宝箱とカイトシールド
昇級試験に合格してEランク冒険者になってからひと月ほど経った。
それ以来あの名も無きダンジョンに潜り続けている。低階層のダンジョンは世界各地に無数に有り、名前が付けられることはないという。
ここで何をしているかというとボスのドロップ品を求めてひたすら周回をしている。試験のときの宝箱を除くとめぼしい戦利品は一つだけだ。
【ゴブリンパンツEX】【性別・男】【相性・90%】【清浄効果】
という性能のパンツだ。このゴブリンのパンツを穿いていると身体や身に付けている物が一切汚れることがないという優れ物だ。ちなみに名前は付けていない。
「ねえマルボロ、どこか他に行こうよー。ワタシここ飽きたー」
さっきから俺の顔の周りをうろちょろしているこの小さいのは自称精霊である。あの時の宝箱を「アンロック」して生まれたのがこいつだ。黒目黒髪なのは俺の影響を受けたためだろうか。
【宝箱EX】【性別・女】【相性・100%】【次元収納】【擬人化】
こいつにはハコと名付けた。ご覧の通り「次元収納」のスキルもちである。次元魔法を使えるわけではないので、喋るアイテムバッグといったところだろうか。ただしハコの「次元収納」は容量無制限かつ時間停止機能付きというとんでもないものだ。
そしてもう一つのスキル「擬人化」であるが、ハコは精霊の姿にも宝箱にも自由になることができる。サクラのもう一つのスキルも同様のものだと思われる。
「ねえってばマルボロー」
ハコによると俺はご主人様らしいのだが呼び捨てにされるのはなぜなのか。
「ドロップ品も期待できなさそうだし他へ行くか。それに最近は掘り出し物探しもしてないから明日は休みにしよう」
「イエーイ!ご飯!ご飯!」
「ハコ俺のはなしちゃんと聞いてた?」
翌日、かるく市場を見てまわったあとで武器屋へとやってきた。
ハコがいるおかげで荷物を気にする必要がなくなり大量の魔石を持ち帰ることができるようになった。なので最近は懐が暖かいので普通の店で買い物ができるようになったのだ。
最初に入った店では目ぼしいものは見つけられなかったが、ここはローゼン王国随一の交易都市ネイサンだ。店なら他にもある。
この辺りにある武器屋、魔道具専門店を周ってみたが高額すぎて何も買えなかった。さすがに魔剣やミスリル製品にはまだ手が出せない。
ただ途中でたまたま寄った靴屋で黒いブーツを購入した。
【普通のブーツEX】【性別・男】【相性・85%】【健脚】【忍び足】
スキルが二つあったので期待していたが「擬人化」は持っていなかった。このパターンは想定していなかったが、男だったから良しとしよう。
サクラには「擬人化」が付いていることを願うばかりである。
そろそろ日が暮れるので次の店で最後にすることにした。冒険者ギルドの近くにある鍛冶屋である。あそこなら掛け出し冒険者から高ランク冒険者まで扱える装備品を取り扱っている。そういえば初めて買った短剣もここの店のものだ。
鍛冶屋に入るとドワーフの店主が出迎えてくれた。
「お、マルボロじゃねーか、まだ生きてやがったか」
「おかげさまで、ハハハ」
人族至上主義のローゼン王国で亜人と会うことはめったにない。入国が認められているのはエルフとドワーフだけである。ここの主を除くと冒険者でまれに見かけるくらいだ。
この店には弟子たちが修行のために作った安い装備品が置いてある。それは店内の端っこの目立たない場所にあり、大きな木箱の中は無造作に放り込まれた装備品でいっぱいだ。
「魔力鑑定」を使って探ると木箱の下の方から他より大きな魔力を感じた。どうにかかき別けていくと一番底に一枚の盾があった。
魔力の反応からこのカイトシールドで間違いないだろう。だがサクラは両手持ちの刀だ。同時には使えないがどうするか。
【カイトシールドEX】【性別・中性】【相性・100%】【???】【???】
んー、中性っていうのが気になるが……、「擬人化」をもっているかもしれないので購入することにした。
貧民街の自宅に戻りカイトシールドを「アンロック」した。
【カイトシールドEX】【性別・中性】【相性・100%】【盾術】【擬人化】
目の前にはカイトシールドを背負い片手剣を腰に佩いた美少女が立っている。胸もありふくよかな体つきをしている。容姿は女性にしか見えないが中性だ。
「はじめまして!これからは僕がご主人様をお守りします!」
僕って言ったがどうしたものか。
「えーと、女性ってことでいいんだよね?」
「秘密です!」
いや、どっちだよ!