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第一話 『出会い』

 今日の夜空は綺麗だ。


 星々が力強く光り輝いていて、どれも平等に空を照らしている。


 この夜空を見上げる時間だけは、これから先の人生を考えずに済む。


 いつか誰かに見つかったとしても、そこで自分の負けを認めるだけだ。


 悔しがる必要もないし、わざわざ無駄な労力を使ってまで、抵抗する意味もない。


 ただ、一人で、生きていくことを決めたから。


 私は、誰かに頼ることなんて。


 できなかった。




「あ。食ってねぇな……」


 夕飯を食べ忘れたある日、夜空はほぼ真っ暗だった。


 いつも歩く道は人気が少なくて、補導されそうになることもない。


 でも、今日は違った。


「あの……大丈夫か? なんでこんなところに女の子が一人で……」


 いや、自分だってそうか。


 夜道に女子が一人、二人といたらそりゃあ、何かがあったと思われるだろう。


 荷物も何も持っていない。この子は一体、なぜ座り込んでいるのだろうか。


 声をかけてみたはいいが、反応は全くない。


 誰かに襲われて逃げてきたのかと疑ったけれど、抵抗した形跡もないし、髪の毛も乱れていない。


 どうして、自分と同じくらいの女の子が。


「…………助けて……下さい」


「え……?」


「……っ……お願い……助けて……!!」


 急に声を発したかと思えば、助けを求められた。


 顔を上げた女の子の目には大粒の涙が浮かんでいて、大きな丸い瞳は私を真っ直ぐに見つめている。


 どうしたらいいのか、分からなかった。


 人間と長らくまともに会話をしていない自分が、助けを求めてきた人間を守れるのだろうか。


 守る必要なんて、あるのだろうか。


「どうして、助けてほしいんだ……? 私には、お前は普通の少女に見えた」


「……誰も、味方がいなかったんです……私を守ってくれる人は、誰もいなかった……!!」


「味方は……私にもいないが?」


「あなたとは違います……私はあなたみたいに、自立をして行動することが出来なかった。逃げたのです……」


 正直、本当に理解に苦戦してしまった。


 この子と私に何の違いがあるのか、人間は皆平等であるのではないのか。


 全く知らない女の子に、自立をしていると勘違いされている理由も、分からなかった。


「とりあえず、ここにいてもどうにもならない。良かったら私の家においで。来るか来ないかは、お前が決めていい」


「……行きます」


「そうか。じゃあついて来て。すぐ近くだから」


 女の子はようやく立ち上がり、私の後ろをついて歩いている。


 私の身長が平均より大きいせいか、女の子は華奢で小さく見えた。


 手足は細くて、周りの人間よりも元気さを感じられなかった。


 この子も、家出少女の類なのだろうか。




「ここだよ。中で座って待っていて。飲み物を買って来るから」


「……お姉さん、一人暮らしですか?」


「うん? そうだが。あと、私の名前は(せい)だ。呼び方はなんでもいい」


「星……さん。立派なお家に住んでいらっしゃるのですね」


「この家は空き家だ。どこかの富豪が放ったらかしにしているんだろ。私は無断で住んでいるだけだよ」


「……無断なんですか? それは……いけないことというか……犯罪のにおいが……」


「…………私は既に犯罪者だ。気にするな」


 女の子を家で休ませ、私は近くにある自販機へと向かった。


 そういえば、まだあの子の名前を知らない。


 飲み物を買って帰ったら、聞いてみよう。


 少し肌寒い風が吹いている。


 家にテレビもネットもないからか、今の季節を気にしたことなんてなかった。


 前は猛暑が続いていたから、秋の訪れというところだろうか。


 自販機に止まっていた蛾が、羽を休ませてまた、空へと羽ばたいて行く。


「……どこまで行くんだ」


 この生活に、終わりなどあるのだろうか。


 終わるどころか、女の子に出会って、今までの生活が全てひっくり返ってしまいそうなのに。


「……帰るか」


 年中同じような格好をしている私にとって、急に天候が変わることは割と辛い。


 どこからか雨の匂いがして、私は足早に家へと向かった。


「うわ。手のひらに降って来た」


 なんとか家へたどり着き、いつも首からさげている鍵を使って扉を開ける。


「星さん、おかえりなさい。勝手ながらキッチンをお借りしております」


 あんな華奢なのに、料理が出来るのかと、なぜか感心してしまった。


「いいけど……何もなかっただろ。言ってくれれば買ってきたのに」


「いえ。これは助けて頂いたお礼です……人とまともに話せたの、初めてだったので……」


「……初めて……なのか?」


「まぁ……深くは出来れば聞かないで下さい。星さんを本当に信用出来たら、全てお話しますね」


「そうか」


 空気を暗くしてしまったかと心配になったが、女の子は表情を変えずに食事を作ってくれている。


 この子は、私よりも人と関わったことがないのだろうか。


 それにしては、しっかりした人間に見える。


「……お前、名前はなんて言うんだ?」


那恋(なこ)です。悔しいけど、この名前は結構気に入っています。気軽に那恋と呼んでくださいね」


「那恋か……いい名前だな」


「星さん。一つ、お願いしたいことがあります」


「なんだ……?」


「私と、双子になってほしいのです」


「ふた……ご……??」

第一話、お読みいただきありがとうございます。

良ければブックマーク、感想等よろしくお願いいたします。

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