閑話、卓球
気付けば薄暗い広間で骸骨に囲まれながら突っ立っていた。
はじめは動揺したが明るい部屋へ移動したせいだろうか次第に落ち着きを取り戻すことができた。
クラスメイトである鈴ノ木が王様のようなやつと何やら話している。周りを武装した騎士?に包囲されているこの状況で大したものである。
二人の会話から、鈴ノ木は大分前にこっちの世界に来て一国の王にまでなったようだ。本来召喚せれるタイミングで俺たちとともに再召喚されたといったところだろうか。
とにもかくにもここは異世界で間違いない。二人の鈴ノ木の戦いをみれば明らかであるし俺自身にもスキルが発現していたのだから。
鈴ノ木とは分かれて俺たち生徒十三名は別の部屋で待機している。
部屋には長テーブルが置かれ、幸か不幸かそのテーブルの縦幅は卓球台のそれとほぼ同じであった。
俺たち卓球部の三人は端っこで召喚される直前まで行っていた一年のランキング戦の続きをしている。この勝負によって最下位が決まる重要な一戦である(二人にとっては)のだ。
もちろん俺は止めたが馬鹿二人に押し切られ引き続き審判をさせられている。
剣道部の連中から向けられる視線が痛い。今はあの口うるさい部長が佐倉ちゃんに怒鳴りつけられたショックで落ち込んでいるため文句を言われずに済んでいるに過ぎない。
俺は鑑定持ちである。
【堀井雄】【人族】【16歳】【審判】
「鑑定」
「天眼」必要に迫られたとき過去もしくは未来を視ることができる。常時発動
「ジャッジメント」常に正確な判断を行う。常時発動
だが能動的に使用できるのは鑑定のみで他はパッシブスキルだ。
そして職業は審判である。魔法陣に飲み込まれたとき審判をしていたためだろうか。スキルも職業の影響を受けているように感じる。
そしてさっきからコンコンコンコンとラリーを続けている二人だが、
【清田和彦】【ドライブマン】「カット」「ブロック」「身体制御」
【桑原真一】【カットマン】「ドライブ」「スマッシュ」「身体強化」
である。卓球に詳しい人はわかると思うがこの二人、スキルとプレイスタイルが合っていないのだ。
俺は二人にそれぞれのスキルを教えてやるとこれまで最下位争いをしていたとは思えないほどの変化が見られた。両人共に大はしゃぎである。
二人は試合のことなど忘れてラリーを続けている。
これでやっと落ち着いて考え事ができるというものだ。
ジャージに忍ばせていたタバコに火をつける。俺も聖地(喫煙所)の常連である。
ふー。この世界はいわゆる剣と魔法のファンタジーなところだ。剣道部の連中はほとんどの者が剣術スキルを持っているし、鈴ノ木が戦っていたとき角の生えている方が魔法を使っていた。
ということはそれらを使って倒すべき魔物の類がいるということだ。
そんな世界で俺のような訳のわからないスキル構成の者が生きてゆけるだろうか。
現状では日本へ帰ることは難しいだろう。鈴ノ木は大分前にこっちに来たようだが帰らずにこの世界に留まっている。帰る気がないのか変える方法がないのか。
俺は日本にかえ……
「ちょっと!そこの君!その手に持っているものは何!高校生が喫煙なんて……佐倉先生が許してもこの私が許さないわよ!」
ふー。この世界では十五歳で成人だって鈴ノ木が言っていただろ。
「うるせーな!この脳筋女が!」
【木村楓】【人族】【18歳】【部長】
「剣術」「剛力」「身体強化」
早く日本へ帰りたいものだ。




