再会
「俺がマルボロ・モーリスだ!」
「陛下、大ぼらにございます!」
つい先ほどこの世界に渡って来た者がマルボロの名を知ってはずがないことに宰相は動揺しすぎて気付くことができない。
「どちらでも良いではないか爺よ。どちらにせよこやつは帝国に剣を向けることはできないのだ」
「……、そ、そうでしたな!私としたことがうっかりしておりました!」
「この小僧が本物のマルボロなら戦わずにモントローとローゼンを帝国の支配下に置くことができる。父でさえ成し遂げられなかった偉業をこの私が果たすのだ!」
前皇帝が天下統一できなかったのは不完全な召喚の儀式を行ったお前のせいだけどな。
そろそろ種明かししてやるか。滑稽を通り越して哀れに思えてきた。
「盛り上がっているとこ悪いんだが、魔法陣に施されていた隷属の術式ならとっくに解除済みだ」
魂魄を回収したついでに被召喚者にかけられていた隷属の術式はアンロックしてある。召喚者が何らかの枷を設けるのはお約束だろう。
「……」
「出鱈目を言うでない!そこのお前!女剣士を殺れ」
宰相に命じられて壁際に整列していた兵士の一人が一歩前へ進み出ると腰に佩いた剣を抜きながらおもむろにサクラへと近づいてゆく。
「サクラ、こいつは俺がやる」
こいつは強い。
おそらく帝国兵のなかでも最強だろう。上手く魔力を抑えているようだが「魔力視」持ちの俺には丸見えである。だが「鑑定」は阻害されている。
相手の顔は面頬で覆われて見えないがなぜか笑ったような気がした。
帝国兵が官給品の盾を投げつけると同時に距離を詰める。不条理だ。盾とは何なのか。
盾を斬り上げ刀を大上段に構える。
正確には斬ったのではなく分離させて真っ二つにした。分子単位で粉々にすることもできるが意味がないのでしない。
こんな芸当ができるのもこの刀が鍵だからである。今ではどんな形状にでも造形できるようになった。
振り下ろした刀と兵士の剣が鍔迫り合う。
たった一合斬り結んでわかったことはこの帝国兵は俺と同系統のスキル保持者だということだ。どちらの得物も両断されていない。彼我の実力差は伯仲している。
そしてそんな相手を俺は一人しか知らない。
「おい、いつまで正体を隠しているつもりだ?」
「あ、ばれてた?」
互いに剣を収めると帝国兵の身体が帯電し始める。
磁場が頭部に集まってゆくと面頬が弾け飛んだ。
現れたのは立派な一本角を生やした黒目黒髪の少年だった。
「よ!マルボロ!久しぶりだな!」
「そうだなマルボロ、お前の角大きくなってないか?」
誰がマルボロの本体かで揉めていたあの頃が懐かしい。
今となってはどうでもいいことだ。
みな本物なのだから。




