アマテラス②
「あああああああああああああああああああぁ……、あ?」
金切り声を上げ苦悶していたハクが素に戻った。
「あ、姉ちゃん!なんか用?」
アマテラスに向かってハクの中の人が問いかける。
「スサノオ、こやつらを始末せい」
「俺の好きにしていいのか?」
「蹂躙せよ」
冷淡な声でアマテラスが命じた。
「Yahoo!!!!!!!!!!!」
ハクの身体を乗っ取ったスサノオが雄たけびを上げながら魔力を解放していく。
その手には切っ先の欠けた刀が握られていた。
マコトが不意打ち、スサノオの顔面を殴りつける。
「お前の相手は俺がしてやるよ。ほーら、ついてこーい」
ふわっと浮き上がったマコトはどこかへ飛び立ってゆく。
「羽々斬り!」
スサノオが飛ばした斬撃がマコトの背中を切り裂き両断したかと思ったが、まるで霞でも斬ったかのようにマコトの身体をすり抜ける。
「おもしれー!ハッハッー!」
荒れた大地に砂塵を巻き上げてスサノオはマコトの後を追いかけていった。
「さて、頼みの助っ人はどこかへ行ってしまったようだけど、降参するかい?神様?」
勧告はしたが応じるだろうか。
神とはいっても所詮は分体に過ぎない。それほどの脅威は感じないのだ。
だからといって神を討伐などしてしまったら日本へ帰れたときが不安なので、なるべく穏便に済ませたいのだが。
「その不遜な振舞い目に余る。亡者の怨念に喰い尽くされるがよい!」
鼻を衝く匂いが辺りに立ち込めた。
「聖者の行進!」
視界を埋め尽くしていた花びらが舞い散り、地面をけばけばしい黄金色に汚す。
俺は一人。眼前には大軍勢。
首無しや四肢を欠損している者、アーサーが率いている皮膚が焼け爛れている兵士たちもいる。
俺がこれまでに殺めてきた者たちだ。
なんとも趣味の悪い趣向であろうか。
アマテラスは自らかけた幻術の効果に満足し、虚ろに呆けている獲物に止めをさそうと刀を顕現させる。
「大口をたたいていた割に敢え無いものだ」
「……お?なんだ今の。あ、あれ、みんなどうした?」
幻術にかからなかった堀井はすぐさま現実に引き戻された。
「ほお、こんな世界で殺生をしたことがないとは感心なことだ」
アマテラスは堀井の心臓を一突きする。
「うあー!……あ?」
しかし因果は捻じ曲げられ、堀井を突いた刀はアマテラスの胸に突き刺さっていた。
「かはっ!な、なんだこれは!?」
アマテラスは自身の身に起きたことに狼狽える。
そこへ追い打つように声がかけられた。
「堀井!サクラの身体に傷つけるんじゃねーよ!」
幻術が解けると目の前には胸に刀が突き刺さったアマテラスと堀井が佇んでいた。
「我の術が効かんだと……」
「あー、俺が殺した奴らは俺のこと恨んでないからあいつらが幻だとすぐにわかったんだよね。みんな楽園で楽しくやってるから」
どうやら他の連中も術から覚めたようだ。
「マスターご無事でしたか、全員斬り捨てましたがあれは一体……」
「ふっ、俺の雷撃でシュンコロしてやったぜ」
「千里眼もちの俺に幻術など効かん」
アマテラスが忌まわし気に俺たちをねめつける。
「お前らが日本へ戻ってきたとき神の偉大さを思い知らせてやろう。帰って来れればの話だがな」
アマテラスが肉体を捨て去るとサクラの身体が崩れ落ちる。
精神体となったアマテラスが手をかざすと空間が歪み、人ひとりが通れるほどの黒い穴を出現させた。
アマテラスがその穴に入ろうとしたその時そいつは忽然と現れた。
「銀の書!」
その人物の手にした分厚い書物にアマテラスが吸い込まれる。
銀の書にアマテラスを収容したアレス・クロウリーが口を開いた。
「久しぶりだねマルボロ」




