フィン
ヘビはリーナの孫であるモントロー公マルクスにミアとの娘を預けて教国にある門の向こうシャンバラへと帰っていった。
蒼い龍となって飛び立ったヘビを見送る。鑑定してみると種族が水龍となっていた。随分と出世したものである。
シャンバラであいつが何をしているのか訊いたところアガルタと繋がっている門を守護するアガルタ国と戦争をしているとのことだ。この島国がアガルタだと思っていたら入り口の入り口に過ぎなかったということである。
ともあれシャンバラのヘビの所属している国?では強い兵士が入用なのだ。つまり教国にある門はシャンバラで生き抜くことができる者を選別する魔導具といったところだろう。
では教国以外にある門は何の目的で存在しているのだろうか。
黒田誠はこの島以外に門は一つしかないと言っていたが、他にも三つの大陸に一つずつあるのは千里眼で確認済みである。
ヘビの話を聞いた後では日本へと繋がっている門がある可能性は低そうだが帰る手掛かりが何も無い以上虱潰しに当たるしかない。
俺は南の大陸へ、オニがカナン大陸、マコトが北東の大陸へとそれぞれ向かうこととなった。
実際には南の大陸にあるのは門の残骸であるらしい。
過去に何があったのかわからないが南の大陸に人は住んでいないため俺の役割は門の回収だ。調べれば何か日本へ帰るためのヒントが見つかるかもしれない。
オニはすでに大陸へと渡っていったが俺は一度帝国へ戻ることになった。
ヘルムート伯が急逝したためモントロー公国がなにかとバタバタしていのでマコトたちには帝国に残ってもらっていたのである。
魔導列車に乗って車窓から見える風景をぼんやりと眺める。
小奇麗になった街並みが流れてゆく。高層建築物も散見されるほどだ。さすがに現代日本とは比べるべくもないが自分が迷宮に潜る前の公国とは雲泥の差である。
本来であれば空を飛んでいったほうが早いのだが今回はサクラの他にも連れがいるためしかたなく魔導列車で帝国へ向かうことになった。
「ハコはフィンと常に一緒にいるのか?」
「フィンの教育係をマルボロに頼まれたのよ。この子スキルも魔法も使えないの」
そういえばマルボロの記憶にフィンに関することもあったな。
フィンは俺と容姿がそっくりである。おまけにスキル構成も似通っている。
【フィン・モーリス・ヘルムート】「鍵」「生活魔法」「鑑定」「手加減極」
「手加減極」あらゆる行動に対して最大限の手加減をする。常時発動
『スキル「手加減極」のせいだな』
『マルボロが言っていたのよ、これを元に戻せるのはソージだけだって』
あいつやらかしやがったな。自分の子供を強くしたいという気持ちはわからなくもないが。
「火事場の馬鹿力」を分解すると「手加減」が二つになる。そして「生活魔法」の制限を取っ払うとそこから「手加減」が分離される。
マイナスの効果をもつ同スキルを三つ掛け合わせると当然より強力になった負のスキルとなる。
たしかにこれは俺にしか解決することはできない。「鍵」は「鍵魔法」の上位互換だからだ。
「フィン」
俺と同じように車窓から風景を見ていた向かいに座っているフィンに問いかける。
「なんでしょう叔父上?」
マルボロの子供たちからはこう呼ばれる。マルボロが複数いることを知っているのは孫までだ。
「自分がなぜスキルが使えないか理解はしているか?」
「はい。生まれつきもっていたスキル「手加減極」のせいだと聞いています」
あの野郎自分の失態を話していないのか……
「お前がスキルを使えるようにこれから施術を行う」
「そんなことが可能なのですか!」
フィンは期待に満ちた目をこれでもかとばかりに見開いている。
「ただしスキルが一部変わってしまうが構わないな?」
「はい!」
俺はフィンの胸のあたりに鍵を差し込んだ。




