旅立ち
「僕は残るよ。いつでも行けるしね」
「嫁さん連れていくわけにもいかないし俺も残るかな、それにサクラの本体を探すのに千里眼は必要だろう」
門を開くことができたのはアレス、マルボロ(目)(蛇)の三人だけだ。人外にならなければ資格を得られないのだろうか?
「俺は行く。ミアも連れてきているしな」
(蛇)は胸元からネックレスになっているミアを引っ張り出した。
「門を開けられたらお前も来いって教皇も言っていたしな」
そんな積極的な誘い方はしていなかったと思うが。止める理由もないので何も言うことはない。
そして(蛇)は門の向こう側へと消えていったのである。
俺たちはというと今後のことを話し合うためにモントロー公国まで帰ってきた。
急を要する仕事はいくらでもある。モントロー公国の復興、ヘルムート領の運営、鉱山の開発、魔導工学の普及など数え上げればきりがない程だ。
だが俺にはマルボロとしてではなく鈴ノ木宗時としてやらなければならないことがある。
最優先事項はどこかに封印されている佐倉吹雪の捜索だ。そして日本へ帰るための方法も探さなければならない。黒田誠は……、まあ別にいいか。あいつはしぶといしな。
だから後のことは他のマルボロたちに任せて旅立つことにした。
「なあソージ、行く前にさ俺の止まっている時間を元に戻してくれないか。加齢にロックをかけたのはお前だろ?鍵魔法では解除できなかったよ」
神妙な顔つきでマルボロ(EX)が話しかけてきた。
「いや、当時はそんなことできなかったから歳を取らなくしたのは俺じゃないよ。一応やってはみるけどいいのか?」
「俺はエマと一緒に生きていきたい。子供も生まれるしな。他にもマルボロはいることだし一人ぐらい普通の人として死ぬやつがいてもいいと思うんだ」
……、俺は鍵を創り出しマルボロの身体に差し込んだ。
お婆やアンロッカーズの面々の顔を見てから旅立とうと思ったがそのまま出発した。どうせ帰ってきたらいつでも会えるのだから。
目的地はズヴェーデン山地の地下迷宮である。マルボロ(鬼)のように別の大陸に渡ることも考えたが一番モントローから近いところを探すことにした。
ズヴェーデン山地の地下に広がる大迷宮は千里眼で見た情報によると深層の途中から黒い靄がかかっているという。
つまり何者かによる干渉を受けているということだ。その先に何かがあるのは間違いない。
その領域に踏み込んでからしばらくしてマルボロたちと念話が繋がらなくなった。
最下層に近づいているのかもしれない。
俺とサクラは大迷宮の底へ底へと下りていった。
第二部完




