表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナツの穴  作者: 久架 雪歩
一部
12/15

一部八話

 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


 12月は11日に一部八話を投稿したつもりでいたのですが、ミスしていたらしいです。改めて一部八話を投稿いたします。今の今まで気づかないとか間抜けなことをしていましたね。代わりに今月、もう一話投稿できるよう努力いたします。


 さて、今回は前回に引き続いて打ち合わせというか、会議というか。そういう段階です。物語的にはまだもう少し会議回が続きますが、今しばらくお付き合いいただけると幸いです。


 それではごゆっくりどうぞ。


 起こるかもしれない戦争を止めるため、コレール王国にやって来たナイトはルーの暴走とも取れる発言に若干の頭痛を感じていた。

 ここは初級ダンジョンがある街、ルヴェール。ナイトは宿のベッドに、改めて座り直して首を傾げた。ルーはこの街の初級ダンジョンを“サクッ”と攻略してしまうつもりらしい。ルーの技量の一端を見たことはあるが、本当に口で言うほど簡単にダンジョンとは簡単に攻略してしまえるものなのだろうか。

 ヒトと、魔物とでは戦い方が違うと思うのだが。

 不安が伝わったのか、ベルトポーチの中を探っているらしいルーは溜息を吐く。


「なんだね、まだ俺の実力をお疑いで? 疑うのは一向に構わないがね、そんなことを言うのであればキミだって実力のほどを示していただきたいものだ。

 まぁ、一日かそこらで劇的に魔力量が上がっているとは、微塵も考えちゃいないが」

「え、あ、いや……ぁ……あはは」

「……良いだろう、今はそれで誤魔化されてやる」


 見透かされていたらしい。誤魔化し笑いも、今後は効かないと見て良いだろう。非常に困ったことにはなったが、どうしようもない。次に誤魔化したい時の言い訳は、その時に考えればいい。

 気まずい表情をしているナイトを見て、ルーはどこか遠い目をした。


「……フォルスーンの魔樹を討伐した話はしたっけ。じゃあ、別の昔話をしようか。

 ちょうどいい、ダンジョンマスターの話をしようか。ヤツの話もまた、興味深いのが目白押しだから」

「ダンジョンマスター?」

「世界に点在している現在のダンジョンを作成した、とあるドワーフの話だよ。キミ、キミはドワーフをご存じ?」


 聞かれ、ナイトは知識の中から彼らの特徴について思いを馳せる。――出会ったことは、無い。

 彼らは背丈が子供のように小さく、特に男は特徴的な髭を生やしている。基本的に地中に住んでおり、炭鉱夫や鍛冶職人を営んでいるケースが多い。種族的には亜人とされていて……ピッカート王国ではどちらかというと厳しい立場に立たされている種族だ。

 そもそもピッカート王国は、ヒトを何より優れた種族としている。だからこそ、王都の方では亜人を平然と奴隷にして売買しているとか。流石に名のある冒険者は奴隷に落とされることが無いとは思うが、あまり有名でない亜人が王都の方へ行くと人攫いに遭い、奴隷にさせられるとか。

 ミゼリコルディア領では亜人への偏見は無い方だと思う。少なくとも亜人に対して人攫いをするような輩は、ヒトに対しても害を成す可能性がある存在だ。治安のために、見つけ次第成敗していた。警備兵が。ナイトは連行される不届き者を見たことがあるだけで、捕り物に参加したことは無い。

 ――閑話休題。


「亜人の一種ですよね」

「違うよ、人類の一種だよ。何、あの国そんな教育施してるの。まるで人が何よりも優れている、みたいな言い回しじゃないか。私はあまりそういう方向性を好んではいない。思い上がりも甚だしいと思わないかね?」

「アンタはどの立場からその物言いをしてるんです?」

「この立場」


 ルーが僅かに眉を寄せる。その反応にナイトは首を傾げた。彼らの事を亜人と呼ぶのは、ある意味当然だと考えていたからである。だが、言われてみると人類の一種であることに間違いはない。

 感心を覚えていると、ルーは深く息を吐いた。


「エルフやドワーフは元は妖精やら神だったのが、時代が下るにつれてその神秘性を失い、ヒトの一種にまで成った者たちだよ。下手に妖精のまま、神のままでいるよりは今の方が暮らしやすいらしいけど。

