閑話、とんずら
サクラによる剣術の稽古をいつものようにアレス、ゲオルグ、レイフ、俺の四人でサボっているとそこへ疲労困憊といった様子でマシューが駆け込んできた。
どうやらサクラの目を盗んで逃げ出してきたようだ。大したものである。
もともとアレス、レイフは魔術師、マシューは弓術士のため稽古は免除されていた。だがクリスティーナのお供としてルート、アドミン、スレッドがリーデル伯爵家へ正式に仕官することとなりこの地を離れたため、その補充としてこれまで稽古を免除されていた者も含めて全員参加になってしまったのだ。
「僕は弓術のスキルしかもっていないのにサクラさんが槍で戦えって……、「具現矢」で長い矢を作れば槍として使えるだろ?って……、もう嫌だ……」
サクラは自分が指導した者が強者へと成長していくことに無上の喜びを感じるらしく彼女の稽古は苛烈を極める。
「みんなはどうやってサクラさんから逃げてるの?」
「マシュー、見つかる前にサクラから離れるんだよ。もっとも俺は空へ逃げれるから問題ないけどね」
マシューを不憫に思ったのかみなも秘蔵の逃亡方法を伝授していた。
「僕は「直感」もちだからあまり参考にならないかな。最近では遠くからサクラさんの表情を見るだけでわかるようになったよ」
このこともあってかレイフの「直感」の精度が日増しに上がっているそうだ。
「まず「銀の書」だけを向こう側へ具現させる。次に向こう側から「銀の書」を使って僕自身を召喚する」
意味がわからないので詳しく説明してもらったところ、アレスのいう向こう側とはこの世とあの世の狭間にある精霊や悪魔などの住処のことらしい。
一度死んで今の体質になってから出来るようになったようだが、アレスによると狭間の世界へ渡ったことによって今では精霊に近い存在になってしまったと事も無げに話していた。
「俺は錬金術で作った姿を気配ごと隠す薬品でやり過ごしてるよ」
「なにそれ凄い!僕にも売ってよ!」
「まだ試作段階で俺以外が使用すると危険だから無理」
ゲオルグは自分の作った薬品をゴブリンを実験体に調べているらしいが結果は散々なようで、体中の穴から出血したり、膨らんで破裂したりと失敗続きだそうだ。
そんな失敗作でも何故か自分で使うと問題なくその効果が発揮されるとのことである。
「お前そんなものをよく自分で試そうと思ったな……」
「いやー、俺もついこの間までは死なない身体だったからね。そのときに自分に害が無いことは検証済みさ」
ゲオルグの作ったポーションを何度か使用したことがあったが今後口にするのはやめよう。
「僕には出来ないことばかりだ。一体どうすればいいのか……」
マシューは思索に耽っていたため気づかなかった。
「何を悩んでいるのですか?」
「何をってサクラさんの稽古から逃げ出す方法だよ」
「ほお、私から逃げ出す方策を考えていたのですか」
「え?」
振り向くとみなの姿は見当たらずサクラだけが微笑を浮かべて佇んでいた。




