記憶の在処②
俺たちは「天上の楼閣」にいた男のことなど何も知らない。なので微かに覚えている奴の魔力を頼りに探すしかない。
「奴は見つからないが凄いことがわかったぞ」
少し興奮気味にマルボロ(目)が話し出した。
「俺たちが大陸だと思っていたこの土地は島だ」
「んなわけあるか。島は小さいものだろ」
「だから小さいんだってば。北東、北西、南にここより何十倍、何百倍もでかい大陸があるようだな」
「何?人はいるのか?」
「ああ。だいぶ文化は違うようだがな。それから鬼を北西の大陸で発見したんだが」
「あいつはそんなところで何をしているんだ……」
小一時間ほど経って目はひとまず探索を断念したようだ。どうやら「千里眼」を使っても黒く塗り潰されて見えない所があるという。
「例えばこの近くでいうと「盗賊の隠れ処」は見えるが「天上の楼閣」は見えない」
「たしかあそこには奴の言葉を信じるなら神が張った結界があったな……、俺が解除したはずだが黒くなって見えないということは張りなおされたか……、もしくは勝手に再生するようにできていたか……」
「そんなことより手付かずのミスリル鉱床を見つけたぞ、他は……鉄鉱もあるな。あとローゼン王国に金鉱床がある」
この時に発見した鉱床群によってモントロー公国、ローゼン王国は飛躍的に大国としての道を歩み始めることとなる。
ヘルムートにあるマルボロ(EX)の屋敷に鬼以外のマルボロは集まっていた。
お婆の部屋にいるのは本人と俺たちだけだ。
謎の男の他に俺の過去を知っていると思われる人物がお婆だからである。
そもそも俺の記憶はおかしい。お婆と出会ったのは十二歳の頃だったと思うがそれ以前の記憶が曖昧なのだ。幼いころのことをよく覚えていないだけならば特別なことではないだろう。だが十二歳当時のことをほとんど覚えていないのは不自然だ。
不自然なことはもう一つある。俺には母との思い出だけしかないのである。父親のことも友人のことも何も覚えていない。
そしてその記憶の中の母の顔はいつだってぼんやりとしておりまるで何かに阻害されているかのように思い出すことができないのである。
だがその姿、立ち居振る舞い、口調はお婆とどこか重なるのだ。
しばしの沈黙の後にお婆が口を開いた。
「いつか問いただされるとは思っていたけど、ついにそのときがきたんだね」
「え?前にも訊いたけどはぐらかされたから訊かないほうがいいと思っていたんだけど?」
「そ、そうだったかね?おかしいねー」
そのすっとぼけ方も母そっくりなんだよ。
「結論から言うとお前は私の息子ではない。が、お前の記憶の中の母親は私で間違いない」
そしてお婆は語りだした。




