過去編③
遠方に聳える山脈を背にして森を彷徨う。
夜になる前に森を抜けるのだとサクラちゃんに無理やり歩かされているのだ。しかも気を失っているマコトを背負いながらである。
マコトはスキルの検証中にぶっ倒れた。魔力切れというやつだろうか。
なぜか「進化」「限界突破」は使えなかったようである。そして「強化」であるが重ねがけができることがわかり調子に乗って使いまくっていたところ失神してしまった。
「サクラちゃん、もっとゆっくり歩いて」
「急がなければ日が暮れてしまいます」
巫女服を着たサクラちゃんのほうが体力はありそうなのだがさすがに馬鹿でかいマコトを女に背負わせるわけにはいかない。
それに俺のスキルでは戦うことは難しいだろう。まだモンスターと遭遇はしていないがもしものときはサクラちゃんに頼るほかないのだ。
よくよく考えてみると他の生徒たちと一緒に召喚?されなくて良かったのではないだろうか。
ネット小説などでは異世界転移もののお約束として、役立たずの者は召喚された国で酷い扱いを受けるのだ。俺は間違いなくそのポジションだと思われる。
だが諦めるにはまだ早い。そのような者はたいてい秘められた能力を覚醒させるのだ。
俺はそうやって自分を鼓舞しながら歩き続けるのだった。
「ん……、んん?」
「やっと起きたか……、さっさと降りろ!」
大の字に寝転がり空を仰いだ。西の空が茜色に染まっているがもう一歩も歩けそうにない。
「鈴ノ木君お疲れ様。今日はここで野宿しましょう」
おや?サクラちゃんがちょっとだけ優しい。役立たずなりに頑張った甲斐があるというものだ。
動けない俺に代わってサクラちゃんが野営の準備をマコトが見張りをすることになった。
ここへ来るまでに何度かゴブリンに遭遇したがサクラちゃんの敵ではなかったようだ。出会い頭にゴブリンの脳天に木の棒を叩き込みあっという間に撲殺し、そいつから錆び付いた片手剣を奪ってからはまさに無双状態だった。
今はそのサクラちゃんが近くにいない。本来なら不安に駆られるところだがどうやら見張りをしているマコトもチート野郎だったようだ。
気を失う前に使った「強化」がまだ継続しており効果が切れる気配もないそうだ。その場で垂直飛びをしたマコトは2メートルほどジャンプしていた。
どうせ明日になれば元に戻っているに違いない。そうなってもらわねば俺の立場がないというものだ。
サクラちゃんが大量に持って帰ってきた枯れ木を組み生活魔法で火を熾すと初めて見る魔法に二人とも驚いていた。
さらに水をだし浄化(掃除、洗濯、風呂もこれ一つで足りる)で身体をキレイにしてあげると随分と感謝された。
もしかすると大したスキルを持っていない俺に気を使ってくれているのだろうか。
その日はボストンバッグに入っていたスナックやチョコ菓子を口にしただけで就寝することになった。夜番は代り番こで務める予定だったが結局サクラちゃん一人で朝まで番をしていた。
最後まで寝ていたマコトが目を覚まし大きく伸びをするといきなり走り出して森の中へと消えてゆく。
角の生えた大きなウサギを手にしたマコトは飛び跳ねながら帰ってきた。どうやら昨日の「強化」は継続中のようである。
まだ確定ではないがマコトの重複するスキルである「強化」が永続するものだとしたらどこまでも強くなることができてしまう。例え効果時間があっても重ね掛けできる以上強力なスキルであることに違いはない。
上ってくる朝日に照らされ煌めいている鍵を見入る。
俺の異世界生活はこいつにかかっている。
次話で過去編は終わりです。たぶん。