 まぁ、言わんとせんことも分かるよ。下手に伝承の存在になっていると、魔力に左右されたり、なんだかんだと外的要因で容易に己が揺らいでしまうから、いっそヒトにまで存在を落として確固たる未来を築こう。なんていうのは、まぁ分かりやすい生存戦略だよね。

 ドワーフは元々大地に関する妖精だったんだよ。彼らは鉱石とか、そっちの方が主な管轄で。対してエルフは森やら植物やらが主な管轄の元、神だ。担当は非常に近い分野だというのに中身が全然違うということで、エルフとドワーフは互いに相容れない溝を作っているのさ。

 何だったかな、方向性の違い、という言い方が適切かな?

 髭はともかくとして。ドワーフが小さい背を有し、力強いのは鉱石を掘り当て、それを加工するのにちょうど良いから。エルフは高い木に登るから背が高いとされている。ちなみに補足だが存外エルフは好戦的な性格をしていて、尚且つ見た目に寄らず力もそこそこある。あいつ等の主な武器は弓だから、引く力が必要なんだよね。

 というわけでエルフにケンカを売ることは、あまり推奨できない。ひょろいように見せかけて俺より力がある」

「……やけに現実的なアドバイスですね?」

「うるせぇ」


 ルーはどことなく嫌そうな顔をし、ナイトを睨み付ける。何がルーの気に障ったか知らないが、なんとも理不尽な。

 不服そうな顔をしたナイトに対し、ルーは肩を竦めて謝罪を口にした。


「申し訳ない。つい。

 で、だ。そのダンジョンマスター……ビゾークトは手先も器用だわ力もあるわ、何だかんだでダンジョンを作ることが可能な程度には魔力を有しているわ、様々な意味で凄いドワーフだったんだよ。流石にもう死んでいるとは思うけど」

「……ダンジョンマスター、というくらいですから、何か恐ろしい超常現象だと思ってました。まさか、一人のドワーフによって各地のダンジョンが作られていたとは」

「言い出したのは俺とは言え、実はその表現はどちらかといえば正しくない。彼はすでにあったダンジョンを改装することが多かったかな。半分はそうだったと思う。なんでも、“これじゃ、途中で崩落してしまう”とかなんとか。面倒だ疲れただ言いながら鑿振るってる姿は、とても見物だったよ。

 ついでに言うなら、エルフと一緒にダンジョンを改良してたな。流石に一人の魔力量じゃ足りないって言って」

「エルフと!?」


 ――先ほどルーが言ったように、ドワーフとエルフにはかなり深い溝がある。

 その理由は本人たちでも定かではなく、また個体差もあるようだ。だが、概ねどのエルフ、どのドワーフに聞いても互いの事を悪し様に表現することが多い。手足が短くて不便そうだとか、背が高くて不便そうだとか。もちろん地中と樹上と生活の場所が違うということも、彼らの相互不理解に拍車をかけているのかもしれない。さきほどルーが言ったように地上に対する両者の考え方に大きく違いがある為なのかも、しれない。

 だが、真偽は不明だ。

 少なくとも両種族に横たわる溝は、一日一月で埋まるほど浅くないことは、確実だ。

 ナイトも常識を学ぶ最中、エルフとドワーフは絶対に相容れないモノだと学んだほど。だというのに、そのエルフとドワーフが共に何かを作り出したという前提が、とてもおかしい物に感じられた。


「そう、エルフと。とはいってもそのエルフとドワーフは変わり者だったんだ。

 エルフは治療の事しか興味ないし、ビゾークトは仲間の安全を優先した。……まぁ、泥水を共に啜った仲だからさ、仲間意識が他のエルフとドワーフ間のソレより非常に強かったのだよ」

