俺の名は
目を覚ますとお婆と三人のマルボロが俺の顔をのぞき込んでいる。
記憶をすべて思い出したらマルボロとして過ごした年月はもっと他人事のように感じると思っていたがそうではないらしい。
よくよく考えてみると記憶はないが百年以上元人格よりもマルボロとして過ごした月日のほうが長いのだから当然のことなのかもしれない。
俺は日本人としての記憶を取り戻したが依然としてマルボロであることには変わりがないようだ。
「おい、最後に念話を飛ばしてきたのは誰だよ?」
マルボロ(目)と(蛇)は意味が分かっていない様子できょとんとしている。
「お前か生活魔法、何が「じゃあな兄弟」だよ、恥ずかしいだろ!」
「ぷっ!何お前、こいつのマルボロとしての記憶が消えると思ってたの?」
「どうなんだ兄弟?」
「う、うるせーな!そんなことよりEXを付けろ!」
「で、ちゃんと記憶は戻ったのかい?」
心配してくれたのはお婆だけのようだ。
「ああ、思い出したよお婆、俺は鈴ノ木宗時、ソージ・スズノキだ」
俺は別の世界から来たこと、サクラと「天上の楼閣」にいた男が同郷であることなどを簡単に話した。
「ニッポン……変な国名だな、それにしてもサクラもか……」
「ああ、彼女は佐倉吹雪で男の方は黒田誠だ」
「そのクロダって奴に記憶を封じられたのか?」
「いや、誠は友人だ。俺からスキルを奪い、記憶を封印したのはテレーマ教国の連中だよ」
「テレーマ教国?たしか前にアレスが所属していたテレーマ正教の総本山だよな。一体何があったんだ?」
「詳しい説明をする前にサクラの記憶を戻したい。「千里眼」で見てもらえないか?」
マルボロ(目)は第三の目を開きどこかを見ている。そこにサクラがいるのだろう。だがすぐに視線を別の場所に向けしばらく凝視していた。
「サクラの記憶が封じられている痕跡はない」
「何!間違いないのか!」
「ああ。それよりもテレーマ教国の大聖堂には何があるんだ?真っ黒なんだが」
「……、大聖堂の一番奥の部屋には別の世界へ通ずる門がある」
「ほお、その世界とやらはどんな場所だったんだ?」
「わからん。俺は門を潜った直後にスキルを奪われてそれ以降の記憶がない」
サクラの記憶を元に戻す手掛かりもテレーマ教国へ行けば何かわかるだろう。
今回は敵の本拠地ということもあり俺とマルボロたち、サクラ、それから案内役としてアレスのみで乗り込むことになった。
全員揃いいよいよ出発という段になってマルボロ(目)が口を開いた。
「誰も気付いていないようだけど、ソージのスキルが変わってるんだけどそのままでいいのか?」
「え?……、もっと早く言ってくれよ……」




