出立
ヘルムートを発ってから数刻、遅めの昼食をとり終わってその場で一泊することにした。
とはいっても野営するわけではない。盗賊ギルド自治区のお婆の家をハコに収納してもらい持ってきたのだ。街道沿いでは目立つため街道を逸れてだいぶ離れた場所に家を取り出した。
目的地は連合国の中核をなすシュミット自由貿易都市である。
シンによれば以前のように戦支度をしている様子はみられないとのことから脳筋連中はヘルムート、リーデルに残してきた。
領地の防衛が主な目的だが理由は他にもある。両家の加増された土地の検分を行うためだ。ヘルムートとリーデルの元からの家臣団との軋轢を避けるため、アンロッカーズの面々には加増分の領地を与えることにしたのである。
耕作地の検分は「測量」「高速演算」もちのギュンターを中心に行いその補佐をさせるためにメンバーの大半を置いてきたのだ。
今回帯同しているのは、アレス、レイフ、ゲオルグ、ハコ、ミア、サラだけである。ゼルマンとカイトも連れていきたかったのだがテレサとトーカ、ついでにエマが懐妊中のため二人と(自分が本体だと言い張っている)影法師には残ってもらった。
サクラを連れてこなかったのはユリウス対策のためである。ユリウスが姿を晦ましてからシンたちでさえ居所を突き止められずにいるのだ。俺たちに恨みは無いとは思うが慎重を期すに越したことはないだろう。
早めに宿営することにしたのはとある実験をするためだ。それはこれまで空白になっていた三つ目のスキルについてである。
影法師で分身体を造り一人を残してそれぞれに三つ目のスキルを習得させる。その後に影法師を解除して一体に戻す。そうすれば無限にスキルの習得をできるのではないかというものだ。
「僕はやめたほうがいいと思うよ。結果がまるで予想できない」
慎重なアレスに対して実験好きのゲオルグは賛成のようだ。
「何か覚えるなら俺は錬金術をお勧めする。あれほど奥が深い学問はない!」
「アレス、大丈夫だって。一人は何も覚えさせないで待機させるんだから。不測の事態が起きても対処できるさ」
「というわけで何のスキルを習得するかだが、マルボロBCD何か意見はあるか?」
「レアなスキルもしくは剣術の上位スキルじゃないか?」
「剣術か……、「剣鬼」はいつか手に入れたものはあるがやはりサクラと同じ「剣豪」がいいよな」
「レアなものといえば「ラミア流格闘術」も捨て難いな」
「俺は魔法にするべきだと思う。他の二つも魔法だし」
「それだと一生サクラに勝てなくないか?」
四人の話し合いは尽きることなく続けられた。
その翌朝みなはマルボロABCDにたたき起こされた。
「マルボロ、こんな朝早くから一体どうしたんだい?」
アレスがまだ眠い目を擦りながら尋ねた。
「大変なことになった……、影法師を解除できない……」
「は?」
「一人に戻れなくなった……」




