるんですか?」

「ゴブリンとオークのオーガストなら……荷物の量とか、人数とか、運次第だが……平均的なパーティなら二日から三日は見た方が良いかもな」


 ――ちなみにルーはそんなダンジョンをサクッと攻略した上で、隠し通路の向こう側も攻略すると豪語しているのだが、本当に大丈夫なのだろうか。

 ナイトは不安を抱く。最初から最後まで走り通しとか言われないだろうか。言われそうな気がしてきた。今日はゆっくり休まないといけないらしい。

 そういえばダンジョン内にどれほど滞在するか知らないが、食料などの準備はしなくても良いのだろうか。ナイトはこれも部屋に戻ってから確認することを心に留める。


「ぉし! 今日は呑め吞め! 明後日出発だからな! しっかりと英気を養っておけよーっ!」

「ぅぐっ!? せんぱ、酒瓶ひっくり返さないで――!」


 ……後はどんちゃん騒ぎになっていた。それを横目に見ながら、ナイトは止まっていた食事の手を再開させる。

 ――ナイトの正面に陰が差す。

 顔を上げると、当然ながら人がそこにいた。ルーとはまた違った意味で奇妙な人だった。ルーが老若男女のどれでもあるならば、この人はそのどれでもないような。そんな人だった。

 その人はどこか困ったように微笑みながら、夕飯を乗せたトレーを持ちながら尋ねる。


「大変申し訳ありませんが、ここよろしいでしょうか?」

「え、ええ。はい、どうぞ」


 元々一人で使っているのが申し訳ないと思っていたのだ。ナイトが頷くと、その人は軽く頭を下げながらナイトの正面に座り食事を始める。かと思いきや。

 その人は首を傾げ始める。


「……お食事中申し訳ありません。もしかしてあなた、新人さんですか?」

「ええ……そうですが、それがどうかしましたか?」


 話の流れが読めない。つられてナイトも首を傾げていると、どこか憂いを帯びた表情でその人は何かを取り出しながら言った。――身分証明カードだった。

 そこにはその人が聖術ギルドの人間であることが明記されていた。


「申し遅れました。ぼくはアギーリ・フォーギオ。アギーリとお呼びください。聖術ギルドの職員をしています。実は最近、冒険者ギルド職員より、『新人狩り』の噂を聞いておりまして。少々心配になったのでご忠告を、と思いました。

 余計なお世話でしたら、申し訳ありません」

「……ご丁寧にありがとうございます」


 ナイトはその人――アギーリへ身分証明カードを返しながら小さく頭を下げる。それにしても『新人狩り』とはあまり平穏な響きではない。思わず眉を寄せると、アギーリは困ったようにまた微笑んだ。綺麗な仕草でスープを一口飲み、その人は話し出す。


「今回行われている『新人狩り』は、ゴブリンとオークのオーガストから出てきた新人を狩る、という手法が主流のようです」

「……単独犯ではないのですか?」

「詳細は不明です。ただ二人以上であるのは間違いないだろう、といったところです。ただ、犯人たちが何人組なのかなどの情報が、全く分からないのです。

 手口としてはダンジョンから生還してすぐの新人ばかりを狙い、人気のない場所にまで誘導して、そこで犯行を行っているようなのです。ダンジョンから無事帰って来て、油断しているところを。

 ……正直早くどうにかしたいところなのですが、聖術が悪用されているようで、痕跡がほぼ残っていないのです。推定の現場は綺麗ですし、目撃者もいないし、聖力の痕跡も術の行使者を辿れない程度に薄い。また素直に私が犯人だと名乗り出てくるような人たちが犯人な訳でもない。凄く、手を焼いているのです。

 いっそ新人を装った実力者に依頼でもして返り討ちにし、現行犯で捕まえたいところなのですが、この街の実力者は犯人たちに顔が割れているとみて良いでしょう。それに変装するにも体格ばかりは誤魔化すにも限界があるのです。ですので、新人さんたちには気を付けていただくより他が無いのです」


 そこまで言われてナイトの脳裏に浮かんだのは、ルーだった。新人を装った実力者。正直身長が低いルーはそこまで強そうには見えない。実際あの小さい体躯から場を制圧する能力があるとは到底思えない。――もちろん、本人に言ったら百倍以上の小言が返ってくるのだろう。この事をルーに話す時は、この連想の事だけは言わないようにしようと、ナイトは固く誓った。小言は食らいたくない。

 そして悲しいことに、ナイトは自分がさほど強く見えないことも、自覚していた。

 そっと遠い目をするナイトへアギーリは首を反対側へ傾げる。その様子を見て、ナイトは慌てて微笑みを浮かべた。


「いえ、何でもないです。ほら、僕は見た通り強くはないので。真っ先に狙われてしまうかな、と思っただけなんです」

「気分を害してしまったようでしたら本当に申し訳ありません。ですが、被害者はこれ以上増やせないので」

「気にしていないですよ。丁度明日からダンジョンへ潜るつもりなので、帰り道気を付けます。ご忠告、本当にありがとうございます」


 お礼を返しながら、ふとナイトは思う。

 今の会話で半ば無意識的に行ってしまったのだが、対貴族用の最低限として教え込まれた微笑みを浮かべていたような気がする。つまり、このアギーリという人は対貴族用の微笑みを浮かべてしまうほど、何か警戒しなければならないモノを隠し持っているような。そんな気がしている。

 今の話も、どこまで鵜呑みにすればいいのか分からなくなったナイトは、とりあえず部屋に戻った後、ルーに話して聞かせれば良いかと。本人に聞かれたらこれもまた小言が落ちそうなほど楽観的な考えに至るのだった。

 

 というような感じで。世の中には困った人がいるものです。正直知らないイベントが起こっていて驚いています。


 次話も鋭意執筆中です。更新まで今しばらくお待ちください。

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