鬼VS桜
目の前では身体中血塗れの鬼とサクラが笑みを浮かべながら殺し合いをしている。
血煙を上げながら刀で斬り結ぶ音だけが辺り一帯を支配していた。
いつの間にか隣にいた蛇も真剣な眼差しで二人を見つめている。どうにかして辞めさせたいのだが剣筋を辛うじて捉えるのがやっとの俺では二人の間に割って入ることなど不可能だろう。
「ユリウス、あの剣鬼と剣豪の二人を止められるのは剣聖であるお前だけだ!頼むぞ!」
「僕に死ねっていうのかい?それから剣聖を称号みたいに言うのやめてね、ただのスキルだから!」
使えない奴め。お前の評価は下がる一方だな。
「ゲオルグ、二人のあいだに飛び込め、お前は死なないから大丈夫だ」
「それを言うならマルボロ様だって死なないだろ!自分でやれ!」
「俺は歳を取らないだけだ!お前と一緒にするな!」
「喧嘩なんてしてる場合じゃないと思うんだが」
クレイトス・カルヴェロがつぶやいたので無言で頭を殴りつけてやった。部外者は黙っていろ。
「痛ぇな!つーかお前らどいつが本物のマルボロなんだ?戦ってるやつが分身体なら消せばいいだけだろ?」
「俺たちはみんな本物のマルボロだ」
あの最強の剣士であるサクラと互角に渡り合っている。むしろ体力のある分こちらが優勢だろう。そして俺にはまだ奥の手がある。
「もう降参したらどうだ?このまま鍔迫り合いを続ければ勝つのは俺だ」
「もう勝った気でいるのですかマスター……、いえ、あなたはもうマスターとは別人かもしれませんね。マスターはそんな血走った眼を私に向けることなどありません」
「だろうな。あいつは女の尻にしか興味がないからな。だが俺は違う!お前に勝って最強の称号を手に入れる!」
「いつも舐め回すようないやらしい視線を向けてくる私の可愛いマスターはあなたの中にはもういないのですね、やはりあなたはマスターではありません!」
「俺の悪口を言うのは止めろ!」
ここへきて徐々に剣戟の激しさが増していく。僅かでも隙を与えればどちらかの首が飛ぶだろう。
「そろそろ終わりにしようか」
鬼の角がバチバチと放電し始めた。その間も剣の応酬が止むことはない。
「雷切!」
サクラに刀と雷が同時に襲い掛かる。
鬼は勝利を確信した。剣撃と同時に放たれた電撃は、当然のことながら刀よりも早く到達してサクラを感電させる。その一瞬でサクラの首を刎ね飛ばした。
……はずだった。
気付けば首筋にサクラの刀が当てられている。
「雷切」はサクラの左腕を斬り落としただけで首までは届かなかった。つまりサクラは雷撃を躱したのだ。
「そんな馬鹿な!人間が雷よりも速く動けるわけがない!一体どうやって……」
刀を下ろしたサクラが口を開く。
「人が雷を躱せるわけないです。私はただあなたが雷を落とす場所を予測して先に動いただけです。電撃が来るのはわかっていましたからね。あんなに角をパチパチさせていたら誰だって気付きます」
「だとしても初見で躱せるやつなんてサクラくらいのもんだよ」
「武技を放つタイミングがわかっていましたから。あれはダブルブレードの応用技ですね?予備動作が同じでしたよ?」
そこまで見破られていたのか……、……勝てるわけがない。
「あなたの敗因は「雷切」を躱されたことではありません。武技を放ったから負けたのです」
「……」
「今回の勝負は私の体力が無くなるか、あなたの集中力が切れるかの戦いでした。ですがあなたは勝ちを意識し過ぎて状況判断を誤りました」
マルボロ(鬼)は大の字に寝転がり呟いた。
「お前とはもう戦わない」




