記憶の在処①
シュミット商業連合国を平定しローゼン王へ報告したところマルボロはモントロー公国の君主として独立することを承認された。
その際リーデル家は陞爵され侯爵としてモントロー公国へ籍を移すこととなり、アンロッカーズのメンバーも伯爵として領地を賜った。
それをゲオルグとアレスが固辞したため二人の代わりに領地を治めることになったのがアレスパパである。
モントローでアレスパパと再会して宰相に任官してもらったが何やら疲れ果てているようである。話を聞いたところ誰もモントローへ来たがらなかったため仕方なくアレスパパが引き受けたようだ。
シュミット商業連合国は大陸の西の大国であるテトヴァルキア帝国と友好的な関係を築いておりモントロー公国は国の復興だけでなくその帝国との国交を結ばなければならないのだ。下手を打てば戦争になりかねないのである。
そんな国をマルボロは全て押し付けられたのだ。アレスパパによるとローゼン王国のヘルムート領を安堵されたのも公国と王国の関係を強固なものにし公国を対帝国との橋頭保とするためであるという。
「ま、心配する必要はないと思うけどね。もし攻めてきたら返り討ちにしてやるだけだ」
そもそも戦争になどならないと俺は踏んでいる。それは大陸を東西に分断する大山脈群であるズヴェーデン山地の存在があるからだ。
帝国がモントローに攻め入るためには四つのルートがある。まず魔導列車を走らせるために通したトンネルだがもしものときは崩落させてしまえばいい。
数万の大軍を従えての山越えなど正気の沙汰ではないし、海上ルートもこちらには空を飛んだり跳ねたりできる俺たちがいるわけで、逃げ場のない海上での戦など上空から一方的に攻撃して終わりだ。
そしてズヴェーデン山地の地下に広がる大迷宮だがここは魔物たちの巣窟となっておりこれまでに踏破した者はいない。最近では両側に入口があるにもかかわらず中で繋がってないのではと囁かれているほどである。ちなみにズヴェーデン大迷宮はダンジョンではない。
というわけで帝国のことは放っておいて国の復興を最優先にすることとなった。
それと同時進行で「天上の楼閣」にいた男の捜索に本腰を入れるつもりだ。
シンたちに任せていても見つかる可能性は低いだろう。そこで新しいスキル「千里眼」を習得することにした。なんでも森羅万象を見通すことの出来る眼だという。
以前「盗賊の隠れ処」で手に入れた「千里眼」付きの弓を手にする。
経験上スキルを削除するのは難しいが「アクセス」で覚えるのは容易いことは証明済みである。
影法師でノーマルマルボロを確保してサクッと習得する。
「千里眼!」
さっそく使ってみたところ額に第三の目が現れた。
以前「千里眼」もちの冒険者が使っているのを見たことがあるが三つ目などにはならなかったのになぜなのか。
そしてご多分に漏れずマルボロは人でなくなっていた。
「半神半人だってさ」
目が一つ増えて半分神様になる理屈がわからない。
「神様なんて信じてなかったけど本当にいるらしいな」
マルボロ(目)はそう呟いた。