「泥水を……」


 ルーの声が異様に重く響いた。

 怯んでしまったナイトを見て、ルーは溜息を吐いてはベルトポーチから球体の何かを取り出す。ナイトはそれに見覚えがあった。

 聖力量を計量するオーブだ。それに聖力を注ぎ、その量でどれほど聖力があるかを計測する道具である。どうして球体なのかは、誰にも分からなかった。

 またどうしてルーがそれを持っているのか、聞いてもどうせ答えてくれやしないだろう。ナイトはルーが差し出すソレに手をかざした。


「さて、かなり脱線してしまったね。彼の事はまた後で話すとして、今はキミの魔力量を確認しよう。

 コレの使い方は?」

「ええと、これに注ぐで合ってますよね?」

「使ったことがあるのか。なら話は早い。早いところ頼むよ」


 ナイトは言われた通り聖力をかざす。手を抜いたらそれを理由にまた長い説教が始まるのだろう。そろそろいい加減小言を聞き飽きていたナイトは、最善を尽くしてソレに聖力を注ぐ。

 少し、注げる量が増えたかもしれない。とはいえ、最後に聖力量を計測したのは大分昔のことだし、昨日ルーに教わった方法がどれほど生きているかは分からない。

 だが、ルーはとても驚いた顔をしていた。


「……ええと?」

「……ああ、申し訳ないね。これが現代人の数値なのかと思うと、驚いてしまって」


 オーブの色は橙色。このアイテムは注いだ聖力量に応じて、輝く色が変わるという物だ。おおよその聖力量しか分からないものの、厳密に数値化してしまえばそれはそれで問題が生じるという物。うっかり位が低い者が、位が上の者より僅かでも聖力量が多いと判明すれば非常に大きい問題に発展しかねない。せめて同じ色程度であればまだ上位貴族たちの面子も持つ、という物だ。そのため、ナイトはこれはこれでいいのと思っている。

 最大は緑色だと教師より聞かされた。だがルーの反応を見る限り、その結果は思っていたよりもよろしくなかったらしい。


「……橙色なら、そんなにせい――魔力量は少なくないはずですが? 確かにとても多いという訳でもないですが、せい――魔術が使える人の中では平均値くらいでは」

「ちなみに最大は黒だ。オーブの色は魔力量の少ない順に白、赤、橙、黄色、緑、水色、青、紫、黒と変色していく。虹の色に何色か足したと思えばいい。

 ……時代が下るにつれて魔力量が減少傾向にあるとは、いやはや、技術が廃れるわけだ。そうか、魔術が使える者が限られている、あるいは少なくなるということは、聖術の使い手が限られてくるということ。つまり相対的に聖術とやらの希少価値が跳ねあがるというカラクリか。確かに民はバカな方が統治しやすいとは言うが、ここまで徹底的にやるなんて。

 本当によくそんな手段を考え付くものだ、そうは思わないかい?」

「ええと……いや、だからそんなに教会の悪口は言わない方が良いと思うんですが?」

「誰も俺たちを見ている奴なんていやしないよ。ただでさえ私は教会に近付くことが出来ないんだから。キミも知っているだろう? 聖水に触れた私の腕を」


 嫌なことを思い出させる。つい顔を青くしたナイトを見てルーは鼻で笑う。

 オーブをベルトポーチへしまいながら、ルーは深く息を吐いた。そのどこか憂いを帯びた表情に、ナイトは自然と居住まいを正す。


「ともあれ、キミの魔力量が現代での平均程度なのは分かった。これからどこまで伸びるか、だな。せめてかつての平均……そうだな、緑から水色くらいにはなってもらわないと困る。そこから消費効率を良くしていけばそこそこの耐久戦にも耐えうるだろう。

 ついでに体力も上げないとね。魔力切れの時に、せめて自分の足である程度逃げられるようにしておかないとすぐに死ぬよ?」

「う……」


 ひそかにナイトは運動を少し苦手に思っていた。比べる対象が悪いとは思っている。だが、どうしても兄の雄姿を見たことがある身としては、アレに追い付けるのだろうかと不安が募ってしまう。

 浮かない顔をしていたのだろうか。ナイトの不安を見透かしたらしいルーは、そんなナイトの様子を鼻で笑った。


「キミが何を目標としていても構わないが、出来ることを出来るようにしか出来ないのだよ。キミはまず羨むよりも先に、やるべき事をやるしかないのではないかね? よそ見している暇は、どこにも存在しない。

