過去編④
「マコト!これを見ろ!」
森で遭難してから三日目にして密かに特訓していた成果がついに現れた。
鍵を掴み黒田誠に見せつける。
「お、おう、……おう?」
「よく見ろって!少し大きくなってるだろ!」
鑑定によると鍵は魔力で創られている。ならば俺次第ではどんな形にでも造形できると考えまずは大きさを変えることから始めた。
そしてついにナイフ程度まで自在に可変させられるようになったのだ。
「そ、そうか、よかったな」
なんだその心の籠っていない賛辞は。今に見ていろ。この鍵が刀大まで成長したとき俺の隠された真の力が解放されるに違いないのだ。たぶん。
先回りして探索に出ていたマコトが帰ってきた。未だに「強化」が継続しているようでその身体能力はもはや人のそれではない。
「おーい!このまま進めば森から抜けられるぞー!」
声が聞こえたと思ったら瞬きをする間に俺たちと一緒に歩いていた。このチート野郎め!
「近いのか?」
「ああ、ただこのペースだと半日はかかるかな」
というわけでマコトにおぶってもらい疾風の如く森の中を駆け抜ける。
森を抜け街道をひた走ること数刻、俺たちはついに人里にたどり着いた。
人里というよりも街である。それもかなり大きな街だ。全体的に灰色掛かっており道も建物も石造りである。屋根の赤煉瓦を除くと窓枠とドアが木造でガラスも普通に使われているようだ。
人ごみにちらほらとエルフや獣人交じっている。
「おいマコト!エルフがいるぞ!」
「女冒険者がエロい装備をしているのは物語の中だけみたいだな……」
武装した女冒険者と思われる者たちはすべからく大事なところが隠れる装備を身に着けていた。
「あなたたち恥ずかしいから大声で話すのはやめてね」
サクラちゃんはどこまでも冷静である。スキルを得て鋭くなった剣捌きに興奮していたぐらいで、ここまで顔色一つ変えることもなかった。
「と、とりあえず冒険者ギルドを探そうか」
「冒険者ギルド?テレーマ教国にそんなものあるわけないだろう」
言葉は通じるようだが冒険者ギルドがないだと?困った。いきなり躓いてしまった。
「何も知らないようだが観光で来たのか?ここで観るものといったら大聖堂ぐらいしかないぞ?」
「大聖堂?」
「ああ、この大通りの先に大きい建物があるだろ?あれが大聖堂だ。あそこには別の世界へ通じる門がある」
大聖堂の中はひんやりとしてどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。
それがステンドグラスから差し込む明かりのせいなのか正面の壁に彫ってある奇妙なレリーフのせいなのか、それとも真正面に鎮座する大きな門のせいなのかはわからない。
俺たちは門の前まで来て門扉に手をかけた。
しかし扉は押しても引いても開くことはできなかった。
「鍵」魔力で鍵を創造する。其の権能は森羅万象に至る。
俺は創りだした鍵を門に押し付ける。鍵穴がなかったためだ。
門扉に吸い込まれた鍵を半回転させた。
仰々しい音を軋ませながら門は開かれた。
他の二人はどうだかわからないがこの時の俺は日本に帰れると思い込んでいた。
自分だけ平凡なスキルを与えられたから異世界に嫌気がさしたのだろうか。
まあ、そのスキルが最後に役に立ったから良しとしよう。
俺たちは門を潜り抜けた。




