鬼の告白
私は玉座に腰掛けながら空を見上げている。
蒼天から陽射しが降りそそぐなかで二人のマルボロが戦っているのだ。
見慣れた天井は既にない。二人が破壊して空中へ飛び出していったからである。
モントロー公国とローゼン王国の英雄であるマルボロを私が異界から召喚してしまったことには驚いたが、まさかもう一人のマルボロが現れるとは思ってもみなかった。しかも帝国兵のなかからである。
以前からモントロー公ことマルボロには影武者がいるのではと噂されてはいた。
二人は確かに似ている、というか瓜二つだが共に少年だ。マルボロは齢九十を超えているはずであるから影武者ではない。
平民から一国の君主にまで上り詰めたマルボロの武勇伝は有名だが二人の戦いぶりを見ていると両方共に本物なのではないかと思えてくる。
こうやって二人の戦いを観戦しているわけだがはっきり言ってよく見えない。私にできるのはマルボロの残像を見失わないようにすることと剣戟の音を聞くことだけである。
……。
いつから人は空を飛べるようになったのか。
「お前たち何をしておるのだ!こやつらを皆殺しにせよ!」
我に返った宰相が帝国兵に命じた。
「堅牢な密室!」
ハクが結界術を行使すると生徒たちを守るように半透明の膜が方形の空間を創り出す。
その壁が帝国兵の行く手を遮った。
サクラとマコトは臨戦態勢をとる。二人が人外の存在であることはハクには視えていたから中には入れなかった。
帝国兵は「堅牢な密室」を破れないとみるや否や標的を外の二人に変えて襲い掛かろうとした。
「もうよい!双方剣を納めよ!」
皇帝が大喝しこの場を支配する。
「上の二人も降りてこい!」
「なんだよ?今いいところだったのに」
さすが皇帝といったところだろうか。臆した様子は窺えない。
「そなたらがマルボロであることは理解した。その上で訊くが、オニよ、お前はマルボロではあるが帝国人ということでよいのだな?」
「え?違うけど?」
「……、では何故マルボロ同士で剣を交えておったのだ?」
「俺の相手をできるのはこの世界にはマルボロしかいないからな。俺は強い奴と戦いたいんだ」
こいつはまったく変わってないな。ただの戦闘狂じゃないか。
「俺も聞きたいことがある。お前なんで帝国なんかにいるんだよ?」
帝国とは休戦中である。正体がばれたら戦争が再開されかねない。それとも一人で帝国を落とすつもりだったのだろうか。
「言いづらいんだが……、ここから北西にあるカナン大陸の国が侵攻してくる可能性がある」
「何で言いづらいんだよ。お前とは関係ないだろ?」
「それが……、俺のせいだからな!」




