召喚
緋色の閃光が地面を迸ってゆく。
さてどうしたものか。べつに魔法陣から出るかどうか悩んでいるわけではない。
なぜか門の向こうへ行かずにここに残った貧乳真っ白少女をどうするのかをである。
「ワタシとカミサマずっとイッショ」
『ハクはいい子よ!』
【ハク】【ヒト族】【16歳】【巫女】
「魔力視」「口寄せ」「結界術」
白いからハク……、たぶんなんちゃって神様が名付けたのだろうな。
『スズノキくんは本当に失礼ね!』
影収納から白いフード付きローブを取り出しサクラに渡す。
「サクラ、これをハクに着させてやって」
ハクをここに一人残していくわけにもいかないしな。それにちょっと可愛いし。
「サクラ、ハク、俺に掴まれ」
魔法陣が完成し辺り一帯赤い光に包まれる。
場面は一瞬で切り替わった。
かなり広い部屋のようで床には魔法陣が描かれている。窓がないところをみると地下室だろう。燭台に灯された明かりだけが辺りを照らしている。
「おお!ついに成功したぞ!」
魔術師や兵士が俺たちを取り囲んでおり部屋中から歓喜の声が上がる。
これが成功だと?日本から召喚された者で生きているのは十名程度しかいない。
床は白骨死体だらけである。死体の状態をみると送られた先はバラバラのようだ。三十体ほどあるだろうか。
つまりあの時ほとんどの生徒が魔法陣から出たということだ。魔法陣の外にいた生徒は時間軸がずれて俺たちと同じように先に召喚されてしまったのだろう。
とりあえず俺たちを召喚した連中に制裁を加える前にやらなければならないことがある。
魂魄の回収だ。彼らの魂はこの世界にとどまり続けていたのである。
鍵は対象と接触させなければ効果を及ぼすことができない。なので細く伸ばしてゆき球体を集めていく。
回収した魂を「ロック」して影収納へ放り込んだ。
「ソージ、蘇らせないのか?」
「後でいい。今は他にやることがあるだろ?」
俺は隣にいる黒田誠にそう答えた。
「ここは……一体……」
「うあー!!!」
「異世界召喚キター!」
「あ、あ、ほ、骨が……」
放心していた生徒たちが騒ぎ出した。死体の山に囲まれているのだから当然そうなる。なかには変な奴もいるようだが。
生き残った?逃げ遅れた?生徒は剣道部が多いようだ。剣道場が二階にあったためだろう。
「あ!佐倉先生!」
彼女は剣道部の部長だっただろうか。サクラを見つけて安堵している。
「先生?マスター、彼女は何を言っているのでしょう?」
「サクラ、説明は後だ。それから部長さん、こいつは佐倉先生ではない」
「何を言っているの?あなた佐倉先生のクラスの一年生よね?呼び捨てにするのは失礼でしょう!」
こいつは今がどんな状況がわかっていないのだろうか?
「静まれ!これより皇帝陛下のいらっしゃる玉座の間へ移動する!」
俺たちを召喚したのはテトヴァルキア帝国で間違いなさそうだ。
モントロー公国との関係はどうなっているのだろうか。
『シン、いる?』
わかるやつに訊けばいいのだ。
『マル……、いや、ソージ様!』
懐かしい声がした。




