スカウト
清々しい朝の陽射しで目を覚ますとベッドの隣には男が寝ていた。
「……」
まさかとは思うが大切な何かを失ってしまったのだろうか。
だが男の顔をよくよく見ると誰かに似ている気がする。ゆるふわの茶髪に整った顔立ち、そう、あの盾っ子にそっくりだ。しげしげと男を観察しているとどうやら起床したようだ。
「ふあー、親方様おはようございます」
「……おはよう。説明してもらえるよね?」
まだ寝惚け眼の男に尋ねる。
「ふぇ?あーそういうことですか。僕と親方様のあいだに肉体関係はありません!」
「そっちじゃねーよ!いや安心はしたけどもさ!そーじゃなくてお前があの盾ってことであってるよな?」
「はい、僕らは親方様のおかげで覚醒できたカイトシールドです」
「中性か……、男と女では別の人格なの?」
「別人格ですが記憶は共有しているので不都合はないと思います」
「はっ!マ、マルボロが、マルボロが、男と一夜を……」
目を覚ましたハコはあまりの出来事に宝箱に戻ってしまった。
「「……」」
「と、とりあえずカイトと名付けようと思うんだけど何か希望とかある?」
「いえ、カイトの名、有難く頂戴いたします!」
朝っぱらから賑やかになったものだ。母が死んでからずっと独りだったがこういうのも悪くないかもしれないな。サクラがいればもっと楽しいに違いない。
「サクラー、早く目覚めておくれー」
ゴブリン狩りに飽きたので冒険者ギルドで仕事を物色することにした。それにしても朝一でギルドに顔を出すのは久しぶりである。
盾に戻ったカイトを背負い貧民街を闊歩する。この辺りは貧民街といってもまだ安全な場所だ。自分のようなランクの低い冒険者や日雇い労働者が住み、わずかだが飲食店も営業している。
だが貧民街の奥へゆくほど治安は悪くなり、衛兵が巡回するのも安全なこの辺りまでである。
にもかかわらず自宅を出たときから何者かに後をつけられていた。俺が貧民街の住人と知っていてついてくるということは物盗りのたぐいではないだろう。
『親方様いかがいたしましょう』
『やっちゃおうよマルボロ』
『んー、どうしよう、それほど悪意を感じないんだよね』
このように「アンロック」した者たちとは念話(?)で意思疎通ができる。
『話しだけでもしてみるかな』
路地裏に入りサクラを抜いて相手を待つ。
姿をあらわしたのは以外にも小奇麗な格好をした男だった。商人を装ってはいるが感じる魔力は強者のそれである。
「何かようですか?」
「とりあえずその物騒なものは納めてくれるかな。危害を加えるつもりはないよ」
「わかりました。ただ、おかしなまねをしたら斬りますね」
サクラを鞘に納めたが警戒は解くべきではないだろう。
「しばらく観察していたけど見事なものだね。足音をたてない歩行術、気配を絶つ能力。それに私の「鑑定」でもマルボロくんが「鍵士」であることしかわからなかったよ」
「……」
「単刀直入に言うと君をスカウトしにきたんだ」
「スカウト?」
「マルボロくん、盗賊ギルドに入る気はないかい?」