謁見
国王との謁見はヴォルフガングの件やシュミット商業連合国との戦後処理がまだ終わっていないこともあり略式で執り行われた。
ヴォルフガング・ヴェルナー侯爵は国権乱用という曖昧な罪状で処分されることが宰相のクロウリー侯爵(NEW)から公表されたが、他の領主たちもある程度は事情を察しており疑問の声が上がることもなかった。
故人であるヴォルフガングは伯爵に降格されて領地の大半を失い嫡男が跡を継いだが、まだ幼いこともあり成人するまでは子爵としてクロウリー侯爵預かりとなった。当初ユリウスに襲爵の打診があったが彼はこれを頑なに固辞し下野した。
一方大公及びそれに与した者たちの領地であるが本領を安堵された者はおらず、大公領はマルボロに、その他を王国側についた領主たちに分配することとなった。
そしてヘルムート、リーデル両家はというと領地を大幅に加増された。そのわけは大公領を授与されたマルボロと伯爵として領地を賜ったぜルマンが領地を返納したのでマルボロ一派とみなされている両家で他との兼ね合いをとったためと思われる。
ゼルマンは平民からいきなり領主になって堅苦しい生活を送るよりもマルボロの家臣として気楽に冒険者家業を続けたかったから、マルボロは大公になどなりたくなかったからといういかにもお気楽な理由から国王からの恩賞を辞退したのだ。
国王はマルボロになんとか褒美をとらせようと食い下がる。いまだ連合国と緊張状態にあるローゼン王国は一国の軍隊にも匹敵するマルボロ派閥を取り込まねばならなかったのである。そのために一つでも多くマルボロに恩を売り枷としたかったのだ。
「お主も頑固だな!やると言っておるのだから貰っておけ!」
「いえ、二度と反乱など起こさせないためにも大公領は王家の直轄地とし力と財を貯えるべきです」
諸領主たちは二人の問答を半ば呆れ顔で傍観している。それとともにマルボロという次期ヘルムート伯爵になる少年を彼の思惑とは裏腹に欲のない人物として好意的に受け止めたようだ。
「はあはあ……、それではこうしよう。連合国との戦後処理をマルボロに一任する。その交渉で領土でも金銭でも何でも奪ってくるがいい。それを此度の内乱でのマルボロの働きに対しての恩賞とする。以上だ!」
国王はぷんぷんしながら部屋をあとにした。
「アレスパパ!自分には荷が重すぎます!陛下を説得してください!」
「国王陛下の戦後交渉を君に任せるというお考えには私も賛成だ。あきらめなさい。それからアレスパパ呼ばわりはやめろ!」
「アレスパパ、何とかしてやったらどうです?」
「そうですよアレスパパ、このような少年一人を敵地に赴かせるのは忍びないですよ」
「アレスパパ、戦後交渉は宰相であるあなたが相応しいのでは?」
「これは決定事項だ!解散!」
他の領主たちの援護射撃もアレスパパには届かなかったようだ。
こうしてマルボロはローゼン王国の全権大使としてシュミット商業連合国へ赴くこととなった。
防衛のためアンロッカーズの大半は残していくつもりだがマルボロに不安はない。
国外へ初めて出るマルボロにとっては物見遊山に出かけるようなものである。
さて、誰を連れて行こうか。




