連合国の最期
サクラに負けた鬼はその日のうちにヘルムートへ戻り、数日後『修行してくる』と一言だけ念話を残して姿を消した。
その際に鬼は自分の嫁であるリーナではなくサラを伴って旅立って行った。以前自分たちの嫁を決めたときサラは俺の嫁に決まったはずっだったのだが、移動のことも考えてサラを連れて行ったのだろう。
というわけで俺の嫁はリーナになった。こちらが落ち着いたらお婆と一緒に呼び寄せるつもりだ。
ナーガになったマルボロはというとミアと共にダンジョンに入り浸っている。といっても攻略しているわけではなく住んでいるのだ。
立派な?魔物となってしまったマルボロ(蛇)にとっては魔素の濃いダンジョンの方が快適なようだ。人である俺にはピンとこないが魔物は生きる上で人よりも多くの魔素を必要とするらしい。
そして蛇の住んでいるダンジョンというのは「天上の楼閣」の最上階である。
俺の知らない俺を知っているあの謎の男とはもう一度会わなければならない。だが奴の消息は未だに掴めていない。いつかひょっこり帰って来るかもしれないということであのダンジョンに住むことにしたそうだ。
その蛇の「天上の楼閣」から放たれた魔導砲を合図にシュミット・モントロー戦役の最後の戦いが幕を開けた。
カルヴェロ王国は既にモントローの傘下に入っているため残りの連合国はタークス王国とカイコス王国の二国のみであるがまだ両軍合わせて三万もの大軍を擁している。
対してモントロー軍は一万のみだが戦など所詮は大将の首さえ取ってしまえば勝ちである。
魔導砲の一発で浮足立った連合国軍にアーサー率いるモントロー軍が切り込んでいった。緒戦としては上々の入り方が出来たのではないだろうか。
なにしろ魔導砲の恐ろしさを最も理解しているのは連合国の人間である。それがモントローに配備されておりいつ二発目が飛んでくるかと恐れながら戦わなければならないのだ。
俺はその様子を上空から見下ろしている。
先陣を切るアーサーの鬼神のごとき働きもあってか、数では劣っているはずのモントロー軍が圧倒的に押しているようである。
このままでもこちらの勝利は揺るぎないだろう。だがこの戦いは短時間で終わらせるつもりだ。
モントローの兵士たちはみな死人だ。つまり既に一万人以上の元連合国の人間が死んでいることになる。しかも全員男である。これ以上の死者を出してしまっては国家の運営に差し障ってしまう。
「そろそろ終わりにするか」
影法師で二人になった俺は後方に控えているタークス・カイコスの両大将の元まで一気に駆け下りその首を刎ねた。俺たちはさらに影法師を増やし指揮官と思しき人物を狩っていった。
統率者を失った連合国軍兵士は我先にと敗走を始める。自国へ戻っていくだろうが放っておいても問題ないだろう。後はモントローで降伏の使者を寄越してくるのをただ待っていればいい。
まだ反抗してくるようであればその時は国ごと消えてもらうだけだ。
翌日、タークス王、カイコス王の首を携えてクレイトス・カルヴェロがやってきた。どうやら両国はカルヴェロ王国を頼ったようだ。
最初から両王家を取り潰すつもりなどなかったのだがこうなっては仕方がないので、生き残った王族はカルヴェロ王国に預けることとなった。
この日をもってシュミット商業連合国は消滅した。
マルボロはサクラを手にしてから僅か一年足らずで一国の王に上り詰めたのだった。