 とりあえずまずは風の陽の初級を常に展開し、魔力消費をしていたらどうだ。体力も魔力も、キミには欠けているんだぞ? 片方でも良いから、さっさと改善しろ」

「ぐぅ……!」


 そういわれるとどことなく腹立たしい。ナイトは喉奥で呻いてから言われるままに風の陽の、初級聖術を展開し始めた。

 ルーはその様子を見ると、僅かに目を細めて微笑んだ。


「その意気やよし。努力を重ねようとする姿勢は、本当に評価できる点だ。そこは誇っても良いと思うぞ」

「……ありがとうございます」


 純粋に褒めたいのだろう。それが伝わったからこそ、どこか馬鹿にされたような物言いに耐えることが出来た。



 ルーはその後もしばらくベルトポーチの中身を何やら漁っていた。何を探しているのか、そっと覗こうとするが、角度の問題か中身が良く見えないでいた。

 そこでナイトはそういえばと思い出すことが、一つあった。


「そういえば、アンタはどうやって戦うんです? 前みたいに糸みたいな何かを伸ばして戦うんですか?」

「アレは森や室内のような、ひっかけるところがたくさんあるような場所でないと使いにくいんだ。今回は洞窟だから、糸を引っ掛けるには起伏に富んでいない。また隠し部屋も石の壁が並んでいて、灯りも基本燭台なんて置いてなくて埋め込み式の魔法灯だから、ひっかける場所もない。

 ……なんだ? 楽しみにしていたのか?」


 聞かれ、ナイトは一瞬慌てる。

 あの夜に森で見上げたあの光景は、確かにナイトの脳内に今でも強く強く残っている。楽しみにしていたか、と聞かれると確かにそうではあるのだが、そうではない。


「いや、アンタがまともな武器を扱っているところ、そういえば見たことがないと思って」

「……それもそうだ。ここまででまともな戦闘は一回もなかったな。基本的には手の内は見せたくはないが、私の立ち回りを知ってもらう必要もあるか。良いよ、ただし扱いにはちょっと気を付けてね」


 そういいながら、ルーは何かをナイトへ投げて渡した。不格好ながらそれを受け取ったナイトは驚愕する。

 鞘に納められているとは言え、刃物を投げる奴がいるとは思っていなかったのだ。


「危ないなぁ!?」

「柄の方から投げたじゃないか。それにベッドに落ちるように投げたのを無理やり受け取ったのはキミだが?」

「ぐ……」


 言われてみれば、ナイトよりもだいぶ前に落ちるような軌道だった。言い返せなくなったナイトに、ルーは苦笑すら浮かべて肩を竦めた。

 またベルトポーチへ視線を落としたルーを横目に、ナイトはナイフを鞘から引き抜いた。


「……随分大きいナイフなんですね?」

「まぁ、最悪それ一本で最悪の場合生存出来るよう設計してもらったからな。鞘を付けたままなら地面も掘れるし、鞘の中には糸が仕込んであるし、峰の部分はそれなりに薄い金属だったら切れるようになってるし、塚尻の部分は最悪ハンマーに出来るし、なんならソレで釣りが出来るから魚でも肉でも調達は可能だよ。もっと言うなら鞘とすり合わせれば火花が出るから着火も可能だよ」

「凄い万能だな!?」

「興奮するな。まぁ、基本大柄のナイフとか使わないけど、鞘に仕込んだまま、それを胸元に掲げてろ」


 言われ、ナイトは言われた通りに投げられたナイフを鞘にしまい、胸元付近で掲げた。その瞬間、ナイトは何故か手がしびれ、ついナイフを取り落としてしまう。何が起こったのかが理解できない。

 見れば、そこには落としたナイフとは別の、全く違うナイフが落ちていた。細身のナイフだ。そういえば何か金属音が鳴った気がしたのは、気のせいでは無かったのだろうか。


「まぁ、こんな感じで」

「……はぁ?」

「ダガーの投擲だよ。それも鞘にしまったから刺さらなかったけれど、軟体生物とかすごく固い生き物でもない限りは刺さってただろうね」

「……投げられた?」

「ああ、投げたさ」


 まったく見えなかった。呆然としていると、ルーは苦笑する。


「俺は非力だからね。大きい剣なんて振れないんだよ。だからそういうナイフやら、ダガーやら、あるいは小さい剣を使うよりないのさ。だから、貴族の戦い方を知っているキミの参考にはならないだろうし、いわゆるお綺麗な剣技とは違ってかなり汚いこともやる。勝つためには逃げることもするよ。

