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第四話 『意図的な感情』

「その時の少女は、ある意図的な感情を抱いていた。自然と湧き出てくる感情ではなくて、心から決意した感情だ。でも、なかなか実行に移すことはできなかった」


「……少女と呼ぶと、あまり心情を読み取りにくいか。少女の名は如月(きさらぎ)という。如月は誰にも理解されない感情を実行するために、作戦を立てたんだ」


「作戦通りに動いた結果、それは成功した。でも、最終的に如月の心を満たすことはできなかった。何が足りなかったのか、如月自身にも分からなかった」


「ある日、家族が一人、如月の前から消えた。如月にとって、その家族は一番の敵だったから、如月は喜んだ。密かにな」


「そして、如月は一人で一生を過ごすことになったんだ。何もかもを自分一人でこなして、誰にも頼れない生活が始まった」


 この時、那恋は首を傾げていた。那恋が感じている疑問は多分、誰もが同じように思うことだろう。


 どうして如月は一人で一生を過ごさなくてはならなかったのか。


 家族が一人消えてしまっただけならば、他の家族が養ってくれるのではないのか。


 その疑問は正確なものであり、嘘は一切ない。だから、純粋で、清らかな疑問だ。


 私は那恋の表情を見てそう思いながらも、疑問を投げつけずに話を遮らない那恋に、同情してしまった。


「如月はその生活を続けるうちに、生きている意味が分からなくなった。誰も自分のことを想ってなどいないのに、生きている価値はあるのか。それが如月の新たな疑問だった」


「まだ人生は長いはずで、死ぬ予定なんて全くないけれど、如月はいつ自分の人生が終わりを迎えるのか、気になってしまったんだ。でも、確かめる方法なんてない」


「だから如月は、人を探した。自分を守ってくれる人を、大切に想ってくれる人を。そんな人は誰もいないと、分かっていながら」


「……まぁ、こんなところだ。これ以上先の話は、なんの面白味もない。つまりは、何も変わらない日々を過ごしていたってことだ」


 話終わった私に向かって、那恋は小さく拍手を送ってくれた。


 上手く話を伝えられていたのかは分からないけど、那恋が真剣に最後まで聴いていてくれたことが、素直に嬉しかった。


「……もしそのお話が、星さんのことだったとしても、そうでなかったとしても」


「私はその方を、尊敬します。自分の力で戦って、生き抜いてきた人生は、とても綺麗で……最後に儚く散っていく頃には、素敵な星になるのではないかな、と……」


 那恋のその言葉は、私の心に大きく響いたのかもしれない。


 響いた、という確信はほとんどないのに、どこか心を動かされたような気がした。


 私の星という名前には、そんな意味でも込められていたのだろうか。


「……星さん、ありがとうございます。おかげさまで、元気を取り戻せました。今ではなぜ気分が落ちていたのかと……疑問です」


「そうか。那恋が元気になってくれたのならよかった。結構、話し手というのも楽しいな。私は聴く側が多かったのだが」


「私も聴く側が多いです。星さんのお話、とても聴きやすかったですよ。すっと耳に入ってくる感じで。私には到底できなさそうですね……」


「いや、もう既にできていると思うのだが……? 話し方も丁寧だし、どこかのお嬢様なのかと思っていた……違うのか?」


「全然そのようなことは……逆に人間と接する機会は少なかったですよ。親もあまり顔を合わせてくれませんでしたし」


 親が自ら娘と関わろうとしないだなんて、そんなことがあっていいのだろうか。


 いや、あっていいわけがない。やはり、私の予想は当たっているとでも言うのか。


 もし那恋がその意図的な感情を抱いているとしたら、抱いていたとしたら、私は那恋と正面から向き合わなければならない。


 変な正義感だ。いつもならこんな風に思うことなどないはずなのに。


「誰にでも隠し事くらいありますよ。まだ出会って二日程しか経っていない人間に、全面的に心を開く人間などいません。動物なら有り得そうですけど」


「那恋。人間も動物だ。つまりは一日二日で心を開いてしまう人間もいるってわけだ。例えば私みたいに」


「……せ、星さんは私に心を開いていると言いたいのですか……?? 本気で?」


「逆に出会った日に双子になろうなんて言うやつがいるか? いないだろ? 那恋が一般的な人間と違うのは一目瞭然。だから私は心を開いた」


「一目瞭然って……なんですかそれは!! 理不尽にも程がありますね!?」


 那恋は今までで一番大きな声で話しながら、一番頬を赤く染めていた。


 焦っているのか照れているのかよく分からないが、単純に可愛いと思ってしまった私はどうかしているのだろうか。


「……星さんはどうしてそんなに笑っているのです!? も、もう……私はお風呂に入らせていただきますから、星さんはご飯の用意して下さい……」


「すまん、流石に失礼だったか。でもいいと思うよ、私は」


「何が……ですか?」


「隠し事をしながらも懸命に生きている人間。同情できる人はたくさんいると思う。那恋はそのままの那恋で生きていけばいいんだよ」


「本当に急ですね……でも、ありがとうございます。そのお言葉、これからの活動の源として受け取っておきますね」


「……風呂の温度、熱かったら風呂場から叫んでくれ。すぐに駆けつける」


「今いい感じに感動的だったのに……!!」

第四話、お読みいただきありがとうございます。

良ければブックマーク、感想等よろしくお願いいたします。

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