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鍵士無双  作者: キャットフード安倍
第一部・ローゼン王国編
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貧民街の秘密

 男の案内で自宅を通りすぎ貧民街の奥へと進む。この先には貧民街唯一の広場がある。


 本来であればこの男にかかわるべきではない。盗賊ギルドというからには非合法の組織だろう。にもかかわらず話しだけでも聞こうと思ったのは「魔力鑑定」したからである。


【ヘルマン・ソーン】【性別・男】【相性・70%】【隠密】【影法師】


 相性が高いのだ。相性が高い相手と行動をともにすると自分にとって不都合なことが起こりづらいことは経験上わかっている。すくなくとも厄介事に巻き込まれることはないだろう。


 男と話していて気付いたことがある。スキル「魔力鑑定」で鑑定している魔力は、魔力とは違う何かであるかもしれないということだ。


 ステータスを隠蔽するのと同じ感覚で自分の魔力を「ロック」したところ、男は気配を遮断していると言った。つまり「魔力鑑定」が感じることができる魔力とこの男が感じ取れる気配は同じということだ。


 それに通常の「鑑定」では俺の履いているブーツのもつ「忍び足」の効果も見えないようだ。いったい「魔力鑑定」とは何なのだろうか。


 もの思いに耽っているうちにいつの間にか広場を過ぎ細い路地へ入ろうとしていた。足を止めてその先を見つめる。


 「どうしました?」


 この広場より先へ立ち入ってはいけない。貧民街に住む者ならば子供でも知っている不文律だ。広場にはある程度の人通りはあるがあえて目を背けられているような錯覚さえおぼえる。


 「いえ、なんでもありません」


 路地の入り口に立って腕を組んでいる若い男の横を通り過ぎる。値踏みするかのような視線を送られたが盗賊ギルドの人間だろうか。


 しばらく進み突き当たりの角を曲がるとそこには両開きの大きな門扉がそびえ立っていた。


 「この中に入ったらもう後戻りはできません。今なら何もなかったことにできますがどうしますか?」


 「え?いきますけど?」


 ここまで来て何を言っているのだろう。


 「いいでしょう。では最終試験です。この扉の鍵を開けてください」


 鍵穴に手をかざし「アンロック」を発動して解錠する。普通に開けてしまったが何か特別な仕掛けでもしてあったのだろうか。


 「お見事です。鍵穴はフェイクでこれに合う鍵は存在しません。いったいどうやって開けたのですか?」


 「それはこっちの台詞ですよ!鍵穴が偽物ならどうやって開けているんですか!」


 「企業秘密というやつです。というわけで盗賊ギルドへようこそ!」


 男が扉を開くと目の前には見慣れた街並みが広がっていた。貧民街の深部には貧民街ではない普通の街が存在したのだ。


 「貧民街よりも高い建物があるのになぜ気付かなかったんだろう?」


 「ここには認識阻害の結界が張ってあるからです」


 「もしかすると貧民街は……」


 「そういうことです。この盗賊ギルド自治区を隠すために出来たのが貧民街です」




 

 「その坊主は新入りですかヘルマンさん」


 「ああ。期待のルーキーだよ」


 「どうも、マルボロです」


 先程からこの調子である。ヘルマンに気付いた者はみな挨拶しにきて、その度に自己紹介させられるので正直めんどくさい。ヘルマンはこの街の顔役か何かだろうか。


 「この街に住む者たちはすべてギルドの関係者とその家族だよ」


 「なんだかみんな普通の人ですね」


 「盗賊ギルドについて物すごい誤解があるようだね。詳しい話しは中でしようか」


 どうやら盗賊ギルドについたようだ。


 冒険者ギルドよりひとまわり大きな建物に入ると応接室へ案内された。


 「私は……自己紹介は必要ないね」


 「ええヘルマンさん。ところで俺に声をかけたのはなぜですか?」

 

 「ある人物から推薦されたからだよ。それと君が鍵士だったからかな」


 推薦?まったく心当たりが無いな。


 「さっそくで悪いのだけど君に仕事を依頼したい」





 隣の部屋へ移動すると中央に置かれたテーブルに正方形の鉄の塊が載せられていた。


 「この金庫を開けてもらいたい」


 「はい?これは金庫なんですか?」


 ためつすがめつして見るが大きな鉄のインゴットにしか見えない。


 「最初は壊そうとしたけどびくともしなかったよ。ミスリル製のハンマーでさえ傷一つつけられなかったからね」


 「とりあえずやってみます」


 「魔力鑑定」を使って探るとインゴットの一部から強い反応が感じられる。そこに手を当て「アンロック」すると強い反応が別の箇所に移った。


 なるほど、こういう感じね。強い反応があった所を解除していけばそのうち開く仕組みだろう。




 どれくらい時間が経っただろうか。同じ事の繰り返しでもはやただの作業と化している。


 ヘルマンさんはいつのまにか居眠りをしている。その寝顔を恨めしそうに眺めながら作業をしていたところ、突然魔力の反応が消え去った。


 視線を戻すと正方形の側面が開いていた。中には書類が入っていたようだ。


 「ヘルマンさん、ヘルマンさん!開きましたよ!」


 「ん?お!?おお!」


 書類に目を通したヘルマンさんは部屋から飛び出していってしまった。




 応接室でぐったりしているとヘルマンさんが戻ってきた。


 「いやー本当に助かったよ。これ今回の報酬ね」


 机の上に置かれた重そうな麻袋をあけると中には大量の金貨が入っていた。


 「金貨で百枚入っているから。それとこれがギルドカード。冒険者ギルドと違ってランクとかないからただの身分証だけどね」


 「こんなにもらえるんですか?」


 「うちの取引先は国や貴族それに大商人が多いからね。ただ依頼内容はピンキリだから毎回こんなに高額にはならないよ」


 今日のところは疲れたので業務内容などの詳しい話しは翌日聞くことにして帰ることにする。


 なぜか来たところとは逆の方向に案内されついて行くと、そこはいつか来たことのある魔道具店だった。案内人によるとこの店は盗賊ギルドの表の入り口の一つらしい。


 それにしても今日一日で小金持ちになってしまった。冒険者をやるより盗賊ギルドで仕事をするほうが金を稼げるかもしれない。


 それも明日詳しい話しを聞いてから考えよう。


 泥棒や暗殺者にはなりたくないしね。

 

 

 


 

 

 


 

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