 だからね、逆に私はキミの邪魔にならないように立ち回るつもりでもあるんだ」

「……は?」

「キミは魔物に出会ったら好きに避けてもらっていい。私は出現した魔物を、キミに害が及ばない範囲で倒そうと思うんだ。どう?」

「どう、と聞かれても……」

「半分は冗談だよ。素人に戦場を走らせるとトンでもないことになるのは分かってるさ。……見つけ次第殲滅とは、言うのは簡単だけれどね。護衛任務なんて面倒なこと、俺はあまり好きじゃないのさ」


 先ほどの言説は、冗談と言うにはだいぶ迫真に寄っていたような気もする。そんな一言をナイトが呑み込んでいると、ルーは何かを引く動作をした。それと共にダガーが回収されていく。一瞬見えたのが確かであれば、ダガーの柄に糸が絡まっていた気がする。それを引いたのだろう。

 ダガーを回収したルーは、それを眺めながら続けた。


「自分の好きなように敵を倒す。それが一番楽なのは、まぁ分かるだろう? 誰にも邪魔されず、戦場を駆け巡るんだ。誰かの上に立つとか、どこかを確実に守らなきゃならないとか、どこかが何らかしかの理由で凹み始めただの。そんな枷を自ら負いに行くのは変態の所業だ。そうは思わないか?

 ……だから、楽にならないかと思って。本当に戯れ言だから、キミは気にしなくても良いぜ。まぁ、ちょっとした弱音だ」

「……ええと、もう少し簡潔に」

「冗談を真面目に受け止められてかなり驚いている」

「分かりやすすぎやしませんか、アンタ」


 そもそもルーが弱音を吐くことが驚きなのだが。動揺を隠しきれないナイトへ、ルーは苦笑を浮かべた。ダガーをベルトポーチへしまいながら、また何かを探すようにそれを漁り始める。

 ルーがどこか落ち込んでいるようにも見えた。ナイトは言葉を探して、しかし見つからないでいた。ふと、手にかかる重さを思い出す。


「……あの、このナイフはどうしますか?」

「ああ、それは……そうだな、お守り代わりにでも持っててよ。無いよりはまぁ、ましだろ?

 ところでキミ本来の得物ってなんだっけ?」

「エモノ?」

「扱える武器。どれくらいの大きさの剣だって話」

「あ、ああ……ええと、あまり幅広くない、凄い長いワケでもないやつ……?」


 半分呆然とした心持ちで答えると、いつも通りの調子に戻ったらしいルーが呆れたような声を出した。


「刺突? 斬撃? 一口に剣って言っても使い方が違うんだぜ?

 前線に出すわけじゃあないが、護身用に持っていた方がいいから聞いてるのに、それじゃあヒントが無いよ、ヒントが」

「ええと……なんか……こう」


 ナイトが教わった剣術は、言葉にするのがとても難しい代物であった。説明して伝わるのかさえも疑問だった。どうやって言葉にするか、ナイトがかなり悩んでいると、ルーは考え込む仕草をした。

 何事かを呟き始める。


「いや、待てよ。たしかあの時彼らが持っていた武器は……」


 驚愕したような声の後、ルーはどこからともなくそれを取り出した。

 ナイトが使っていた剣は、護拳が付いていた。刀身はさして幅広くはなく、また長くもない。――後にルーからそれはサーベルだろうと言われた。

 だが、ルーが取り出したそれは、ナイトが取り扱ったことのないものだった。


「……まぁ、これは護拳に値する部分が違うから。後で付け替えておくよ。ともあれ、キミが習った剣術って、もしかして剣を抜く時の動作で敵の攻撃をいなし、次の動作で敵を攻撃するモノじゃない?」

「どうしてそれをご存じなんですか?」


 驚きのあまり、ナイトの声がひっくり返り。そしてルーの表情がイタズラを思い付いた子供のように輝いた。

 

 抜刀術ならぬ抜剣術。色々と深く考えてはだめです。ファンタジーなので。


 次話更新に向けて、鋭意努力中です。今しばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