友の死
マルボロ(鬼)は玉座に近づくとおもむろに腰を下ろした。
「これが玉座ってやつか……、意外と座り心地は良くないな」
「おい、そこをどけ、その椅子は俺のものだ」
鬼と蛇がしょうもないことをやっている。人でなくなってから性格まで変わってしまったようだ。それとも俺は連中のように馬鹿だったのだろうか。
「こらー!貴様ら何をしておるのだ!」
「宰相殿そいつらは放っておきましょう、それよりも場所を変えて今後のことを話し合いましょう」
馬鹿に付き合っている暇はない。時間は有限なのだ。
「こ、今後のこととは何のことかな?」
「戦争賠償についてですよ。国内の戦後処理は終わりました。あとは連合国との賠償に関する議定書を締結すれば完了です」
話し合いは長テーブルをはさみモントローとローゼンに分かれ行われた。
それぞれの参加者はモントロー側は宰相及び宮内官吏数名、こちらは俺とアレス、ゲオルグにアーサーを加えた四人だ。鬼と蛇は邪魔だから置いてきた。
「白金貨千枚だと!そんな金払えるわけがないだろう!」
金貨百枚で白金貨一枚になる。つまり十億ゴールドを要求したわけであるがモントローに支払い能力がないのはわかっている。
最初からこの国を乗っ取るつもりだったので適当な額にしたが吹っ掛け過ぎただろうか。
「マルボロ殿、モントローの国庫金はほぼ空です。そのような大金を支払うのは不可能です」
「金が無い?なら大公の遊興費はどこから捻出しているんだ?」
宰相が言い淀んでいるとゲオルグが口をひらいた。
「マルボロ様はそんな話し方もできるんだな、まるで貴族みたいだ」
お前は空気を読め!それにお前も一応貴族だ!
そのときシンから緊急の念話が届いた。
『モントローに向けて大規模魔法が放たれたようです!注意を!』
俺は反射的にこの部屋ごと空間をロックし固定していた。
轟音が鳴り止んだ途端に辺り一帯砂塵に包まれる。
巻き上げられたダストで視界がきかないがどうやら俺の張った障壁は破られたようだ。
『シン!攻撃はどこからだ!』
『シュミット自由貿易都市にある軍事施設です』
『そんなに遠くから……、二撃目は来そうか?』
『いえ、あの魔導兵器は一度使うとしばらく使用できなくなるようです』
『しばらく監視を続けてくれ』
視界がひらけてくると部屋の半分ほどが消失しており空が目に飛び込んできた。玉座の間周辺の被害が大きいところをみるとそこが魔法の標的にされたようである。この部屋は魔法が飛んできた方向と玉座の間の直線状に位置している。
「マルボロ!ゲオルグが!」
アレスの悲痛な叫び声が鳴り響いた。
ゲオルグが座っていた辺りを目にするとゲオルグの左半身だけが横たわっていた。
彼のもとへ詰め寄り半身をロックして止血する。
ゲオルグを抱き寄せ無駄だと知りながらも彼の名を声が嗄れるまで叫び続けた。




