喋りたがりの課外授業 一時間目
お待たせして申し訳ありません。
今回は、序章から数えて十話目となりましたので、タイトル通り喋りたがりが課外授業を行う回です。十話毎に課外授業を行う予定ですが、恐らく内容は前回の授業の続きとは限らないようになるかと思います。
また扱う内容的に、喋りたがりが大変なことになっております。うっかり中身の想像はしないよう、ご注意ください。
それではごゆっくりどうぞ。
――ある日の勉強会にて。
陽の光が明るい最中、ルーはその明るさに見合わないほど陰鬱な溜息を吐いた。原因は他でもなく、生徒――ナイトにあった。
ナイトには分からないが、ルー曰く「その理論はあり得ない」だの「教育制度の敗北」だの。とにかく悲惨なようだった。どうしてこんなにも流れるように罵声を浴びせられているかは、本当に理解できていないのだが、それはそれ。
ナイトは肩を竦めてそっと息を吐いた。陰で言われるよりははるかに悪意がなく、まっすぐな物言いであるが、だからこそより強い呆れを感じ取ってしまう。要はとても疲れた。
「じゃあ、もう、もう一回最初から説明してくださいよ。今度は口を挟まないので……」
「頭のイカれた奴判定は、不服でしかないのだが……良いだろう。勉強意欲がある生徒は好ましい。
じゃあ、最初から行くよ」
ルーは聖術――魔術について話し出した。可能な限り分かりやすいように、嚙み砕いて説明しようとしているのだろうが、にわかには信じられない言説も混じっていた。
ナイトは可能な限りそれに否定的な感情を持たないように気を付けて、その言葉に耳を傾けた。
「魔術と言うのは“魔力を扱う術”の事。魔術は基本的に誰でもすぐに使えるような代物ではなくて、相応の訓練を積んだ者が扱えるようになる技術のことだ。感覚的には文字に近いかな。会話は可能でも文字が書けるとなると一握りになるだろう? それとおんなじだと思えば近い。
その魔力とは、何かなのだが。魔力には二種類の魔力が存在し、まず体内に宿る魔力。これがいわゆる魔力だね。正確には内部魔力と呼ばれる代物だ。もう一つが世界に満ちてる体外に溢れている魔力だ。こちらは単純に体外魔力と呼ばれている。
その魔力はどこから来ているか。それは国の中心――比喩的な話だが――から流れてきている」
「……くにのちゅうしん? 神様が魔力へ対抗するためにヒトへ聖力を与えて下さったと聞いたんですが、どうなんでしょうか」
「そもそも宗教を中心に物事を考えるなよ。今のところ宗教と真実は相反する部分しかないじゃないか。……と、言いたいところだが、常識というのは得てして真実と乖離していることもあるか。
……どうやって信仰を広めていったか知らないが、厄介な……」
頭が痛そうだ。ルーは僅かに顔を歪めて忌々しそうに呟く。言われ、ナイトは自分の思考が宗教を、唯一教を中心に回っていることに気付く。
唯一教とは。このピッカート王国を中心に強く信仰されている宗教である。ピッカート王国にその総本山があり、各地の教会はその本部からの派遣という体を取っている。唯一無二の神を崇め、彼の教えとご加護の下、民は健やかに生きていく。概ね、そのような心の拠り所である。
ナイトは熱心な信者ではないが、思っていたよりも唯一教を信仰していたらしい。
「ここまで篤いモノが広がってると、ファウストにも影響がありそうだ……。
――ええと、国の中心だったか。読んで字のごとく、国の中心は国の中心だ。ここなら王都と言ってもいいかもしれないね。王都から内部魔力の源が広がっているんだよ」
「……もう少し分かりやすく」
「キミたちが神を篤く信仰するのは、存外間違いじゃない、という話さ。
内部魔力の正体は、神の加護を生き物が体内機関で制御したモノさ。だから、神の力が強ければその国の魔術師たちは良い魔力を有しているし、神の力が弱まればその国の魔術師たちは質の悪い魔力を有することになる。神の加護の強め方は、正しい信仰さ」
はて、先ほどルーは神様が与えたことを否定した筈なのだが、内部魔力とやらは神の加護と言い放ったではないか。ここに生じた矛盾に首を傾げていると、ルーは肩を竦める。
「何を考えているか、手に取るように分かるのが癪だな。別に私は神が内部魔力の源を垂れ流しにしている事については否定をしていない。あくまでも“魔力に対抗するために授けている”点について否定しているだけだ。
キミたちが扱っているのは、まぎれもなく土属性の魔力だ。それはファウストの奴が土属性が適正属性で、そのまま神に押し上げられ、奴が死んだ後国が割れ、多くの国が奴をそのまま信仰し始めただけ。勘違いをするなよ。ああ、話が取っ散らかってきた。キミ、ちゃんとご清聴願うよ?」
「いや、脱線させたのはアンタじゃないですか。
……ええと? 魔力には二種類あって? 内部魔力と外部魔力。このうちの内部魔力は首都の方から流れていて、源泉は神様だって?」
「なんだ、理解しようと努力はしていたのか。大体合ってるよ。ただしキミが言ったカミサマと、私が言っている神は別個体と言っても差支えは無い。
……キミ、聖水って見たことある?」
聞かれ、ナイトは首を傾げる。
基本的に聖水はあまり見ることはない。用途が旅の途中の魔除けなのだ、旅に出ることのないナイトには馴染みがない。だが、一度だけ、学習の一環として見せてもらったような気がしなくもない。
ぼうやりと思い出そうとしていると、ルーがテーブルの上に一つの小瓶を置いた。
「聖水は、神の力で水を浄化したものだ。一応ココの説明に誤りはないな」
固有名詞を口にしているだけで舌が腐りそう。そんなことを呟きながら、ルーはナイトにその瓶を握らせる。
呟きの内容にナイトがぎょっとしていると、ルーは肩を竦める。
「本当の“聖術”はこの世界で一人しか使えないだろうよ。今言われてい一般的な聖術の正体は魔術、そして教会の奴らが使っている聖術は所詮オリジナルの模造品でしかないよ。
そいつは正しく教会が出してる聖水だ。これ、私の腕にかけてみて」
ルーは腕を差し出す。相変わらず長い袖に隠された腕は、太さ長さ共によく分からない。取り敢えず言われたまま、ナイトはルーの腕に小瓶の中身を垂らした。
その途端。
「っ……流石に、これは痛みを感じるか」
ジュウと。
音を立てて袖の中が崩れ始めた。
「は、はぁ!? ちょ、アンタ、これ、何!?」
「キミ、どこで私を拾ったか忘れたのか? 私は教会から悪魔として指名手配受けてるんだろ? 俺がいたのは、とんでもないモノが封印されている場所だっただろうに。
教会の使うホンモノの“聖術”の本質はは、敵と判断したモノに攻撃を行う……つまり、忌み地とされた場所に封印されていたオレは、教会の敵として認識されてるんだろ?
あー……それにしても袖の中、凄いことになってるな……どう? 触る?」
「触りません!!」
呑気にしている場合ではないだろうに。ルーはわずかな苦笑と、大きい溜息を吐いた。
うっかり中身の想像をされた方、申し訳ありませんでした。
課外授業はいつもの半分の文字数の為、短いですが手抜きでは決してありません。
本編は鋭意執筆中です。投稿までしばしお待ちください。




