テレーマ教国
テレーマ教国に着いた俺たちは大聖堂へと続く大通りを歩いている。
街並みは以前来たときとあまり変わっていないようだ。赤茶色をした屋根の石造りの建物に石畳が敷き詰められた通り。大聖堂がなければ普通の街である。
そう、テレーマ教国とは名乗っているがここは街程度の規模しかないのである。
しかもこの国は軍もなければ国家を運営する母体さえもないという。当然、国民に課せられる税もないし法も何もかもがない。にもかかわらず国が乱れることもなく成り立っているという不思議の国である。
国家元首は教皇ということだがどうやって選ばれて何をしているのかアレスも知らないらしい。
「アレスの言う通り本当に兵士はいないんだな」
「入国審査もなかったしな」
「そもそも城門がない」
「ここを攻めようなんて国はこの大陸、ああ、島なんだっけ?には存在しないからね、城門も兵士も必要ないんじゃないかな」
アレスの話によると遥か昔に侵攻してきた宗教国家の軍隊をテレーマ教徒は殲滅し、そのまま本国まで攻め上り国ごと地上から消し去ったという。
しかもそれだけに止まらず二度と攻められることがないようにと他の宗教のすべてを掃討してしまったのである。だからこの大陸(島)にはテレーマ教以外の宗教がないのである。
この街で暮らす人たちをみればそんな不条理な歴史も納得できてしまう。魔力の感じからしてほとんどの者がアンロッカーズのメンバーと同等かそれ以上に強いと思われる。なかにはマルボロにも匹敵するほどの者も混じっているようだ。
「ず、随分と過激な宗教なんだな」
「ん?そんなことはないと思うよ?相手が手を出してこなければこちらは何もしない、テレーマ教徒は自分にしか興味がないからね。それに僕からみればテレーマ教は宗教といえるようなものではない。だって信仰する神などいないからね」
「よくわからないな。何の目的でテレーマ教は創られたんだ」
信仰する神がいない宗教なんて俺には理解できない。
「聖地を守るためだよ。今僕たちが向かっている大聖堂にある門がテレーマ教徒の信仰対象みたいなものかもね」
「つまり神格化された門を拝んでいるのか?」
「そんなことはしない。さっきも言ったけどテレーマ教徒は自分にしか関心がない、テレーマ教の本旨は輪廻の輪から離脱することだからね」
なんかどこかで聞いたことのある宗教観だな。
「テレーマ教はそれを実践することを目的に創られたもので、教義では自分が死んだとき門が現れればこの世界よりも上位にある世界へと旅立てると云われている。それが大聖堂にある門だよ。もっともこの国に住んでいるような人たちは生きたままその世界に行くことを至上命題としてる者たちばかりだけどね。資格のあるものが門の前に立つとその扉は開かれるらしい、百年程前に門を開けた者がいるのは事実のようだよ」
「まあ、鍵を使って無理やり開けたんだけどね」
「え、そうなの?」
うん。そのおかげでスキルと記憶を奪われたけどね。あのときはそんなに重大な禁忌を犯したという自覚がなかったんだよなー。
大聖堂に到着したことによって会話は遮られた。
入り口は大きく開け放たれている。




