来訪者
モントローでシュミットから奪ってきた建物の移設や魔導列車の線路の敷設を行っている頃、シュミット自由貿易都市に置かれている連合国評議会ではマルボロから送り付けられてきた書状への対応が協議されていた。
書状の内容は、金を払え!それができなければ領土を明け渡せ!さもなくば戦争だ!要約するとこんな感じだ。要求金額は百億ゴールド、白金貨一万枚である。
「百億など払えるものか!」
「だからローゼンの国内問題に首を突っ込むなと言ったんだ!」
「クールヴァ連邦は今回も欠席か」
「そもそもクールヴァは評議会に一度も参加したことなどないだろう」
「シュミット自由貿易都市単独で支払うべきでは?我々に一言の相談もなく魔導砲を撃ち込んだのだろう?」
評議会は紛糾し結局降伏派と交戦派に真っ二つに分かれることになった。
モントロー公国の傘下に入ったのは主に商人たちが治めていた国々だ。彼らにとって国を失うことなど瑣末な問題にすぎず商売さえ出来ればどうでもいいのである。損得勘定だけが彼ら商人の行動原理なのだから。
だが君主制を布いている国々はそう単純にはいかない。王侯貴族は領地を召し上げられ下手をすると死罪だ。降伏をするにしても時機を見誤ればすべてを失ってしまうだろう。
こうしてマルボロたちのおおよその想定通りに物事は推移していくことになった。
「クールヴァ連邦からの返信はまだないのか?」
フリッツが「金が足りない!」と大騒ぎしているのを尻目にアレスとゲオルグに尋ねる。この二人は仕事などしない。
「ないよ。クールヴァは傭兵の派遣業だけで国利を得ているちょっと変わった国で、クールヴァの兵士を雇う条件で連合国に加盟しているだけだからね。連合国のことはただのお客さん程度にしか思っていないのかもね」
「連合国軍にクールヴァの兵士が交じっているなら敵ってことでいいんだよな?」
「それが傭兵を雇っていたのはシュミット自由貿易都市などの軍隊をもっていない国だけだったから今の連合国とは関係がないね」
「んー、俺たちに敵対しないなら放置でいいか」
シンの部下から念話がはいる。モントローは人手不足のため臨時で官吏をしてもらっているのだ。
『マルボロ様、クールヴァ連邦の使者が参っております』
執務室に通されたクールヴァからの使者は貴族のような身なりをしているがこの男も傭兵だろう。服の上からでもその鍛え抜かれた体躯がはっきりと見て取れる。
「お初にお目にかかります公王陛下。私はクールヴァ連邦第一連隊隊長ローワンと申します」
「へ、陛下?おいアレス、公爵は閣下じゃないのか?」
陛下とか呼ばれるとこっ恥ずかしいのだが。
「マルボロはモントロー公国の君主だから敬称は陛下だよ」
「そ、そうか……。それで用件は何だ?」
「単刀直入に申しますと手前共を雇われるつもりはございませんか?此度は営業にまかり越しました」
「んー、契約するにし……」
言葉を遮るようにマルボロ(鬼)から連絡が入った。
『おい、連合国が攻めてきたぞ』
『数は?』
『二人だ』
『は?』
『片方はユリウス・ヴェルナーだ』




