過去編②
ひとしきり放心した後に他の生徒を探したが見つからなかった。
体育館と柔剣道場は魔法陣に取り込まれたのだから部活中だった生徒の姿が見当たらないのは腑に落ちない。
俺たちが魔法陣の外側に出たことによって転移先に誤差が生じてしまったのだろうか。もしくは……。
「違う時代に送られたか……だな」
と、黒田誠が後を引き継いだ。
「だとしたら俺たちは先に来たのか後に来たのか……」
あの時のことを思い返してみると、たしか他の生徒たちのどよめきが止んだ後で俺たちはここに飛ばされたはずだ。ということは……、んー……、どういうことだ?
「わからないことをいくら考えても無駄です」
佐倉吹雪ことサクラちゃんは木の棒を三本手にして戻ってきた。
「……、これは?」
渡された木の棒をしげしげと眺める。
「木刀です。用心に越したことはないでしょう」
これはちょっと堅くて長い木の枝であって木刀ではない。それに俺たちは剣道部ではないのだが。
「とりあえず森から出ましょう」
「その前に確認しなければならないことがある!だよなマコト!」
「まったくその通りだソージ!」
サクラちゃんは胡乱そうにこちらを見ている。
「「ステータス!!」」
しかし、何も起きなかった。
「ステータスプレート!」
「アイテムボックス!」
「ファイアアロー!」
「ヒール!」
サクラちゃんから俺たちに向けられる視線が痛い。
「もう気は済みましたか?」
「ソージ……、ここ異世界じゃないんじゃね?」
「んなわけあるか!……、鑑定!」
【フブキ・サクラ】【人族】【26歳】【剣士】
「剣豪」剣、刀を扱う技能が大幅に向上する。剣術の上位スキル。
「巫女装束」魔力で創造した白衣と緋袴を身にまとう。全強化、全耐性。
「天孫降臨」天神を自らに降霊させる。再生、浄化、魔力生成。
「見える!成功だ!」
二人に鑑定結果を書き写したノートの切れ端を渡す。下校するために学校指定のボストンバッグを背負っていたので持っていたのだ。
「なあ、俺のスキルおかしくね?強化、進化、限界突破って意味わからんのだが」
【マコト・クロダ】【人族】【16歳】【修行者】
「強化」「進化」「限界突破」
「すまんが詳しい事は一切不明だ」
すぐ傍では巫女服姿のサクラちゃんが木の棒を振り回している。どうやらご満悦のようだ。掛け声がうるさい。
そして俺はというと、
【ソージ・スズノキ】【人族】【16歳】【鍵士】
「鍵」魔力で鍵を創造する。其の権能は森羅万象に至る。
「生活魔法」着火、放水、送風、接着、灯り、浄化。
「鑑定」対象の詳細を見通す。
二人に比べると明らかにしょぼい。
「鍵」
俺の指先には小さな鍵が摘ままれていた。
どんなものでも開けることの出来る鍵?
泥棒にでもなれと?
どこの勇者だよ!
俺は心の中の叫び声を辛うじてねじ伏せた。




