モントロー公国
マルボロDと入れ違いでやってきたEの影法師を解除しやっと出発することになった。
とはいえ連合国について全くの無知であり土地勘もなかったためガイド兼道案内役として元連合国軍の兵士を呼び出した。
この男は内戦のときにやたらと俺の近くで張り切っていた兵士で印象に残っていたのだ。
「私はアーサー・ギネス、千人隊長を務めておりました」
年の頃三十台半ばといったところだろうか。ブロンドの髪に白い肌、青い瞳の優男であるが話してみると実直そうな人物である。
「家名があるということは貴族なのかな?」
「貴族といっても貧しい国の男爵でしかありません。普段は農業をして生計を立てておりました」
うちの中で唯一教養のあるアレスが言葉を継ぐ。
「男爵の身分で千人隊長を任されるとは凄いね。マルボロ、千人隊長はローゼン王国でいうところの将軍の地位に相当するものだよ」
「手前みそになりますが剣の腕だけはいささか自信がありますので」
話を聞いたところ彼は「剣聖」のスキルをもっていた。それだけ強いのならば冒険者をして金を稼げばいいのにと思ったが、アーサーの出身国であるモントロー公国では貴族の冒険者活動は禁止されているとのことだ。
「ところでアーサーは向こうではどんな生活を送っていたの?」
「擬人化」させた相手には決まってする質問だ。幸いにもこれまでに厭わしい日常を送っている者には出くわしていない。もしかしたら殺したことへの罪悪感を払拭するための行為なのだろうか。
「亡くなったはずの妻と息子に再会することができました。マルボロ様にはどれだけ感謝してもその言葉を紡ぎきれません」
「そうか……、こっちでの用事が終わったら向こうへ戻すからそれまで付き合ってよ」
アーサーの案内でモントロー大公の住まう宮殿までの道程は順調に進んでいった。
あと数刻で目的地に行着くところまできてわかったことはこの国がたいそう貧しいということだ。
公国の民衆に課される税は重く貧富の差が激しい。ここへ至るまでにいくつもの廃村を目にした。税を納めることができずに逃げたのだろうか。
その一方で一部の王侯貴族たちは他国に借金までして贅沢な暮らしを謳歌していた。もはや負債は返せる額を超えており公国の破綻は遠からずにやってくるだろう。
そのせいもあってか魔導列車の線路は公国を迂回するように敷かれており、連合国の中でこの国だけが魔導工学の興隆から取り残されているのであった。
アーサーは祖国の置かれている現状をそう悲しげに語っていた。
宮殿に到着したところすぐに応接間に通されたがかなりの時間待たされている。
アーサーの帰還した知らせは宮殿中をかけ巡り大騒ぎになっているようだ。どうやら大公はバカンスに出かけており不在らしく、なぜかアーサーが申し訳なさそうにしていた。
しばらくしてやっと謁見の間でこの国の宰相と会見することができた。
「ギネス千人隊長、よくぞ戻った。早速で悪いが皇太子殿下のお姿が見えないようだが今はどちらにおられるのだ?」
宰相はまともなようだが酷くやつれ今にも倒れてしまいそうだ。
「殿下はこちらのローゼン王国ヘルムート伯マルボロ・モーリス殿による計らいでかの地で歓待を受けており公国に戻られることはありません」
皇太子があの中にいたとは初耳だが確かに楽園で酒池肉林の限りを尽くしているに違いない。きっと戻れと言われても拒否するだろう。
「そして我々モントロー公国軍一万はマルボロ様の傘下に加わることとなりました!」
宰相は二の句が継げず茫然と立ち尽くしていた。




